第10回防災まちづくり大賞(平成17年度)

【消防庁長官賞】「震災復興まちづくり模擬訓練」の手法開発とその実践活動

【消防庁長官賞】「震災復興まちづくり模擬訓練」の手法開発とその実践活動

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首都大学東京・事前復興計画研究会
(東京都八王子市)

事例の概要

 阪神・淡路大震災の教訓の一つに、被災後に始める復興計画の困難さがあった。そのため、防災基本計画の改定においても復興対策の充実が指摘された。
 東京都では、区部直下地震による被害想定の結果、阪神・淡路大震災を4倍上回る被害の発生が危惧され、その被害軽減への「防災都市づくり推進計画」とともに、事前復興対策に取り組むこととなり、都市復興マニュアル(1997)が策定された。2003年には震災復興マニュアルに改定され、東京の復興には、阪神・淡路大震災での方式とは異なる方式が必要ではないかと言うことから、被災地域にこだわった復興の取り組みとして「時限的市街地からの復興」と「地域との協働による復興」が提示されている。しかも、地域との協働復興には、阪神・淡路大震災の教訓のように、事前に地域でまちづくり活動を進めたり、組織があることが迅速な復興まちづくりのためにも重要である。
 そのような観点から、2002年度から文部科学省大大特(大都市大震災被害軽減特別プロジェクト)に参加し、「復興まちづくり計画の合意形成システムの開発」をテーマとして、東京都・練馬区とともに、練馬区貫井地区で「震災復興まちづくり模擬訓練」を行うことになり、どのように復興まちづくり模擬訓練を行うべきか、その手法開発に取り組んだ。基本的に4回のワークショップ、①地域の課題を考える、②避難所から復興の課題を考える、③地域での仮設居住(時限的市街地)を考える、④街の復興まちづくり計画を考えてみる、を軸に、町歩き・ロールプレーイングゲーム・仮設住宅の模型による時限的市街地づくりデザインゲーム・地図上シミュレーション(DIG)などの手法と活用法を開発していった。地元住民組織の幹事会との打ち合わせ・行政との準備打ち合わせなど14回以上のミーティングによって7月~11月で訓練を終え、大きな成果を得ることが出来た。この成功が大きなきっかけとなって、2004年度から東京都の補助事業として「復興市民組織育成事業」が創設された。
 2004年度は、新小岩地区にいて連合町会・まちづくり協議会と研究会とで実行委員会を結成し、東京都・葛飾区さらに復興まちづくり支援機構の参加を得て、復興まちづくり模擬訓練を実施した。ここでは、復興まちづくり支援機構(東京弁護士会など8業士団体など)の専門家の訓練の場にも提供し、専門家との対話によるディブリーフィング(イメージの現実対照化)の手法も開発した。
 訓練のみならず、震災後の復興まちづくりの支援に向けて、「復興まちづくり模擬訓練」を展開している諸団体・組織、コンサルタント、大学などのネットワーク化が必要であり、復興まちづくりに関わる支援主体の連携・協働を呼び掛けているところである。

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ワークショップ

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満員の会場

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模型の仮説住宅計画づくり

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グループ討議の発表

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復興まちづくり計画の報告

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模型で仮説住宅団地の検討

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スタッフ打合せ

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葛飾町歩き

苦労した点

 いわば、世界で初めての「被災する前に復興を考える」という『復興まちづくり模擬訓練』を、地域住民の方に説明し、理解して頂き、訓練の実施にこぎ着けることが最も重要であるとともに大変であった。
 練馬区は、区立の小中学校を地域の「避難防災拠点」と位置づけ、住民による拠点運営会議」を組織し、避難所訓練は熱心に実践してきていたので、『避難所まではうまくいったとして、その先、避難してきた自宅を失った皆さんはどのように生活・住まい・仕事・街を復興していくのですか。それをみんなで考えてみませんか』という問いかけが、地域の皆さんに受け入れてもらえたものと考えている。

特徴

 「復興まちづくり模擬訓練」は、緊急対応期の避難所から応急仮設住宅、そして住まいと仕事、街の復興までを連続的に展開する「連続復興」の制度手法の検討に資するとともに、復興の大変さを疑似体験することで、事前の被害軽減のための防災まちづくりの重要性を、改めて気付かせることにある。
 その意味で、「防災まちづくり」に行き詰まりを感じている地域に、発想を転換してまちづくりに取り組むための仕掛けともなるし、また自主防災組織など災害緊急対応や避難所訓練に熱心であるが被害軽減も防災まちづくりへの展開が図れない地域での、「防災まちづくり」への展開の仕掛けとしても有効である。
 また、復興に向けての地域住民・行政・コンサルタントなどの専門家・弁護士などの専門業種の総合的な訓練の場として、地域の住民組織の立ち上げのみならず、専門家のネットワークづくりを促進することも、重要な点である。
 そのために、研究会メンバーが中心になって「震災復興まちづくり模擬訓練の手引き」を編集し、(財)東京都防災・建築まちづくりセンターにて、刊行した。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員長 澤井安勇(総合研究開発機構理事))

 本事業は「被災する前に復興を考える」という復興まちづくり模擬訓練を、大学・専門家のアドバイスを受けながら、行政も参加して住民中心のワークショップ・スタイルで実施するものである。研究会では、2002年度から、練馬区、新小岩などにおける実践を経て、2006年2月には、八王子市で、地域協働復興模擬訓練が行われた。
 当日は、地区毎にグループ分けされた市民グループが、半日をかけて地区内の被害想定、復旧・復興シナリオなどを作成し、仮設住宅のレイアウトなどの検討も体験して、総括的な全体発表で終了した。その過程で、ロールプレーイングゲームや仮設住宅の模型とCCDカメラを使ったデザインゲームなど、楽しみながら進行できるような工夫が随所に取り込まれており、災害復旧計画とコミュニティ・プランニングをミックスした厚みのある内容構成となっているところが、従来の防災ワークショップにない新鮮な印象を与えている。訓練参加者は、災害の発生から、避難、復旧のシナリオを地域の仲間と討論しながら、災害発生から一定の時間の経過を経た状況を、その都度頭の中に思い描きながら図上訓練を進めていくこととなる。訓練当日は、平日の午後ということもあり、参加メンバーは比較的高齢者が多く、主婦・若者層が少なかったが、今後、自治体がサポートして、日常的な地域コミュニティ活動の一環として組み込むことで、さらに幅広い住民の参加と災害に対する前向きの思考方法の普及が期待できるのではないかと感じた。

団体概要

  • ・ 事前復興計画研究会:首都大学東京教員4名・東京大学教員1名・民間専門家2名及び訓練時には大学院生10~15名がファシリテーターとしても活躍。
  • ・ 訓練時には、東京都(総務部復興企画係)、練馬区・葛飾区(災害対策課とまちづくり推進課との連携)、地域の町内会・連合町内会・商店会・まちづくり協議会などのが参加して、緩やかな実行委員会を構成する。
  • ・ 地元のコンサルタントや弁護士会などの専門家の参加も要請している。

実施期間

 平成15年~