第09回防災まちづくり大賞(平成16年度)

【総務大臣賞】ひらつか防災まちづくり・・・迫り来る大地震を地域とともに迎え撃つ

【総務大臣賞】ひらつか防災まちづくり・・・迫り来る大地震を地域とともに迎え撃つ

Vol9-006-009Map

ひらつか防災まちづくりの会
(神奈川県平塚市)

事例の概要

■経緯

 平塚市は、もともと市民活動が活発な地域で、NPOを中心とした福祉、環境、国際交流などが盛んである。2003年3月ごろから、主に平塚駅南口から海岸に至る大通りの西側にある花水地区で、それまでの自治会を中心とした防災の取り組みに加えて、地域の小・中学校PTAがそれぞれの不安要因、関心事について、取り組みを始めた。8月にこれらの取り組みを行っていたグループが緩やかな連携を組み、より多くの取り組みを始めたのが「ひらつか防災まちづくりの会」である。様々な取り組みは、わずか1年で50を超え、それらは自治会、NPO、福祉団体と連携を広げ、平塚の花水以外の地区にも広がりをみせている。本防災まちづくりは、平成15年度に内閣府で実施した防災まちづくりモデル事業地区6地区の一つに選ばれ、防災まちづくりに関する調査が行われている。

■内容

 ひらつか防災まちづくりの会が、さまざまな団体とともに行った防災まちづくりの取り組みは以下の通りである。

  • 1.普及啓発事業
     防災に関する情報をより多くの方に伝えるために、ニュースレター・紙芝居などのほか、震災体験者を招いての講演会、防災出前ミニ集会を行った。
    • (1)ニュースレター発行(4回)
    • (2)防災講演会・防災集会・展示等(45回)
    • (3)DIG・防災まち探検(8回)
    • (4)メディアとの連携(SCN、FM湘南ナパサの出演、新聞記事等の掲載)
    • (5)ひらつか七夕まつりへの参加・防災七タ飾りの制作(平成16年6月~7月)
       50年以上続く平塚七夕において、防災七タの飾り制作を実施。また、全国市民活動まつり実行委員会とともに、多くの大学・防災研究者らを招き、七タ会場にて防災イベントを開催した。
    • (6)防災イベントの開催(平成16年8月22日)
       親と子の防災デーと銘打って、夏休みのこども向けに防災イベントを開催した。内容は、防災関係者の講演会、並びに、地震絵本の読み聞かせ、地震災害現象の実験(液状化実験・建物補強実験)、避難所シミュレーションゲームなど。
  • 2.耐震補強請願・モデル事業
     阪神・淡路大震災での最大の教訓は、木造家屋の瞬時の倒壊による死亡・負傷とされている。平塚市は、南関東地震の震度想定で震度6強から7に位置し、また大正関東地震では震度7の揺れを受け、約50パーセントの家屋倒壊が起きている。そこで、地域で取り組む耐震補強を目指し、耐震診断・補強を行った。
    • (1)耐震補強を推進するための議会請願
    • (2)簡易耐震補強モデル事業
       耐震補強がどのようなものであるかを実際に知ってもらうため、平塚市立野町の木造家屋の耐震診断・補強の模様を公開しながら実施した。
    • (3)新補強工法の制度化・普及
       モデル事業でおこなった安価で確実な工法を広げるため、工法の制度化を行うための検討会を実施した。
  • 3.外国語防災パンフレットの作成(スペイン語版他計8ヶ国語)
     平塚にはメーカーの工場があり、市内には約5000人の外国人が居住する。そこで、その人たちと一緒に、各国の人にあった防災マニュアルを作成している。内容検討会では、その言語を使う方に集まってもらい、パンフレットの試作版について意見を交換している。
    • (1)パンフレット検討委員会(平成16年1月~3月計5回)
    • (2)内容検討会(スペイン語編)(平成16年3月28日)
    • (3)各国版試作品の制作(日本語・ハングル語・スペイン語・英語・タガログ語)
    • (4)ホームページ版作成(生活情報などとのリンク)
  • 4.IT防災事業(地域防災でのlT活用実験)
    • (1)MLでの情報共有:一日平均6.7通(平成15年9月から)
    • (2)防災CD説法師(平塚版)の作成
    • (3)防災講師養成講座の開催(平成15年12月14日)
  • 5.災害対応(防災)訓練への取り組み
     平塚市主催の防災訓練に参加・協力するとともに、自治会・災害ボランティア・障害者福祉NPOとの合同で、災害対応訓練をブラインドシミュレーションの形で実施した。
     平成16年度も行うことで準備を進めている。
    • (1)防災訓練への参加(平成15年)
    • (2)災害対応シミュレーションの実施(平成16年3月13日実施)
  • 6.防災カルタ
     平塚では、各地で郷士カルタが作られている。この郷土カルタの手法(地域に住むひとが句・絵)を考えつくり、カルタ大会を開く)をもとに、地域で老若男女問わず、防災を考えるきっかけとなるような防災カルタの制作を行っている。平成17年1月には、防災力ルタ大会を平塚市・大磯町各地で行った。
     現在、小学校・中学校並びに平塚市の教育委員会、周辺市町村(大磯町・茅ヶ崎市)の教育委員会に協力してもらい、子供たちの夏休みの宿題のひとつとして、カルタの旬・絵の募集を行っている。(9月10日締切)
     また、すでに地域のひとたちからなる「かるたづくり実行委員会」が発足。9月17日には応募されたカルタの審査委員会(第1回)が実施された。
  • 7.要援護者支援ネットワークの構築
     地域内にある、高齢者福祉団体(NPOひなたぼっこ・花水福祉村・福祉コミュニティ)、障害者福祉NPO(ILひらつか)との協力で、高齢者・障害者の要援護者支援のつながりをつくり、それぞれの住居の見直し(家屋耐震化・室内耐震化)を始めた。また、高齢者福祉NPOのお助けネットワークをつくり、日頃のデイサービスでのボランティアと関連付けてシステムを構築中である。平成16年9月での防災まちづくり懇談会では、支援ネットワークを広げるための様々なアイデアが出され、支援ネットワーク検討サロンがつくられることになった。
  • 8.内闇府・防災まちづくりモデル事業の実施ならびに防災まちづくり懇談会開催
     これらの活動が、平成15年に実施された内閣府による防災まちづくりに関する調査の全国6地区の一つに選ばれ、地区の住民による検討委員会が発足し、防災まちづくりについて検討を行った。平成16年にはこの検討委員会を発展させ、「ひらつか防災まちづくり懇談会」とし、引き続き住民による防災まちづくりの検討を行っている。
    • (1)平塚地区防災まちづくりモデル事業検討委員会(平成15年11月~3月(4回))
    • (2)中央防災会議でのプレゼンテーション(平成16年1月16日)
    • (3)平塚防災まちづくり懇談会(平成16年6月、9月開催)

vol9-006-009-p1

支援ネットワークボランティア

vol9-006-009-p2

応急救護訓練(親と子の防災デー)

vol9-006-009-p3

耐震補強の実験(親と子の防災デー)

vol9-006-009-p4

絵本ブース(親と子の防災デー)

vol9-006-009-p5

防災カルタ(親と子の防災デー)

vol9-006-009-p6

防災ミニ集会

vol9-006-009-p7

平塚七夕飾り

vol9-006-009-p8

汽車ぽっぽでのミニ集会

vol9-006-009-p9

平塚七夕祭り制作風景

vol9-006-009-p10

防災勉強会

苦労した点

  • 1.既存の地域防災組織(自主防災組織)との連携
     平塚では各自治会に自主防災組織がある。地域での防災の浸透にはこれらの組織との連携が不可欠である。幸い、公民館ならびに公民館主事の協力を得ることで、防災まちづくりの会にあるそれぞれのグループの活動を逐次広報し、積極的に参加を促し、参加してもらうことで次第に好意的になり、自治会へと広がりができた。また、防災まちづくりの会のメンバーが自治会の防災部門を担うところもでてきた。
  • 2.ゆるやかな連携の形成
     基盤が異なるグループが互いに連携をする場合にはとかく衝突等がおきやすい。防災まちづくりの会では、緩やかな連携をつくることとした。緩やかな連携とは、自分たちの関心事・心配事に焦点を絞り、自分たちのできることからはじめ、自分たちだけでできないことを、話し納得してもらいながら、関係者・他のグループを巻き込むことである。その結果、より多くの人につながり、より大きな成果へとつなげていくことができるようになった。
  • 3.継続するための楽しみをつくること
     防災まちづくりは単発のイベントではなく、継続的に続ける 必要がある。非常に早く数多い取り組みの中で、平塚七タの参加、福祉NPOでのボランティアなどを交えて、より楽しんで取り組めるようにしている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 中林 一樹(東京都立大学大学院都市科学研究科教授))

 「ひらつか防災まちづくりの会」は、2003年8月に、平塚市でさまざまな活動をしている団体が進めていた活動を、「防災」をキーワードにして、緩やかに連携してできた団体である。「お母さんのための防災教室(花水地区子ども会育成会連絡会)」、「防災倉庫を探検しよう(花水防災ボランティア)」、「防災を考える集い(防災を考える会・地域防災を進める会)」、「旭小学校防災キャンプ(旭小学校PTA)」などの活動を進めていた人たちが、平塚市のまちを災害に強いまちにしようと大同団結したといえるが、そのきっかけはJR平塚駅前に「ひらつか市民活動センター」が2003年5月にオープンして、各活動が常時出会う場ができたこと、「防災を考える集い」などで上映した阪神・淡路大震災の被災状況を再現したビデオによって地震防災への取り組みの重要性を共有化したことであるという。

 「ひらつか防災まちづくりの会」は発足から日が浅いものの、この会の会員は個人で25名にすぎないが、それぞれが個別の活動団体に所属していること、その個々の活動をある時は、相互に支援し、ある時は連携し、そして必要があれば新しい目的による活動隊をつくりながら、地域の諸団体を巻き込んで急速に活動が広がっている。地域の小学生の絵と言葉で作る「防災カルタ作成委員会」、地震を知らない外国人向けに8カ国語で作っている「多言語マニュアル作成委員会」などはその代表的活動である。また、「防災まちづくり大賞」受賞団体であるコミュニティFM「湘南ナパサ」や、地域のケーブルテレビ関係者が運営する  SCNクラブと連携してさまざまな防災情報と地域に広げているとともに、自治会、宅老所などの福祉団体、NPOなど、多様な団体とのネットワーク活動の要がこの「ひらつか防災まちづくりの会」なのである。現在、最も力を入れている活動は既存住宅の耐震補強で、その活動が平塚市を動かし、新しい事業として展開しつつある。これからの「防災まちづくりの地域展開」を推進する上で、まさにその模範であると思った。

団体概要

防災まちづくりの会 会員:20人  主に平塚市(特に花水地区・浜岳中学校区)で活動をしていた既存の5つの市民活動団体(花水防災ボランティア・防災を考える会・地域防災を進める会・ひらつか災害ボランティア・SCNクラブ)が2003年8月に防災をキーワードに集まって一緒に活動を始めた緩やかな連携でつながった組織。現在10団体の主だったメンバーが参加している。

実施期間

 平成15年~