第11回防災まちづくり大賞(平成18年度)

【消防庁長官賞】津波から住民と観光客を守ろう~避難への道しるべ~

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磯の浦自治会(磯の浦地区自主防災会)
(和歌山県和歌山市)

事例の概要

■経緯

 和歌山市の北西に位置する磯の浦自治会(磯の浦地区自主防災会)は、山と海に囲まれた風光明媚な環境に所在する(約260世帯人口550人)。一方、夏場の磯の浦海水浴揚には、最大1日に3万1千人もの海水浴客が訪れる人気の海水浴揚で、ここと隣接した地域である。
 磯の浦自治会では、東南海・南海地震の発生が懸念されているなか、津波発生時の避難について、自治会で何度も話し合われた。しかし、背後地が山であることから高い場所はあるのだが、そこへの通路がない、また山に避難したとしても広場がない状況であった。
 しかし、津波や地震への備えを進めることは、磯の浦に住む住民に直結する問題で、人任せにせず自分たちで対策を講じていくこととした。

■対策の検討

 自治会内で何度も話し合いが行われ、いろいろな対策を模索する中、現実に自治会で出来ることとして、今は使われていない荒れ果てた山への里道(山道)を整備し、草木が覆い茂った山腹を避難場所に整備することであった。また同時に、自治会内に磯の浦地区自主防災会を結成し、地域の防災対策を推進し、被害の軽減に向け活動することも決定した。

■避難路、避難場所の整備

 覆い茂った草木は、住民が力をあわせて除去を行い、整地、舗装、防災倉庫の建設は、自治会の積立金を取り崩して専門業者に依頼した。その結果、海抜約20メートルの地点に約300平方メートルの避難場所と全長120メートルの避雛路が整備された。
 また、路地が入り組んだ磯の浦地域では、避難場所への道順は複雑であることから、曲がり角ごとに地元高校生がデザインした案内板が設置された。

■訓練の開催

 新設された避難場所の啓発と自治会員がお互いに助け合える体制作り、海水浴客への安心安全の提供を目指して、津波避難訓練を開催した。自治会員をはじめ、警察、消防などの公共機関や海水浴揚を利用するサーフィン連盟なども参加した訓練は、それぞれの得意分野で力が発揮できるよう工夫された役割分担で、自治会班長が逃げ遅れ者の確認、炊き出し班、救出班の編成、地元の医師や看護士による救護班の編成、サーフィン連盟や観光協会等による海水浴場遊泳者の避難誘導等、磯の浦地域全体で取り組んだ。

■今後の取り組み

 要援護者の支援や夜間の避難など地域としての課題を少しずつでも解決するため、訓練や検討する場を積み重ね、「自分たちの町は自分たちで守る」そんな街づくりを目指している。

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磯の浦海水浴場

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避難場所への案内板

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津波避難訓練(磯の浦海水浴場)

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案内板

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津波避難訓練(救護班)

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整備前の避難場所

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整備後の避難場所

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磯の浦自治会の街並

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整備前の避難路

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整備後の避難路

苦労した点

 防災意識は人それぞれで、海に面した磯の浦地区でも津波避難路・場所の整備に際しては、自治会員すべての理解を得るには大変な労力を要した。
 また、地区民をはるかに上回る海水浴場利用者の誘導は困難を極めると考えられたが、普段から海水浴場を利用するサーフィン連盟(若者)が快く協力してくれたため、地元観光協会等と連携しながら広い海水浴場内をスムーズに避難誘導することが出来た。

特徴

  • ・ 磯の浦自治会が、自主防災活動の中で避難路や避難場所を整備したほか、海水場の観光客にも配慮した防災活動が実施された。特に、地元の各種団体と協働をすすめ、磯の浦地区住民と地域を利用する多くの人たちが、津波への関心を高めることができた。
  • ・ 高齢者などの災害弱者支援や夜間等の悪条件での避難についても地域の課題として認識しており、今後とも自主防災活動の模範となるような活動が期待できる。

委員のコメント【防災まちづくり大賞選定委員 室崎 益輝(総務省消防庁消防大学校消防研究センター所長)】

 防災まちづくりの中心には、自治会や自主防災組織といった「地域に密着した担い手」が座らないといけない、と思っている。自治会などの地域組織が、防災の担い手として大きな役割を果たすためには、次の3つの条件を満たさなければならない。それは、第1に強力なリ-ダーがいること、第2にコミュニティの輪が築かれていること、第3に命を大切にする思いやりのあること、である。ところで、今回の受賞団体である「磯の浦自治会」は、この3条件を見事にクリアーしている。コミュニティの輪の確かさは、避難訓練に280世帯の自治会でありながら300人以上が参加していることに見てとれる。暖かな思いやりは、津波避難所の開所式における杉本会長の「一人の負傷者も犠牲者も出さないようにしたい」という挨拶に見てとれる。
 防災の原点としての「暖かい思いやり」は、第1にお年寄りなどの要援護者に、第2に海岸に遊びに来ている海水浴客に向けられている。リヤカーや担架を確保して高齢者避難のシステムを確立していることは、評価できる。それ以上に評価したいのは、海水浴客の避難を支援するために、避難誘導標識や情報伝達スピーカーを設置するとともに、一緒になって避難訓練をしているということである。訓練では、すべての海水浴客が呼びかけに応えて避難した、という。自治会の海水浴客も助けたいという暖かい気持ちと周到な準備が、避難100%を実現した、といって過言ではない。
 受賞の最大の理由は、この海水浴客も含めた取り組みの素晴らしさにあるが、それ以外にも高台への避難所と避難路の建設、自治会ぐるみの防災先進地視察や防災講演会参加など優れた取り組みを展開しており、自力でできることは何でもするという積極的な活動に、心からの賛辞を送りたい。

団体概要

  • ・ 磯の浦自治会
    構成人員 650人
    結成年月日 昭和28年4月1日
    代表者 磯の浦自治会長 杉本 慶蔵

実施期間

平成14年~