【消防科学総合センター理事長賞】NPO法人防災ネットワークうべと宇部市のパートナーシップ~地域の防災力向上をめざしたNPOと行政のとりくみ~
NPO法人 防災ネットワークうべ (山口県宇部市)
事例の概要
■内容
- 1.NPO法人防災ネットワークうべ設立の経緯
平成11年の台風18号は、暴風雨と高潮により、山口県下で全壊家屋80棟、半壊家屋1,283棟、床上浸水2,506棟という大きな被害をもたらした。道路には多くの街路樹が倒され、海岸や港の護岸が破壊され、多くの地域で家や車が水没すると同時に、電話が輻奏するなど、行政の対応能力を超えていた。この時に、住民による相互の助け合いや自主的なボランティア活動が行われたことは、高く評価されている。しかし、住民の防災意識は必ずしも高くなく、その支援活動も特定の地域や個人の活動に限られ、組織化されたものではなかった。
こうした背景から、市民の防災知識と防災意識の向上に努め、防災ボランティアのネットワークを育て、地域における防災力の向上と、災害発生時の支援活動等に寄与することを目的として、ボランティア団体、民間災害対策会社、マスコミ、学識経験者、市会議員、社会福祉協議会、行政等のメンバーが集まり、平成12年7月NPO法人防災ネットワークうべが設立された。 - 2.宇部市防災課とNPO法人防災ネットワークうべ(以下、BNU)の協働事業
平成12年11~12月:市民防災セミナー(全4回)[主催:BNU、参加:市]
平成13年5月:市防災パトロール[主催:市、参加:BNU]
平成13年11月:市総合防災訓練[主催:市、参加:BNU]
平成14年1月:市災害ボランティアコーディネーター・リーダー育成研修会[主催:市、共催(企画・運営):BNU]
平成14年7月:市地域防災研修事業(神原校区)[市がBNUに委託]
平成14年7月~11月:市地域防災計画デジタル化事業[市がBNUに委託]
平成14年8月:市総合防災訓練[主催:市、参加:BNU]
平成14年10月~平成15年1月:コミュニティFM放送局「FMきらら」にて「週刊BNUマガジン」を毎週木曜日放送[主催:BNU、参加:市]
平成14年11月:県民活動ボランティアフェスティバル2002分科会(災害図上訓練)[企画・運営:BNU、参加:市]
平成15年1月:山口県防災安全研修会 [講演:BNUと市]
平成15年1月:「守っちゃれ山ロ!災害ボランティアの輪」(県内初の民間ボランティアグループ共演の防災イベント)[実行委員長:BNU理事長、災害図上訓練実施:BNU]
平成15年2月:宇部市民パワー祭(市民活動センター開設記念行事)にて「みて!みて!防災グッズ展」を開催[運営:BNUと市]
平成15年2月~3月:コミュニティFM放送局「FMきらら」にて「防災RADIOマガジン」を毎週月曜日放送[主催:BNU、参加:市]
平成15年4月~:コミュニティFM放送局「FMきらら」にて「あなたならどうする」を毎週土曜日放送、防災標語募集、防災意識啓発CMを放送 [市がBNUに委託]
平成15年7月:自主防災研修事業(原校区)として、住民によるフィールドワーク、防災マップ作成、災害図上訓練を実施[市がBNUに委託] - 3.掲載冊子
平成15年3月発行- ●財団法人地域活性化センター:「NPOと行政とのパートナーシップ促進ガイドブック」
- ●山口県宇部市:「市、NPO、民間ボランティアが協働した災害に強いまちづくり」
- ●財団法人自治総合センター:「NPOによる行政サービスの提供に関する調査研究報告書(1「地方公共団体とNPOとの協働事業のあり方についてⅣ.各分野での協働の事例」5「宇部市(山口県)~災害に強いまちづくりを目指したNPOとの協働~」)」
- 平成15年7月発行
- ● 財団法人消防科学総合センター:「消防科学と情報No.73/2003.夏(「市とNPO法人が協働して自主防災組織育成へ」)」
災害図上訓練
講演(災害ボランティア研修会)
住民の手作りによる防災マップ
市民防災セミナー
防災ウォークラリー(防災ボランティア研修会)
防災マップの発表
週刊BNUマガジン
週刊BNUマガジン
避難所運営訓練(防災ボランティア研修会)
苦労した点
BNU設立前は、マスコミは行政のアラ探しをし、行政はできるだけ余計なことは言わないようにという傾向があり、マスコミと行政が相互不信に陥りがちであった。BNUのメンバーの中にも両者が入っており、心配される声もあったが、災害時のそれぞれの動きなどをよく話し合い、「これからどうすればよくなるのか」ということを前向きに考えあうことにより、相互理解をすることができた。
また、設立当初は、まだ実績もないNPOに対して、理解が得られにくい面や不審を与えてしまう面もあったが、メンバーの熱意やBNUの積極的な活動により、認知度が少しずつあがってきているところである。
特徴
NPO法人BNUのユニークで新しい発想による取り組みは、これまで行政単独による方法ではなかなか成果の上がらなかった防災意識啓発や防災訓練・研修、自主防災組織育成に大いに寄与しており、山口県から新しい風を起こし、県内外へ広がりを見せはじめている。
市は、BNUの自主性や自立性を尊重しながら事業目的のマッチングを図り、役割分担を明確にして協働事業を推進しており、全国的にも行政とNPO法人との良好な協働関係の事例として、注目を浴びているところである。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 務台俊介(総務省消防庁防災課長))
宇部市と山口大学工学部、それに日赤や社会福祉協議会、ライフライン関係者、民間ボランティアが作ったNPOで、防災ネットワークうべ(BNU)と呼ばれる団体がある。市民の防災教育やDIGと呼ばれる身の回りの危険を皆で地図上で共有する防災訓練などを行っているほか、コミュニティーFMを使い、防災啓発番組も流している。山口大学工学部がIT技術を市民防災に提供し、それを宇部市が若干の資金を提供しNPOに実施を促す、という官と学と中間支援組織がうまくマッチングした動きをしている。
宇部市では、平成11年台風18号の際に、「観測情報がなかった」、「予測ができなかった」、「判断ができなかった」、「伝達ができなかった」といった反省があり、また、ボランティア団体が現地で支援を断られたが、実はボランティアを必要とする人達がいたといった事例が発生した。このような反省から、日常的に、情報を収集・伝達できる仕組みの必要性、また、ボランティアの需給調整のために、ネットワークをつくっておく必要性が認識された。BNUの設置の背景にはこうした事情があった。
BNUの活動は、周囲にも影響をおよぼし、県内では同様なネットワーク設立気運の高まりをみせており、実際、各地域でネットワークが設立され始めている。また、県全体でも災害ボランティアのネットワークづくりが始まっている。
行政と地域住民、地域の防災組織の中間にあって、両者をバックアップし補完する中間的支援組織として大いに将来性を感じさせるものである。米国にも同様の動きがあると仄聞する。
一つ気になったこと。それは防災まち作りに中学生高校生それに学校の先生の姿がないことだ。そのことを尋ねると、「先生方が忙しくてとてもとても」ということであった。将来の巨大災害を控え、その時点で災害対応の当事者たるべき人々が、先生方の忙しさを理由に表に出てきていないのは残念なことであり、宇部においても解決すべき課題だと強く感じた。
団体概要
NPO法人防災ネットワークうべ
(設立総会:平成12年7月、山口県認証:平成12年11月)
- 理事長:三浦房紀(山ロ大学大学院理工学研究科環境共生工学専攻教授)
- 副理事長:上原始(西部マリン・サービス株式会社取締役防災部長)
- 理 事:7人(ボランティア団体、社会福祉協議会、マスコミ・学識経験者等)
- 監 事:2人(県会議員・野外活動団体、市会議員・ボランティア団体)
宇部市
人 口:174,416人
世帯数:67,418世帯
(平成12年国勢調査による)
実施期間
平成12年~