由岐町(徳島県)
事例の概要
■経緯
由岐町は徳島県の南部に位置する、海と山に囲まれた風光明媚な町である。人口は近年の急速な過疎化、少子高齢化により3,500人を下回り、地域の体力は次第に低下しつつある。このような背景のもと、本町では平成13年に地域住民と行政との協働によるまちづくりを模索する地域担当職員制度を創設した。この制度は、一般行政職員34名を町内8地域にそれぞれ3~5名ずつ配置し、地域住民と協働により地域課題を克服し、地域を持続させていく仕組みや事業に取り組む制度のことである。さらにこの制度のほか、由岐町まちづくり参加条例、由岐町地域づくり推進条例を制定して協働によるまちづくりを体系化し、地域の持続と、その先にある地方自治・地域自治を目指して努力している。
この協働のまちづくりを推進する中で、地域の大きな課題の一つに南海地震対策がある。というのも、由岐町は過去に何度も南海地震によって甚大な被害を受けてきたからである。そのため、地域住民が主体となって自主防災組織を結成し、現在、組織率は約90%に達した。それに対して町では、平成15年11月に防災対策チームを結成した。この防災対策チームは、各地域の地域担当職員の代表と、各課の代表で構成しており、地域の自主防災活動のバックアップや、各自主防災組織が持つ防災上の課題を、熟度と緊急性に応じて解決する組織である。各地域の自主防災組織と防災対策チームとの協働によって、防災に関する地域と行政との役割の明確化が図られ、協働による様々な防災対策が展開されてきた。以下、その活動内容を記す。
■内容
- ・ 自主防災学習会
- ・ 自主防災組織独自の防災訓練
- ・ 防災整備計画策定に関するタウン・ウォッチング
- ・ 防災整備計画の策定
- ・ 役場庁舎の外階段の新設
- ・ 共助による津波避難場所の整備
- ・ 津波避難場所検討に関するタウン・ウォッチング及び結果検討会
- ・ 津波避難マップの作成
- ・ 津波浸水高表示テープの設置
- ・ 避難誘導看板の設置
- ・ 住宅の耐震性向上と迅速な避難に関する調査
- ・ 家具の転倒防止プロジェクト
- ・ 徳島県立防災センター見学ツアー
- ・ 地域のチカラで備蓄
- ・ 防災と健康づくり
- ・ 防災ウォークラリー
- ・ 防災ずきんの製作
- ・ 由岐中学校での防災教育
- ・ 被災後の対応を考えるワークショップ(町職員対象)
- ・ 災害ボランティア・シミュレーション
- ・ 由岐町自主防災組織連合会の設立
このように、自主防災組織等と行政が協働で、様々な防災活動を展開してきたが、まだまだ地域間の温度差も残っている。そこで平成17年9月に、自主防災活動の広がりと持続を目指して由岐町自主防災組織連合会を設立した。この中で地域間の連携や、防災と福祉、防犯との融合を模索している。さらに今後、由岐町では防災まちづくりを出発点として様々な地域づくりに派生させ、地域自治へ発展していくよう、住民と行政が協働で努力していく予定である。
防災ずきんの製作
共助による津波避難場所の整備
津波避難マップ
津波浸水高を示すテープの設置
タウンウォッチング検討会の様子
タウンウォッチングの様子
避難誘導看板の設置
自主防災組織独自の防災訓練(消火器訓練)
中学校での防災教育
家具の転倒防止プロジェクト
共助による津波避難場所の整備
苦労した点
以前の由岐町における防災事業は行政主導型・行政依存型で、行政が実施する、もしくは行政に押しつける状況であった。また自主防災組織も名ばかりで、実情は行政に対する圧力団体的な役割がほとんどであった。この体質を変えるには並大抵のものではなく、地域も行政も意識改革が必要であった。まず行政としては、できるだけ情報公開に努め、地域住民の方々と共に考えていく姿勢を取った。また、地域担当職員が各地域の抱えている悩みやつぶやきを交通整理することにより、少しずつ「自助・共助・公助」の役割の切り分けができるようになり「自主防災組織がすべきこと」、「行政がすべきこと」を協働で実施するようになってきた。しかしながら、この協働関係はまだまだヨチヨチ歩きの段階である。この協働関係がさらに地域全体に根付くように、町全体で努力していく。
特徴
由岐町の防災まちづくりは、どこの市町村でもよくありがちな行政主導型・行政依存型の防災事業を改め、地域住民と行政との協働関係を築き上げることに力点を置いている。そして、防災まちづくりをマクロな視点から見ることによって、その先にある地方自治・地域自治を目指している。その具体的な方策が自主防災組織の活性化と防災対策チームの結成である。つまり、防災のべ一スは自主防災組織であることを認識した上で、行政が自主防災活動を的確にサポートする、ということに努めてきた。その歯車が上手くかみ合うことによって様々な防災活動を展開し、地域の防災力を確実に向上してきた。さらにその活動は広がりを見せ、婦人会活動や学校教育における防災教育の導入など、着実に防災まちづくりから地域づくりへと前進しているところである。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 金谷裕弘(総務省消防庁国民保護・防災部防災課長))
事例名のサブタイトルに「住民と行政による協働の防災まちづくり」とあるが、実際は「住民の自助、共助・協働による防災まちづくり」を行政が公助しているような感じすら受けた。
住民の行政主導型・行政依存型の防災意識を、この数年の間に、「災害時行政が単独で行うことには限界がある。」と言うこと、そのことから、「自主防災組織等住民は何をしなければならないのか。」といった考え方が住民の意識の中に根付いた事は、並大抵の苦労ではなかったと思う。自主防災組織のリーダーや、町内会長の意識が変わり、住民が自分たちで考え、行政に対して防災に関するいろいろな提案をしたり、自分たちで実行していく姿に行政は翻弄された面も多々あったようだが、見事に行政主導・依存型から脱却できているのではないかと思う。
成功の秘訣は、住民との意思の疎通が充分できた事、住民の提案等に行政ができる限りのことを着実に行ってきたことではないかと思った。
私が現地に行ったときには、地域の人たちの都合の良い日に合わせた「自主防災デー」が開かれる日であった。このとき町の担当者が、漁協のマイクを使い参加を呼びかけると小・中学校の先生と生徒全員、漁協の組合長をはじめ手押し車を押したおばあさんまで地域の人が総出で参加しており、意識の高さに驚いた。
今後は、合併し新しい町として出発するようだが、新しい町でもこういった活動を継続していくとともに、こういった活動事例を、近隣の市町村にも広めていって欲しいと思う。
団体概要
- ・ 由岐町 人口:3,423人
世帯数:1,345世帯 - ・ 防災対策チーム:17人
- ・ 自主防災組織:8組織(組織率90%)
- ・ 自主防災組織連合会:27人(各自主防災組織もしくは町内会会長、消防団幹部、総務課、杜会福祉協議会事務局)
- ・ 婦人会会員数:585人
- ・ 由岐中学校(本校)生徒数:85人
※数字は平成17年11月1日現在
実施期間
平成15年~