【消防科学総合センタ-理事長賞】在宅療養者の防災対策
平塚保健福祉事務所継続看護連絡会
(神奈川県平塚市)
事例の概要
■内容
- 1.取り組みのきっかけ
阪神・淡路大震災が取り組みのきっかけとなる。訪問看護師や行政の保健師等の看護職は、在宅の療養者が地域で暮らし続けることができるよう支援しているが、災害が起きた時に一人ひとりの家庭にかけつけることはできない。そこで、地域の看護職に何ができるかを考え取り組み始めた。 - 2.活動内容
- (1)在宅療養者が正しい知識で防災対策に取り組めるように「もしも…の時のために『家庭で療養している人のための防災対策』」を作成。看護職が「指導者用マニュアル」をもとに療養者1人ひとりに説明し配布する。
- (2)地域住民関係機関に活動を知ってもらうために、フォーラム・研修会を開催。
- (3)「もしも・・・の時のために『家庭で療養している人のための防災対策』」の配布前・配布後において、療養者・介護者の防災対策の取り組みや不安に思っていることなどについての行動変容に関する調査を実施した。この結果、配布して変化したことは「防災物品の準備をしておく、飲んでいる薬剤をメモしておく」、取り組めなかったことは「災害に備えて近所の方に『何かあったらよろしく』とお願いしておくこと」、一番不安に思うことは「災害時逃げられない、運べない」という事項であった。
- (4)調査結果をもとに平塚市社会福祉協議会と連携し、モデル地区2ヶ所で検証する。
- ① 平塚市港地区
ア.在宅療養者5人にモデルとなっていただき、看護師と地域福祉関係者が一緒に自宅を訪問し、災害時に居室から安全な場所にどのように搬送するかのシミュレーションを実施。
イ.地域福祉関係者(地区社協・自治会会員、民生委員、女性自主防災組織等)を対象とし、実際に港地区に住んでいる在宅療養者を想定して搬送講習会を実施。
ウ.「もしも・・・の時のために「安全な場所一避難・移送する方法①~⑧」」を作成。看護職が療養者にあった搬送方法を本人・家族に伝えるため、療養者、地域福祉関係者、看護職が活動を共通認識するために活用。
エ.港地区オリジナルの「もしも・・・時のために災害は突然やってきます」を作成し、全戸配布した。 - ② 平塚市富士見地区
ア.地域福祉関係者を対象とし、地区に住んでいる在宅療養者を想定して搬送講習会を実施。
イ.自治会ごとに勉強会を実施。地区在住の療養者本人、家族が講師となり、「安心して住める富士見地区」をスローガンに、多くの住民がこの問題について考えた。
- ① 平塚市港地区
A地区での搬送講習会
A地区での搬送講習会
A地区での搬送講習会
A地区での搬送講習会
B地区での搬送講習会
B地区での搬送講習会
療養者用マニュアル(表紙)
療養者用マニュアル(中身)
講演会「在宅療養者の防災対策」
講演会「在宅療者の防災対策」
苦労した点
地域福祉関係者(地区社協、自治会会員、民生委員、女性自主防災組織等)と地域展開を進めていく中で、在宅療養者の全数把握をしたマップ・書類(調票)がないと具体的な取り組みが出来ないとの意見が出された。しかし、個人情報保護・守秘義務が問題となり、活動がなかなか進まないという経緯があった。地域福祉関係者はそれぞれの立場も異なり、持っている情報も異なることから、全員が同じ情報を共有するということは困難であることが分かった。
また、在宅療養者自身も療養状況を知られたくないという気持ちからひっそり暮らしていたり、日々の生活に追われ防災対策の優先度が低い中で、このような取り組みは難しいと考えられた。話し合いを重ねた結果、「在宅療養者の一人ひとりを知ることではなく、まず地域全体が防災対策等に関心を持ち、お互いが支え合い、助け合うという環境作りからスタートすることで、在宅療養者が自ら声を出せる地域になっていくのではないか」という思いで統一された。
特徴
在宅療養者、要援護者の防災対策は地域の問題として顕在化することが少なかったり、また個人情報をどう取り扱うかの問題により取り組みが難しいという現状がある。継続看護連絡会では看護の視点で取り組み、その中でそれぞれの役割が見えてきた。
- ・地域福祉関係者の役割:在宅療養者の防災対策を地域のまちづく りのテーマの一つとして捉え、継続して地域の課題として取り組む。
- ・在宅療養者の役割:各自が自主的な防災対策に取り組み、搬送講会などの地区活動に参加するなど、日ごろからの地域住民との交流を大切にする。
- ・看護職の役割:在宅療養者に日ごろから防災対策の必要性を継続して普及啓発する。地域福祉活動に関する情報を伝え、地域と在宅療養者の橋渡しをする。
委委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 重川 希志依(富士常葉大学環境防災学部教授))
医療・保健関係者は、地域で暮らす要援護者に対して何か防災対策をとらなければならないと思いながら、何をして良いか分からなかった。また地域住民は、継続看護活動を通して地域で働く看護職員の存在を良く知らなかった。さらに障害者も、地域とどのように接してよいのか分からなかった。本事業は、これら三者が抱いていた課題を解決し、具体的な防災活動を実践していくための大きなきっかけを与えてくれた。福祉関係者が防災を知り、在宅弱者も積極的に地域に出て行かなければならないという意識が持てるようになった。またこのたび、防災まちづくり大賞に選ばれたことで、問題意識は持っていても具体的な行動に結びつけることができなかった多くの医療・保健関係者の良いヒントとなった。
在宅の要援護者の中には、民生委員でさえその存在を知らない人たちも多くいる。一方、日頃から顔見知りの看護士たちが防災の話を持っていくと耳を貸してくれることも多い。行政が一方的に弱者の名簿を作ったり、地域での支援体制を確立しようとすると必ず、プライバシーの問題が障壁となるが、弱者にとって日ごろ関係のある誰かが防災の話を持ちかけてくれれば、自らその必要性を理解し、自分から地域との接点を持とうと努力をし、結果的にプライバシー云々の問題は解決される。
現在医療・保健の分野では、“介護予防(介護が必要な状態にさせない)”のために“防災”を使おうとしている。その理由は、どちらの問題も最終的には地域のふれあいがキーワードになるからである。今後は、自主防災組織など既存の防災活動と福祉分野から防災にアプローチする試みの間の溝を取り払うことが重要な課題となる。自主防災組織や民生委員など、各々の立場の話を聞きながら、福祉との調整を図りこのような事業を進めていくことが今後の活動展開のポイントとなる。
団体概要
構成メンバー:神奈川県平塚保健福祉事務所管内の平塚市・大磯町・二宮町の医療機関、訪問看護ステーション、老人福祉施設、在宅介護支援センター、市町・保健福祉事務所の看護職 人員数:約40名
- 活動内容:
- ・在宅看護サービスについての情報交換、連携、調整に関する検討、協議
- ・継続看護に関わる看護職の資質向上のための研修、研究に関すること
- ・在宅ケアシステムの体制整備に関すること
実施期間
平成10年~