ひまわり連合自治会防災会
(北海道札幌市)
事例の概要
札幌市では、冬季の最低気温が氷点下15度まで下がり、最高気温が0度を下回る真冬日は 50日を数え、降雪量累計は5m、最深積雪は1mに達する。このような厳冬期の大災害発生に備え、ひまわり連合自治会防災会では、個々の住民や自主防災組織が自分たちの生命と地域を守るための災害対応能力向上を目的に冬季防災訓練を実施している。
■内容
- 1.避難所宿泊体験訓練
冬期間、道内で災害が発生し、電気・ガス・水道等のライフラインが断たれた場合、厳しい寒気は、住宅が倒壊し、行き場を失った被災者の生命を容赦なく奪ってしまうだろう。どのように酷寒と飢えを凌ぎ、住民が相互に助け合って生命を守るか、寒冷地の自主防災組織にとって、大変に大きな課題である。
この訓練では、冬の避難所の状況を体験し、実際の災害に備えるため、参加者は同自治会防災会本部が設置される「ひまわり会館」において、電気・ガス・水道を遮断、照明・暖房が停止し室内の気温が氷点下近くまで下がる過酷な環境の中、各自が自宅から持参した寝袋や毛布に包まり、アルファ米や乾パン等の非常食を使用した炊き出しを行い、災害発生時に予想される最悪の状況下での宿泊を体験している。
この訓練は、平成12年から毎年実施しており、平成17年で6回目を数える。年を追うごとに住民相互の連携が強まった他、非常物資の備蓄を行うなど「日ごろの備え」を自主的に進める家庭が増えた。また、マスコミの取材や見学者を受け入れる機会も増え、市内の他の町内会の意識啓発にも大きく寄与している。 - 2.災害図上訓練
厳冬期に大地震が発生した場合に、町内でどのような被害が発生し、住民がどのような対応を行えばいいのかを検討し、災害対応能力を向上させることを目的に、平成17年から冬季防災訓練の中で実施している。
参加者は、厳冬期に震度6の地震が発生したという想定のもと、白地図により町内の避難場所、危険箇所、吹雪による吹き溜まりが発生する箇所、防災資機材の保管場所などの情報を相互に提供し、発生が予想される建物の火災・倒壊、道路の寸断等の被害について確認した上で、進行役から逐次付与される状況の変化にどう対応するか検討・議論を行っている。 - 3.普通救命講習
大規模災害が発生した場合、住民が力をあわせて近隣の負傷者を速やかに救出・救護する必要があり、特に厳冬期はその重要性が増すことから、心肺蘇生法を中心とした普通救命講習を毎年開催している。
現在、同自治会防災会役員等の大半が普通救命講習を修了し、さらに習得した知識・技術を深めるために、再講習にも積極的に取り組んでいる。
宿泊体験訓練(炊き出し)
宿泊体験訓練(炊き出し)
災害図上訓練(全体風景)
災害図上訓練(議論)
災害図上訓練(地図への書き込み)
宿泊体験訓練(就寝)
宿泊体験訓練(就寝)
サバイバル訓練
苦労した点
避難所宿泊体験訓練は、住民がそれぞれ持ち寄ったものを工夫して避難所生活を体験するという趣旨で始めたが、参加者の予想を超えるほどの過酷な状況で、戸惑いが生じた。しかし、回を重ね、会報誌「防災通信」等で防災に関する知識の普及を図るにつれ、住民それぞれが主体的に考え、避難所生活に必要なものを適確に準備・持参するようになっていった。
また、気温が零度近くまで下がる過酷な状況での訓練であるため、高齢の参加者については事前に健康状態をチェックし、訓練が開始してからも体調を崩すことのないよう、注意を払わなければならなかった。
特徴
避難所宿泊体験訓練に参加することで、厳寒の中での災害対応の感覚をつかみ、住民自らが「冬の災害に備えて何を準備しなければならないか」を考え、実行に移すきっかけとなる。
災害図上訓練においては、参加者一人一人が「自分たちの町が災害に見舞われ、寒さや降雪と対峙しながら防災活動を行う」という仮想の中で、災害時に役立つ情報を持ち寄り、共有することで、自分たちの町の災害に強い点・弱い点、発生し得る災害、どう行動すればよいのか等を知ることができる。
また、住民同士の親密なつながりが、平常時・災害発生時のいずれにおいても自主防災活動に重要であるが、避難所宿泊体験訓練・災害図上訓練等、各種訓練への参加が、住民相互の連携、人の輪(和)の形成を促進している。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 高野公男(東北芸術工科大学デザイン工学部教授))
拓北のまちは札幌市の北の郊外、JRで20分ほどのところに位置している。1960年代に札幌市のベットタウンとして開発され、その後発展した町だ。駅を中心に新旧様々なタイプの寒冷地仕様の戸建て住宅が建ち並び、北海道らしい落ち着いた住宅地景観を呈していた。道路際や公園にはまだ高さ数10センチもの雪が残っていた。3月だというのにまだ肌を刺す寒さだった。厳冬期には吹雪く日もあり、気温も氷点下15度まで下がるという。厳冬期に災害が起きたらどうなるのだろうか。電気・ガス・水道等のライフラインがたたれ、住宅が倒壊した場合、寒気は容赦なく行き場を失った被災者の命を奪ってしまうだろう。平成12年から実施された「ひまわり連合自治会防災会」の「冬季サバイバル訓練」は、住民のこうした切実な問題意識から始まった。小学生も一緒になって寒気を避ける雪洞づくり、電気、暖房、水道のない町会会館での一泊体験訓練など、工夫を凝らした防災訓練が毎年継続的に実施されている。冬季に雪捨て場ともなる公園は一時避難場所としての機能に制約がある。避難所として想定されている体育館も電気が止まれば暖房は効かず、暖を確保する別途手段を工夫しなければならない。冬季の防災訓練を通して様々な問題が浮かび上がった。そして、これらの課題は札幌市の防災計画にも反映されるようになった。このような厳冬期の防災訓練は、おそらく全国でも初めての試みであり、このひまわり連合自治会の経験は雪国や寒冷地の防災対策のモデルとなるだろう。専門家も加えて諸課題を検証し、ツボを得たわがまちの防災マニュアルができるとよいと思う。「人の輪を広げていくことが防災の基本だ」という防災会リーダーの人たちの言葉が印象に残った。
団体概要
阪神・淡路大震災を契機として「自分たちのまちは自分たちで守る」をスローガンに、平成9年5月、北区拓北地区の5町内会によって設立された(翌年さらに1町内会が加盟)。
以降、毎年秋季防災訓練や普通救命講習等の防火・防災活動を自主的かつ積極的に取り組んでいる。さらに平成15年からは秋季防災訓練に発災対応型訓練を取り入れている。
また、平成14年7月には札幌市消防局の「防火・防災まちづくりモデル事業」のモデル地区に選定された。
平成17年9月現在の町内会加入世帯数は1,708世帯である。
実施期間
平成12年~