第9回防災まちづくり大賞(平成16年度)

【消防科学総合センタ-理事長賞】震災メッセ-ジ・プロジェクト

【消防科学総合センタ-理事長賞】震災メッセ-ジ・プロジェクト

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NHK神戸放送局「震災メッセージ・プロジェクト」
(兵庫県神戸市)

事例の概要

■内容

NHK神戸放送局では、兵庫県を放送エリアとしたニュース番組「ニュースKOBE発」を、2002年から毎日夕方6時台に放送している。地域に密着した情報収集・情報発信につとめる上で、最も大きなテーマに据えたのが「阪神・淡路大震災」であった。震災の記憶の風化が危倶される中で、メディアの役割はどうあるべきか議論を進めた。 そこで、以下の3つのポイントに留意した。

  • 1.震災の体験・被災の程度は決して一様ではない。多角的な視野を持ち、震災の総体を捉える努力と工夫が必要である。
  • 2.被災するということは、その瞬間に終わることではなく、人によっては悲しみや苦しみが生涯続くことである。
  • 3.様々な経験から教訓を導き出し、次の災害に備える姿勇が必要である。

 議論の結果、様々な分野の方に震災の経験や教訓をお伺いして、それを継続して放送することが、視聴者と共に考える・共に学ぶことに資するものだと確信するに至った。シリーズタイトル「震災メッセージ」には、震災を語ることで、日常を生き非日常に備える「等身大の誓学(メッセージ)」を発信していこうという制作者の決意が込められている。2002年は、プレシリーズを5回放送し、2003年から5~6分間の枠で、毎週月曜日に放送を続けていくことになった。2004年10月4日現在で、放送回数は75回を数える。

 テレビ放送は、あくまでフローのメディアである。そこで、蓄積したコンテンツをストックのメディアで活用する方法を模索している。まず、およそ10人分のインタビユーを放送するごとに、総集編特番「語り継ぐあの日」を制作・放送している。また、兵庫県以外の関西エリアの方にも視聴していただくため、2004年からは朝のニュース番組「おはよう関西」の中でもシリーズコーナーを設けている。
さらに、インターネットを活用した情報発信も行っており、ホームページを特設して、放送記録にアクセスできるようにしている(http://www.nhkor.jp/kobe/)。
  震災10年を前にして、視聴者の方々からも「わたしの震災メッセージ」の募集を行っている。いただいたメッセージを番組の中で紹介することで、共に考える共に学ぶ「双方向の情報拠点」の構築を目指している。

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NHK神戸放送局新局舎

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NHK神戸アーカイブス

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テレビ副調整室

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震災メッセージ総集編

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データ放送の画面接写

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プロジェクトチームの会議

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震災メッセージのホームページ

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ロケ現場の様子

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井上二郎キャスター

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編集作業

苦労した点

 最も苦労するのは「人選」である。まず、様々な分野に取材をして、ラインナップをバランスよく配置するよう心がけている。震災の教訓を文化として定着させるために、関西在住の文化人の方々には特に協力をいただいている。陳舜臣さん、高村薫さん、藤本義一さん、大森一樹さん、河合隼雄さん、安水稔和さん、安藤忠雄さん、谷川浩司さん、玉岡かおるさん、沢松奈生子さん、大八木淳史さん、桂あやめさん、時実新子さん、伍芳さん…などである。また、防災やまちづくりの専門家の方、NPOなど地域で活動を続ける人たちからも幅広くメッセージを集め、視聴者に紹介するようにしている。

特徴

  • 1.継続して伝える:毎週月曜日に放送することで、1週間の始まりに短い時間であっても震災のことを想起してもらえるようにしている。
  • 2.多角的に伝える:例えば「復興」というテーマひとつでも、まちづくりの専門家や地域で活動を続ける方など、それそれの立場から提言をいただくようにしている。
  • 3.明解に伝える:集中して視聴していただけるように、1つのメッセージは5~6分に編集している。論点が多い場合は、2回シリーズにして、丹念に放送している。
  • 4.こころを伝える:震災のご遺族からもメッセージをいただいている。2004年1月には、追悼の集いで挨拶をされた遺族代表の高井干珠さんのスピーチをノーカットで放送した。
  • 5.双方向でつくる:視聴者モニター制度により、放送の感想を送っていただき、制作の現場にフィードバックできるようにしている。演出の方法を改める上で実際に活用している。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 室崎 益輝(独立行政法人消防研究所理事長))

 震災の体験や教訓を風化させず語り継ぐことは、次の災害に備えるうえで、また防災文化を形成するうえで欠かせない。ところで、その体験を発信し伝承をはかることの責任は、まずなによりも被災地が担わなければならない。この伝承責任についていうと、被災地のマスメディアも例外ではない。とりわけ、有効な発信媒体をもつだけに、その発信と伝承への期待は大きい。このNHKの神戸放送局の「震災メッセージ・プロジェクト」は、このメディアの責任と期待にこたえるべく、被災体験者の貴重なメッセージをテレビの映像を通じて継続的に発信している。
 このプロジェクトの優れたところは、第1に被災にかかわる多様な体験や思いを幅広く発信しようとする姿勢にある。その姿勢ゆえに、遺族やボランティアなど震災に涙した市民の率直な声を聞くことができる。多様な意見の交換によって、被災体験と歴史認識の共有化がはかられていることが素晴らしい。第2に粘り強く丹念に体験を発信し続けようとする姿勢をあげることができる。地方局ゆえの制約が多いなかで、持続的に発信する苦労は計り知れない。にもかかわらず、メッセージの発信は毎週1回継続して行なわれ、すでに80回を超えている。震災10年で打ち切るのでなく、今後とも発信し続ける決意と聞く。そのボランティア精神に拍手である。
 この貴重なメッセージが蓄積されていくなかで、歴史的証言集としての「映像による震災体験アーカイブ」ミュージアムが現実のものとなりつつある。後世に残る歴史的事業としての予感がある。少なくとも500のメッセージが発信できるまでは、継続願いたい。

団体概要

 NHK神戸放送局は、阪神・淡路大震災前までは神戸市中央区のトアロードと山手幹線の角地に放送会館が建ち、「トアロードのNHK」として広く市民から親しまれていた。しかし、震災で建物が大きな被害を受け、神戸駅前のテナントビルのワンフロアーを借りて業務を続けることになった。以来、震災関連の番組を「いのちを守る放送」と位置づけて、地域に密着した情報発信を続けている。震災10年の節目となる2005年1月17日には、元の場所に新会館をオープンする。視聴者が自由に番組映像にアクセスできる「KOBEアー・カイブス」を設け、新たな映像文化の拠点となるよう目指している。

実施期間

 平成14年~