第10回防災まちづくり大賞(平成17年度)

【消防科学総合センター理事長賞】「温泉観光地区として、安心・安全の提供という地域貢献」~救急ステーション制度の推進~

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湯本温泉旅館協同組合
(山口県長門市)

事例の概要

■経緯

 県内でも有数の良質な泉源を有する湯本温泉地区は、長門市における重要な観光資源であり、年間観光客はこの地区だけでも年間100万人にも上る。
 観光客の方々へ安心・安全を提供することは旅館業として当然との責務から、従来から地元消防本部と協力し、消防設備の設置、維持管理及び消防訓練の定期的な実施等火災予防に関して力を注いできたところである。
 このような中、湯本温泉旅館協同組合オーナー会議において、地元消防本部から「湯本温泉地区は、旅行客の急病等による救急要請が年間100件程度発生している。また、救急車が現場到着するまでに5分以上要する地区であり、この間に適切な応急救護を行うか否かで救急患者の予後が大きく左右される。これら救急患者の早期発見、空白の時間(救急車が現場到着するまでの応急手当が実施されていない時間)の解消、発症からの病院到着時間の短縮のため、事業所関係者が救急を理解し、各事業所における総合的な救急支援体制を整備するための救急ステーション認定制度を発足させたいので、協力いただきたい」との要請があり、「各事業所における利用客の皆様への安心・安全の提供はもちろんのこと、湯本温泉旅館協同組合全体としてこの事業に取り組み、応急手当のできる地区の防災リーダーを育成し、「安全、安心のまち・長門」をPRしていくことにより、長門市の主要産業の1つである観光産業に貢献する」との考えにより、全会一致で組合全体として取り組むこととなった。

■内容

 救急ステーション認定制度は、多くの利用者等が出入りする旅館・ホテル及び店舗等の事業所おいて救急事案が発生した場合に、事業所関係者が「素早い通報、適切な応急救護、救急隊の誘導、搬送経路(エレベーター等)の確保、担架搬送支援等」を行い、地域救急に貢献するという長門市消防本部の独創的な制度で、平成15年9月9日(救急の日)に制度が発足され、市内31事業所が救急ステーションとして認定された。
 このうち湯本温泉旅館協同組合加入事業所においては458名が救命講習を受講、12事業所が認定された。

■経過

 平成16年7月、心肺停止傷病者の救命率の向上には早い応急手当が欠かせないことから、救急ステーション認定制度が山口県救急業務高度化推進協議会の重点事業となり、山口県全体への普及開始。認定証交付は地元消防長との連名となり、湯本温泉地区事業所も再認定を受ける。
 平成17年7月、非医療従事者によるAED(自動体外式除細動器)の使用が可能となったことを受け、救急ステーション認定制度が改正、新たに「AED設置救急ステーション」の区分が設けられる。湯本温泉地区の4事業所(市内全体では5事業所)が率先してAEDを設置し、「AED設置救急ステーション」として認定される。
 平成17年9月現在、市内の62事業所(旅館、郵便局、福祉施設、給油取扱所、タクシー会社、駅、店舗等)が救急ステーションとして認定されており、山口県内では長門市内事業所を含む102事業所が救急ステーションとして認定を受けている。

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ホテルフロントに認定証掲示

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郵便局に認定証掲示

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救急手当資器材

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救急ステーション救命講習

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救急ステーション表示マーク

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ポストメディックのマーク

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救急ステーション関係者によるAED取り扱い

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応急手当資器材を積載している集配車

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救急隊の装備

苦労した点

 旅館業という職業柄、利用客への安心・安全の提供は、火災予防の観点においては常日頃からの意識付けがあるものの、救急(応急手当)に関しては、「いざというときに自分たちにできるのか」という不安が従業員にあった。しかし、制度発足から幾度も救命講習を再受講した者も多く、着実に自信を持つようになっている。
 認定要件である「救命講習修了者を70%以上確保」については、ハードルの高さはもちろんのこと、様々な勤務体制の中から日程を調整していく苦労があったものの、各事業所従業員の強い職業意識により助けられた。
 制度発足当初は、応急手当資器材の設置は事業所負担であったが、少額とは言え各事業所関係者の厚い理解に助けられた。また、AEDを設置された事業所は、更に高度な応急手当を従業員に習得させる苦労と、高額な医療機器の購入費確保に苦労されたことと思われる。
 本制度は、年毎に充足状況を確認するものであるため、救命講習修了者を継続的に養成確保し、また、応急手当技能の維持向上のため、再講習を行うことは、今後とも継続して苦労する点と言える。

特徴

  • 1.救急ステーション認定制度は、他の地域でも同様の制度は存在するものの、これほど厳しい条件下で実施されるものは類がない。また、従業員の役割分担により、スムーズな応急救護活動を実施することで、発症から救急車病院搬送開始までの時間短縮や傷病程度の軽症化に貢献できる。
  • 2.湯本温泉地区だけで4事業所がAEDを設置しており、また、この様な制度下にAEDを設置している事業所は他にないものと思われるが、本制度が基盤にあってこそAEDの有効利用につながるものと確信する。現在、地元消防本部においてAED購入費の助成に関する要綱が検討されているとのことであり、これを活用し、今後更にAED設置救急ステーションの増加を目指す。
  • 3.県内への普及要領は、各地区単位(温泉地区等)で普及が図られているが、当組合が、一地区として取り組んできたことが評価され、制度拡大普及の一助となっている。
  • 4.当組合も参加する本制度とポストメディック制度(集配中又は局舎内での救急発生時に、郵便局員が応急救護活動を行う制度で、平成14年9月9日に発足)の普及発展により、長門市消防本部が「2004年度毎日・地方自治大賞、特別賞」を受賞された。
  • 5.本制度に継続的に参加し、ポストメディック制度と共同して、地区における生涯教育として確立することにより、大規模災害時には、これら制度参加者や各事業所が自主的に地区のリーダーとして機能することを目標とする。
  • 6.救急ステーションとしての活動により、旅行客の方々から感謝や制度への評価をいただき、観光客のリピーター増加に繋がるものと確信する。今後、ホームページやパンフレット等を通じて、安心・安全の湯本温泉地区を全国に発信し、更には長門市の観光産業全般に貢献していく。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 野村 歓(日本大学理工学部建築学科教授))

 日本海に面する山口県長門市にあり、旅館12軒で一日約3000人が宿泊できる湯本温泉では、年間約100件程度の救急出動要請があるにもかかわらず、救急車の現場到着までに8分近くかかることから、長門消防本部の要請を受けて、温泉協同組合は平成15年9月に「救急ステーション認定制度」に協力することになった。この制度は旅館・ホテル・GSなどの多くの利用者が出入りする事業所に対して「素早い通報、適切な応急救護、救急隊の誘導、搬送経路の確保、担架搬送支援」を行い、地域救急に貢献するという長門市消防本部の独創的な事業である。
 「救急ステーション認定制度」の認定を受けるには、従業員の70%以上の者に対し一定時間の講習が義務づけられるが、旅館従業員が「温泉を楽しみに来るお客さんのためには重要なことだから」と積極的に参加することで順調に成果を収めてきた。また、平成16年7月に心肺停止傷病者の救命率の向上のために「救急ステーション認定制度」が山口県救急業務高度化推進会議の重点課題となり新たな認定を受けることになる。さらに、平成17年7月には非医療従事者によるAED(自動体外式除細動器)の使用が可能になったことを受け、新たに「AED設置救急ステーション」としても認定された。当該制度による設置事業所は長門市内には5事業所であるが、そのうち4事業所が温泉協同組合の構成員である。各事業所が高価な機器を自費で購入・設置するなど非常に前向きに取り組んでいる。AEDは実際にまだ稼働をしたことはないが、これがあることによって、また常に訓練をすることによって、従業員の高い安心感を得ている。
 楽しみに来ている観光地で生命に関わる事故に巻き込まれることはあってはならぬことであり、このような取り組みが全国的に展開されることが望ましい、と考えて今回の賞の対象とした。

団体概要

  • ・ 湯本温泉旅館協同組合:構成団体13事業所(従業員455名、平成17年9月9日現在)
  • ・ 年間観光客:約100万人

実施期間

平成15年~