消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
地域団体等の連携による若い世代の防災サポーターの育成
若い世代の防災サポーター育成委員会
(徳島県つるぎ町)
事例の概要
■経緯
徳島県西部圏域は、多くの地すべり地帯を抱えているため、土砂災害が発生しやすい。
高齢化の進行、自主防災組織の結成率が低い現状から、災害時の対応力が脆弱である反面、防災教育を先駆的に取り組んでいる学校もあった。
このため、「災害に強い人とまちづくり」を目ざし、小中学生等を中心とした若い世代の防災意識の高揚を図るために、「若い世代の防災サポーター育成事業」を実施することとなり、地元の住民団体や関係機関で「若い世代の防災サポーター育成委員会」を組織し、小中学生を対象とした育成講座や実地訓練を開催した。
■内容
- 1. 「若い世代の防災サポーター育成委員会(以下、「育成委員会」という。)」の開催
育成講座の内容などの検討について4回開催した。構成は次の表のとおり。 -
関係機関 つるぎ町小学校(5校)、つるぎ町中学校(3校)つるぎ町教育委員会、つるぎ町社会福祉協議会、美馬西部消防組合消防本部 住民団体 美馬西部消防組合消防団、つるぎ町生活改善推進協議会、半田小学校PTA、半田中学校PTA 事務局 徳島県西部総合県民局、つるぎ町総務課 アドバイザー 徳島大学環境防災研究センター - 2. 若い世代の防災サポーター育成講座(基礎学習)の実施
つるぎ町内の各小中学校8校へ育成委員会が出向き、「災害を知る」と題し、南海地震や土砂災害の学習、「地域を知る」と題し、地域に起こりやすい災害と災害時要援護者について、また「図上訓練」では、危険箇所など防災マップづくりについて指導した。 - 3. 若い世代の防災サポーター育成講座(実地訓練)の開催
育成委員会が、実地訓練の運営や、進行役、講師を担当し、次のプログラムに沿って小中学生139名および教員33名に防災教育活動を行った。 -
日時
H19.11.11
場所
つるぎ町スポーツセンター災害時要援護者の避難誘導訓練 けが人の応急手当・簡易タンカを使った搬送訓練 炊き出し訓練(地元の食材である半田そうめん等を使用) 災害時の心構えワークショップ 徳島県知事による防災ミニ講演 - 4. 「若い世代の防災サポーターの手引き」の作成と普及啓発
育成講座の成果や参加した小中学生に課した宿題を、「若い世代の防災サポーターの手引き」としてA4版12ページの冊子に編集・作成し、圏域内の学校、自主防災会、関係機関等に配布し、普及啓発に用いた。
若い世代の防災サポーターの手引き
基礎講座学習
炊き出し訓練
育成委員会会議
実地訓練(簡易タンカの作成)
実地訓練(障がい者を想定した避難誘導)
ワークショップ
図上訓練
実地訓練(避難誘導支援の指導)
苦労した点
- 1. 防災教育は、学校間に意識の差があるため、町教育委員会に協力依頼し、町校長会で説明し、理解いただいた。
- 2. 育成委員会の参加機関が17団体と多いため、機関の協同と連携を作るのに頻回の打ち合わせや意見の違いの調整が必要であった。
- 3. 実地訓練は、進行計画や安全対策など、育成委員会で頻回の打ち合わせが必要であった。当日は、長時間にわたる運営や、戸外での炊き出しなど初めての体験に苦労が多かったが、委員一丸となって対応できた。また、小中学生も自主的に準備や片付けなどを担当できた。
特徴
- 1. 小中学生が、災害時の行動および災害が起こる前の行動など学んだことを、家族や地域の人に伝えたいという気持ちになった。
- 2. 地域の団体と連携した取り組みは、個々の学校では実践困難であるが、育成委員会を通して実践できた。
- 3. 住民団体と防災関係機関、行政が共同して、地域の防災対策の課題を共有化し、対策を話し合うことができた。
- 4. 育成委員会は解散したが、引き続き、育成講座の成果を生かし、各小中学校で、地域と連携した防災学習や訓練の企画をしたり、各団体で防災訓練を実施したりと防災意識の継続が生まれた。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 飯島 義雄(総務省消防庁国民保護・防災部防災課長))
徳島県西部圏域は、多くの地滑り地帯を抱えており、土砂災害の発生も懸念されている。また、つるぎ町は、高齢化率40%に近い地域であり、地域の防災を担える人材の確保に苦慮していた。
このため、「災害に強い人とまちづくり」を目指し、小中学生を中心とした若い世代の防災意識の高揚を図るため、徳島県西部総合県民局とつるぎ町が、町内の住民団体や関係機関で組織した育成委員会が中心となり、育成講座や実地訓練などを実施した。この事業により、小中学生に対して、総合的な学習の時間などを活用した育成講座を開催するとともに、休日を活用した実地訓練が行われた。また、この訓練に併行して、幼稚園、小学校、中学校が連携した避難訓練が行われ、その中では、小中学生が小さな幼稚園児の手を引いて避難するなどという小中学生の成長が感じられる場面も見られたとのこと。
この事業は、小中学生の防災意識の向上のみならず、家庭内での防災意識にも影響を与えたと考えられ、ある小学校では家庭内での非常持出品の整備率が20%から100%近くになったとのこと。また、自主防災組織の活動カバー率も、約7%から約60%になるなど、地域における防災意識の向上にも大きく寄与していると考えられる。
この取組みは、行政主導ではなく、行政・教育現場、地域がうまく連携して、地域全体で指導を行うことにより、地域全体の防災力向上につながった良い事例と考えられ、今後も継続した取り組みを行っていただくことを期待したい。
団体概要
- 構成人員
- 23名
- 団体概要
- 消防団、生活改善推進協議会、PTA、消防本部、社会福祉協議会、小学校、中学校、教育委員会、町防災担当、総合県民局
実施期間
平成19年~