第10回防災まちづくり大賞(平成17年度)

【消防科学総合センター理事長賞】人形劇プロジェクト 稲むらの火

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特定非営利活動法人
人形劇プロジェクト稲むらの火
(静岡県富士宮市)

事例の概要

 いのちの尊さと自然の素晴らしさとその裏に潜む脅威(地震・津波・噴火など)を、こどもたちの明日へ語り継ぐため、防災教育の名作「稲むらの火」等の人形劇などを通じて、地域社会における防災活動の教育宣伝・指導、支援活動に寄与すること及び児童文化の振興を図ることを目的として組織された特定非営利活動法人である。
 安政元年(1854年)に広村(現在の和歌山県広川町)を襲った大津波から村の人々を救った村の庄屋の活躍ぶりや津波の恐ろしさを描いた名作「稲むらの火」(原作:小泉八雲)を人形劇としてわかりやすく紹介しており、子供から大人まで幅広い年齢層における防災意識の向上に大きく貢献している。
 また、活動範囲は静岡県内に留まらず、全国的に活動し、幅広い地域における防災意識の向上に大きく貢献している。

(実績の例)

  • ・ 平成16年4月25日
    人形劇「稲むらの火」(静岡県静岡市 静岡県地震防災センター)
  • ・ 平成16年6月13日
    人形劇「稲むらの火」(静岡県富士宮市 富士宮市立中央図書館)
  • ・ 平成16年8月21日
    人形劇「稲むらの火」(和歌山県和歌山市 市民会館)
  • ・ 平成16年9月18日
    人形劇「稲むらの火」(静岡県焼津市 市民総合福祉会館)
  • ・ 平成17年1月22日
    稲むらの火とこどもワイワイサミット(兵庫県神戸市 神戸国際会議場)
    ※国連防災世界会議関連事業
  • ・ 平成17年5月28日
    人形劇「稲むらの火」公演(静岡県相良町(現:牧之原市)町立相良小学校)

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上演風景(語り)

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上演風景(稲むらに火を放つ)

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上演風景(稲むら炎上の前で)

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なまず博士と赤ずきんちゃんの地震の話

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上演後のなまず博士と赤ずきんちゃんの防災講座

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人形劇上演後の被災体験談

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稲むらフィナーレ挨拶

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上演風景(津波襲来)

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なまず博士と赤ずきんちゃんの地震の話

苦労した点

 阪神・淡路大震災を現地で体験した者が、東海地震の切迫性を見聞きして、人形劇センター静岡に「稲むらの火」を人形劇化して巡回公演できないかということで話を持ちかけたことがプロジェクトの発端であった。
 この趣旨に賛同した人との協働作業により、人形劇プロジェクトがスタートする中で、人手の募集や製作資金の調達のため、チラシの作成・配布や募金呼びかけ等苦労した。
 なお、特定非営利活動法人化した現在も事務局及び理事会の機能強化(会員参加の呼びかけ等)を課題としている。

特徴

 人形劇はこどもから大人まで楽しみながら防災の勉強ができるため、防災活動の広い世代への普及に大きく寄与している。
 また、人形劇単発としての公演に留まらず、防災フォーラムといったセミナー等の場での一メニューとしての活動も可能であり、活躍の場は広く期待できる。
 スマトラ沖地震の被災地で救援活動を行うNGOが作成した「稲むらの火」の英語版紙芝居の作成に協力した。
 今後は、紙芝居や絵本といった他分野へ活動を広げ、一層、こどものこころに防災意識が根付く形での展開を目指している。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 高野公男(東北芸術工科大学デザイン工学部教授))

 「稲に火を放ち、大津波の襲来を告げ、村人たちの命を救った「稲むらの火」の物語は、ラフカディオ・ハーンが紹介し、戦前の小学国語読本にもなった防災教育の古典というべき物語である。この物語は、人間ドラマとしての感動があり、この物語から津波という災害のおそろしさや人間の心理、リーダーの資質、人々の助け合い、情報伝達のあり方など、様々なことを学ぶことが出来る。それ故、最近、津波に対する防災意識の高まりと共に、この「稲むらの火」の価値が再評価され、マンガ、紙芝居、劇、読本などの様々なジャンルで紹介されるようになっている。その中でも、人と人形が一体となって演ずる人形劇という表現方式は、防災教育のツールとして優れた可能性を持っているようだ。人形劇は、子どもたちに馴染み、物語の世界に誘う優れた媒体である。小さな舞台空間とそこで演じられるパフォーマンスは、臨場感を伴って子どもたちの心にインパクトを与え、情報の送り手側の思いやメッセージが受け手側の心の底にダイレクトに響いていくからだろう。
 防災教育は知識の伝達だけではあまり効果がない。神戸のこどもたちも地震や津波の怖さを知らない。こどもたちの心に響く防災教育の展開を試みたい。このような問題意識から人形劇プロジェクトが始まった。人形劇は結構手間暇がかかる活動のようである。プロデュース、脚本、演出、人形使い、人形作り、振り付け、照明、音響、音楽、舞台装置など様々な役割分担があり、円滑なチームワークが求められる。また、芸術性とエンターテイメント性などの表現力に加え、防災教育という面での規範性も求められる。そして練習ノ。全県ワイドで集まったアマチュア人形劇人のグループは、防災教育での人形劇の可能性を模索し、「防災アート」というべき新しいスタイルを創り出した。この人形劇は各地で上演されたが4、5才の子どもたちにもメッセージが届いているようだ。おそらく海外の子どもたちにも理解されるだろう。国連防災世界会議や愛・地球博でも絶賛を浴びたこの実験的な取り組みは、防災教育の歴史をみても画期的な出来事といえるのではないだろうか。この人形劇プロジェクトのグループには将来の抱負がある。市民、学生、行政、企業、防災ボランティアを巻き込み、国内外でのネットワークの輪を広げていくことや、スマトラなどの海外での展開、障害を持つ子どもたちへの普及など、その夢は大きい。しかし、そのためには資金面などの社会的支援が必要だ。なにはともあれ、新しい防災文化の創造に尽力したグループの人達の慧眼と心意気に敬意を表したい。

団体概要

  • ・ 構成員:20名(平成17年11月2日現在)
  • ・ 所在地:静岡県富士宮市
  • ・ 活動(練習等)拠点:静岡県地震防災センター

実施期間

平成16年12月2日~