高校生防災お助け隊
(愛知県名古屋市)
事例の概要
■経緯
名古屋市は、平成14年4月に東海地震に関する地震防災対策強化地域に指定されるなど、東海・東南海地震の危険性が叫ばれている。そのような状況下で、「高校生防災お助け隊」は、名古屋市消防局が行った防災講座を受講した高校生を中心に、防災を「自分達の課題」ととらえ、自分達の視点で防災に取り組もうということで、名古屋市内7校(愛知、愛知淑徳、市邨、椙山女学園、東海、東邦、南山の各高等学校)の高校生20名により、自主的な防災活動グループとして平成16年5月に結成された。
■内容
- 1.目的
災害時に自分の身は自分で守ることができるよう、又、自主防災組織の一員として、自らの体力を活かして、それぞれの地域で自主防災活動を行うことができるよう、平常時に次のことに主眼を置いて活動している。- ・防災に関する様々な知識や技術の習得
- ・同世代の高校生などへの防災の普及啓発
- 2.主な活動
個人の自由意志で参加する課外活動であるサッカー部などの通常のクラブ活動のように、防災をテーマとしてクラブ活動をするというコンセプトで、名古屋市消防局と連携し、上級救命講習や救助講習などを受講するとともに、同世代の高校生を対象とした防災講座の開催やイベント等での防災普及啓発活動を行っている。- (1)上級救命講習の受講(平成16年6月、平成17年7月)
心肺蘇生法、AED(自動体外式除細動器)取扱い方法、一般の人への教え方のコツなど - (2)救助技術講習の受講(平成16年7月、平成17年7月)
ジャッキ等を活用した倒壊家屋からの救出要領、応急担架の作製方法、搬送法など - (3)災害図上訓練(DIG)の指導技術の習得(平成16年7月、平成17年6月)
災害図上訓練の進行要領、必要な知識の習得など - (4)徒歩帰宅訓練の実施(平成17年6月)
帰宅困難者になったとの想定でJR名古屋駅を出発点として実施 - (5)高校生を対象とした防災講座の開催(平成16年7月、平成17年7月)
高校生お助け隊が企画し、自ら講師役となり、一般の高校生を対象とした「知って生き延びる!防災講座」(災害図上訓練、応急手当・救助訓練、地震体験、非常食体験、避難所体験、防災運動会、サバイバル教室)を実施 - (6)防災人形劇の開催(平成17年7月)
「稲むらの火」を題材として、幼児・児童約100人に対して防災人形劇を実施 - (7)市民総ぐるみ総合防災訓練に参加(平成16年9月)
ネクタイ、段ボールなどを活用した骨折処置方法などの普及啓発を実施 - (8)「市民消防・防災ひろば」に参加(平成16年11月、平成17年11月)
消防局主催のイベントに参加し、乾パンダンゴの作り方(乾パンを細かく砕いてダンゴ状にして高齢者等でも食べ易くするもの)などの普及啓発や防災人形劇を実施 - (9)冬休み防災勉強会の開催(平成17年1月)
空き缶等を使った非常用コンロや安全灯の作り方などのサバイバル教室を名古屋市港防災センターで受講 - (10)「防災&ボランティアフォーラム」に参加(平成17年1月)
愛知県・名古屋市等共催のイベントに参加し、非常用コンロの作り方などの普及啓発を実施 - (11)その他
活動の企画や事前準備などの会議、打ち合わせを実施
- (1)上級救命講習の受講(平成16年6月、平成17年7月)
- 3.今後の予定
- (1)高校生防災お助け隊のホームページを開設
- (2)高校が行っている土曜講座などでの防災講習会の実施
- (3)研修会の実施(神戸市「人と防災未来センター」)
消防広場(人形劇終了あいさつ)
消防広場(ペーパークラフト)
子供用制服試着
上級救命講習受講
防災講座(応急手当要領指導)
防災講座(救助要領指導)
防災講座(非常食体験)
防災人形劇
苦労した点
- 1.高校生の防災への関心度があまり高くない、テストや勉強等で時間的な制約がある、高校が違うためテスト期間等がバラバラでスケジュールが合わない、大学受験や卒業といった問題があるため、当初は活動を行うために必要な人数がなかなか集まらなかった。
しかし、身体を使って楽しく行うことができる内容を取り入れるなど活動に工夫を凝らす、友人等のネットワークを活用するなどにより、年間を通じて継続して活動を行うことができた。 - 2.高校生の年代は、学校を中心とした生活であり、自分の身内や学校の先生以外の大人と接する機会があまり無いなど社会や地域と接することがあまりなく、自分達も社会や地域の一員であるという認識に欠けていたため、社会や地域とのつながりの中で活動していくこと自体が大変であった。
しかし、活動を通じて様々な人達と接することにより、大人や子供達との接し方を学び、高校生だからこそできることがあるという意識や役割を自覚するようになった。
特徴
- 1.通常の災害ボランティア団体のように被災した他都市へ出向きボランティア活動を行う組織ではなく、生活の場としての名古屋に注目し、平常時には防災知識・技術の習得と普及啓発活動を、また、災害時には自主防災組織の一員として自らの体力を活かして、自分の住む地域でそれぞれ救助活動等を行うための組織である。
- 2.お助け隊が自ら防災講座を開催し、講師役となる活動を行っているので、知識・技術に加え、人に対する話し方や教え方も習得することができ、自分達のレベルアップを図ることができた。
- 3.災害時にはまず、「自分の身は自分を守る」ことが大切であるが、活動を自分達で考え企画し実施することを通じて、自分達で考えて自ら行動するという自立した考え方を育むことができた。
- 4.お助け隊の高校生が、一般の高校生に対して防災の知識・技術を教えているため、通常の大人が行う取り組みよりも一般の高校生は参加し易く、また、同世代の言葉には耳を傾けやすいため効果的な普及啓発を行うことができた。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 金谷裕弘(総務省消防庁国民保護・防災部防災課長))
名古屋市消防局で、「高校生防災お助け隊」の会長と、前会長にお会いした。「お助け隊」は、平成16年に、名古屋市消防局の防災講座に参加した高校生たちが、学校の枠を越えて集まった自主的な防災グループである。防災をテーマとしてクラブ活動のような形で活動することをコンセプトとしているが、学校の枠を越えて活動するだけに、なかなか大変なことも多く、例えば、日程調整も、テストの時期などそれぞれの学校の行事等の日程を気にしながらの調整となり、また活動の拠点が部活動のように無く、集まることだけでも「苦労」とのことだ。しかし、高校生が高校生に防災の知識を伝えるという「同世代」による啓発活動は、若い世代に抵抗無く受け入れられ、大人が行う取り組みより、ひと味違ったものになっていると感じた(名前には「高校生「を」助けたい。」の意味もあるとのこと。)。名古屋市の総合防災訓練では、非常食レシピとして、お年寄りや子供に乾パンを食べやすくするため、砕いて味も付けた「乾パン団子」を考案し出展したところ、市長も試食して、興味を持たれたとのことである。3年間という限られた期間の中で、確実に、次の世代に活動を受け継いでいくことも、大きな課題ですが、こうした苦労にもくじけることなく、新会長は、さらに大きなことにチャレンジしたいと意欲は満々である。最初は、少し、緊張していたが、緊張がほぐれてくると、いろいろなヴィジョンを語ってくれた。新会員募集のためにチラシを作ったり、人形劇をさらに発展させていったり、支部を作るといった活動の一端を話してくれた。高校生であるが故の限界も多いと思うが、高校生でなければできないこともたくさんある。そうしたところに、ますますチャレンジしていただき、この輪がさらに広まっていくことを期待する。
団体概要
- ・ 隊員数:9校の高校生等41名(会長1名、副会長2名)
- ・ 隊員の内訳:1年生7名、2年生23名、3年生10名、中学3年生1名(男子23名、女子18名)
- ・ その他:7月の防災講座終了をもって、3年生は受験等があることから、1・2年生を中心とした新体制へ移行する。
※平成17年10月末現在
実施期間
平成16年~