第10回防災まちづくり大賞(平成17年度)

【消防庁長官賞】やさしい日本語で伝えたい 災害時のわかりやすい情報伝達を目指して~災害時要支援者を救うためのFMアップルウェーブの取り組み~

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アップルウェーブ株式会社
(青森県弘前市)

事例の概要

  • 1.甚大な被害をもたらす災害は後を絶たない
     災害時の犠牲者の多くは、高齢者や外国人等の災害時要支援者であり、避難情報発令の遅れ、情報伝達の在り方、災害時要支援者の避難支援などが大きな課題となっている。
  • 2.“やさしい日本語”の必要性とFMアップルウェーブの取り組み
     FMアップルウェーブ(産)は、弘前大学(学)、弘前市役所(官)、キャスト(NPO)などと平成14年4月に減災のための“やさしい日本語”研究会を立ち上げ「弘前市で災害が起きたときに、必要な情報をわかりやすく伝えるにはどうしたらよいのか」を協働で研究してきた。
     3年間の様々な検証の結果“やさしい日本語”は災害発生のパニック状態にあっても、極めて有効な情報伝達手段であることが実証された。発災時の情報は的確かつ適切でなければならない。一人でも多くの人が理解できるよう日本語をやさしくする。災害発生時には、その“やさしい日本語”が多くの命を救い、被災者の心の負担を軽減する。
     “やさしい日本語”はコミュニティで生活する様々な人に有効であり“やさしい日本語”による情報の伝達は日常から行われているべきであるとの考えから、FMアップルウェーブは、コミュニティで生活する人のためのわかりやすい情報伝達手段の構築に向け、平成17年1月から“やさしい日本語”を用いた番組『やさしい日本語で伝えたい暮らしの情報ランド』を毎日放送している。
     また、“やさしい日本語”による災害情報提供や阪神淡路大震災が発生した1月17日前後には『グラッときたらまずラジオやさしい日本語で伝えたい』という特別番組も毎年実施している。
     さらに「新版・災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル」刊行への協力なども行ってきた。
  • 3.FMアップルウェーブの防災・減災への取り組み
     平成12年3月に、地元のコミュニティFM局として誕生したFMアップルウェーブは「地域の防災」を会社の理念の一つに掲げ、市民に安心と安全を提供できるよう地域の防災力向上のため、これまで数々の取り組みを行ってきた。
     ハード面では、災害時の緊急放送維持のため、停電に備えた無停電電源装置及び発電機の設置、緊急割り込み放送設備の設置、各種無線中継機材の整備、弘前消防署との自動発信ホットラインの確保などの整備を行ってきた。
     一方ソフト面でも、災害時等の危機管理マニュアルや緊急時スタッフシフト表を常備しているほか、防災に関する放送事例として①日常からの防災啓蒙番組『おしえて11Q』や②救急の日、防災の日に合わせた災害・防災特別番組の放送③火災発生に伴う消防車両出動情報の提供などを行っている。
     平成14年3月に弘前市と締結した「災害時等における放送に関する協定」に基づき、台風や大雨の際には市民に災害情報を提供しているほか、弘前市総合防災訓練への参加及びその中継による市民への広報、弘前市内の避難所など94ヶ所への手回し充電機能付きラジオの設置なども行っている。
     また、平成17年9月には「市民が主役災害に強いまちづくり」と題した地域防災フォーラムを主催し、市民や防災関係者の意識啓発を図るとともに防災力の向上に努めた。
     さらには「防災パンフレット“やさしい日本語版(弘前大学人文学部社会言語学研究室編著)の”」刊行と毎戸配布を平成18年春の実施に向けて準備を進めている。
  • 4.FMアップルウェーブの今後の防災・減災への取り組み
     FMアップルウェーブは、今後も弘前市を減災モデル都市(地域住民や観光客の安全に配慮した都市)として位置付け、情報から隔絶される発災直後であっても災害時要支援者に適切な情報を的確に伝えられるコミュニティを作っていこうと考えている。弘前が、被災者の心理的負担を軽減できる減災モデル都市となることで、全国の行政機関、マスコミ、ボランティアに、災害時の情報伝達は“やさしい日本語”によるものが有効であることを提案していこうとしている。

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パネル

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検証会場全体写真

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検証風景(小学生)

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起震車体験(小学生)

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記念撮影(小学生)

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起震車体験(留学生)

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検証前の地震の説明(留学生)

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スタッフミーティング

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検証風景(留学生)

苦労した点

 災害時には、24時間勤務体制で対応し、情報収集・情報提供に努めているほか、地域防災フォーラムの開催などに主体的に尽力している。
 また、“やさしい日本語”を市民に広く普及させるための新たな取り組みとして実施した『やさしい日本語で伝えたい 暮らしの情報ランド』の放送では、開始当初、リスナーが聞き慣れないことと、通常の日本語に比べてアナウンサーの発音のスピードが遅いことなどが理由で、一部のリスナーからは聴きづらいといった意見が寄せられた。しかし、是が非でも“やさしい日本語”を普及させたいという強い熱意と、NHK職員などによる再三にわたるアナウンサー研修及び試行錯誤を重ねた地道な放送の継続により、現在では市民の間にも“やさしい日本語”がかなり浸透してきている。そして、この“やさしい日本語”の市民への普及は、災害時に“やさしい日本語”を用いて情報提供をする際に大きな役割を果たすものと期待されている。

特徴

 コミュニティFM全国初のフルデジタル対応放送局であり、地域に密着したメディア、防災・災害時に役立つメディアとして、中継車「アップル号」などを駆使しながら、台風接近時には、市の防災担当課にアナウンサーが常時待機し、最新の情報を市民に提供するなど、ラジオを通じて、災害時に刻々と変わる情報を的確に市民に伝えようという姿勢を貫いている。
 また、減災のための「やさしい日本語」研究会に参画し、平成17年10月に弘前市で開催した、国内初の、減災のための“やさしい日本語”検証デモンストレーション「みんなで減災2005inひろさき~災害情報を“やさしい日本語”で」においては、事業の共催者として20名近いスタッフを総動員して大きな役割を果たし、今後の研究推進に寄与した。
 さらに、従来からのラジオ放送を通じた“やさしい日本語”の普及や、地域防災フォーラム開催による取り組みなどは、市の防災力向上に大きく貢献するとともに、防災情報発信メディアとして市民の信頼を得ている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 吉村秀實(富士常葉大学環境防災学部客員教授))

 災害時、住民に対する情報の伝達に当たっては、①情報の内容が適切なものであること、②住民に誤解されないような内容であること、③確実に伝達されること、④情報の受け手が的確な行動をとること、という一連のプロセスが全てうまく行って初めて「効果的な情報伝達」と言えよう。しかし、「阪神淡路大震災」や「新潟県中越地震」だけでなく、近年頻発している台風災害や土砂災害などを見ると、災害情報の伝達に当たって、この一連のプロセスがうまく行っていないことが、犠牲者を多く生む最大の要因と思われる。
 平成12年3月に、弘前市に開局したコミュニティーFM局のアップルウェーブ社は、「地域の防災」を会社の理念の一つに掲げ、緊急時の放送を維持するための放送機材の整備などのハード面だけでなく、ソフト面では、日頃から様々な防災啓蒙番組を放送している。特に、災害時に要援護者となる高齢者や外国人などのために、やさしい日本語によるわかりやすい情報伝達を目指して、アップルウェーブ社(産)と弘前大学(学)や弘前市(官)と一体となった「減災のためのやさしい日本語研究会」を設置し、災害時の放送に当たって具体的には、災害用語や気象用語を分かりやすく言い換えたり、聞き取りやすいように普段のアナウンスメントよりも、ゆっくりとしたスピードで、はっきりと話すように心がけている。また、やさしい日本語で書かれた「防災パンフレット」や「外国人を助けるためのマニュアル」なども作成している。全国に拡がる地元のコミュニティーFM局だけでなく、NHKや民放各局、内閣府や気象庁、消防庁などが是非参考にして欲しいアップルウェーブ社の活動ぶりである。

団体概要

  • ・ 名称:アップルウェーブ株式会社
  • ・ 役員:代表取締役社長 清藤哲夫
       専務取締役 田中 尊(総務経理・営業担当)
       専務取締役 波多野厚緑(総務企画・放送・渉外担当)
       取締役   11名
       監査役   3名
  • ・ スタッフ:24名(放送部 部長 他15名、営業総務部 部長 他7名)
  • ・ 聴取可能市町村:弘前市ほか16市町村
  • ・ 聴取可能人口:47万人

実施期間

平成12年3月~