第13回防災まちづくり大賞(平成20年度)

【消防科学総合センター理事長賞】災害時避難所生活シミュレーション「避難所」から「生活の場」へ

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
災害時避難所生活シミュレーション「避難所」から「生活の場」へ

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伊佐区自治会・沖縄県社会福祉協
議会・宜野湾市社会福祉協議会
(沖縄県宜野湾市)

事例の概要

■経緯

 沖縄県社会福祉協議会(以下「県社協」という)が、日本郵政公社(現:日本郵便)の助成を受け、「災害被災者パワーアップ事業」を実施。そのひとつとして本事業を位置づけている。県内の市町村社会福祉協議会にモデル地区の募集をかけ、宜野湾市社会福祉協議会(以下「市社協」という)が申請、モデル地区を宜野湾市伊佐区に決定。市町村社協を支援する立場としての県社協と、住民主体・支え合いのまちづくりをすすめる市社協、住民の自治組織である自治会と3者が共同で「災害」、特に「津波」をテーマに事業を実施するに至る。伊佐区は、西海岸に面する埋め立て地区であり、人口4,117名、1,636世帯が生活している。高齢化率は12.7%、自治会加入率は45%である。(平成18年3月現在)ここ数年人口は増加しており、地区の一部には外国人住宅が建ち並んでいる。

■内容

  • 1. 「モデル地区会議」を随時開催(主催3者、行政福祉総務課、行政総務課)
     参加している機関の役割や現状、課題を整理しながら、事業の内容について検討、決定した。
  • 2. 「伊佐区津波避難訓練」の実施
     西海岸に面した地区であるにも関わらず、指定された避難場所が津波発生時の浸水域であるという現状を踏まえ、避難訓練をする中で感じた課題や不安を参加者相互で確認しあい、防災意識を高めるということを目的に実施。およそ400名の住民が参加した。避難訓練は久米島沖に地震が発生したことを想定し、30分以内に避難所まで移動することを目標とした。移動後は、参加しての不安や感想の聞き取りと共有、赤十字奉仕団による炊き出しを行った。近くの保育所や身体障がい者施設利用者、外国人居住者も訓練に参加した。
  • 3. 「伊佐区避難所生活シミュレーション」の実施
     長期的な避難生活にあたって、住民同士で声を掛け合い、住民自治のもとで避難所生活を行う疑似体験(113名参加)を行い、さまざまな気づきの中から防災意識を高めることを目的に実施。災害避難に関する「はい」「いいえ」クイズや避難所運営組織の立ち上げ、物品(食料)の配分などを行い、不安や心配なことを共有した。
  • 4. 「災害にも強い地域づくり報告会」の開催
     上記2つの取り組みを通して、どのような成果があったか、今後はどのような取り組みをすすめていくのか、ということについて「自治会」「行政」「市社協」の立場からそれぞれ報告を行った。

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会議の様子

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避難所生活シミュレーション

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避難訓練に参加した住民

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避難所生活シミュレーション

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避難所生活シミュレーション

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避難訓練での炊き出し

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避難所生活シミュレーション

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事業報告会

苦労した点

  • 1. 共同事業であったため、内容の企画については何度も話し合いを重ね、お互いの納得の上で事業をすすめた点(共通認識を持つこと)
  • 2. 住民の参加あっての事業なので、どのようにすれば人が「参加しよう」と思えるか、災害についての「理解」を深められるか、また「その場を楽しめるか」など知恵を出し合った点
  • 3. 当日の想定外のハプニングへの対応(避難訓練への参加者が想定外に多かった、音響がよくなかった、途中から雨が降り出した・・など)に主催者側の連絡体制や決定に手間取った点
  • 4. 当日までの準備(物品や広報など細かい作業)

特徴

  • 1. 事業の中で、住民の声や思いを多く「聞き取る」機会を設定した
  • 2. アドバイザー(被災体験者)の参加があった
  • 3. 地域住民の参加のもと、事業を企画し地域の人材(英語の分かる人)や企業の協力を得た
  • 4. 地域特性に対応した広報活動を行った(英訳チラシ、放送の実施)
  • 5. 災害時要援護者の存在について参加者に気づきを与え、普段の生活の中で近隣住民どうしの関わりの重要性について考えるきっかけづくりを行った
  • 6. 事業実施により、行政が住民への具体的支援に取り組むきっかけとなった
  • 7. 参加した機関の「災害時の役割」を検証する素材になり、地域発の市民防災計画をつくるにいたった

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 髙野 公夫((株)マヌ都市建築研究所所長))

 「津波が来たら何処に逃げればいいのだろう」。先年、沖縄県が実施した地震津波被害想定(想定震源地は久米島沖)の発表を機に県民の防災意識が高まり、このプロジェクトが始まった。津波が襲ったとき沿岸部住民の避難や避難生活はどうなるのか、防災力向上の必要性を感じ、パワーアップ事業を企画・提案したのは県の社会福祉協議会だった。一方、以前より津波対策の必要性をアピールしていた宜野湾市「社協」と伊佐区の自治会はこの呼びかけに応じ、県内のモデル地区となってスタートした。
 伊佐区は、東シナ海に面した宜野湾の沿岸部に位置している。戦後埋め立てでできた住宅地で、西海岸の水際線は高潮に備えたテトラポットと防潮堤で固められ、住宅地の背後は、米軍キャンプ・嘉手納基地のフェンスが長大なバリアーをつくっている。そして、伊佐区の指定避難所といえば想定浸水域の中に入っているのだ。何処にどう逃げればよいのか、避難生活はうまくいくのか、三者連携による避難訓練と避難所生活シミュレーションは、住民自らの参加による被災実験だった。外国人居住者も参加したこの疑似体験実験はおおむね好評で、課題も多く抽出され、所要の成果を上げたようである。継続は力なりといわれるが、このような防災活動を日常化していくことが大切であろう。ハード面の課題を取り上げれば、何よりも高齢者が身近なところに安心して避難できる公共的な避難施設の設置であろう。また、老朽化した防潮堤の改善も急務とされるのではないか。課題は山積しているが、伊佐区の取り組みが今後の沖縄全土の津波防災、地域防災を先導するモデルとなることを期待したい。地域福祉にかける「社協」の若いスタッフの意気込みと、女性自治会長さんをはじめ、住民のまちづくりにかける真摯でパワフルな姿が印象的だった。

団体概要

  • ○伊佐区自治会
     人口4,117名、1,636世帯が生活している。(平成18年3月現在)
     ここ数年人口は増加しており、地区の一部には外国人住宅が建ち並ぶ、西海岸沿いの地域である。戦前は湧き水が豊かで小さな純農村部落であったが、戦後の埋め立てにより住宅や公共施設も増え、転居者も多い。
  • ○宜野湾市社会福祉協議会
     地域福祉の推進を目的にしている職員数15名の民間組織である。社会福祉に関わる問題点を見出し、解決するため、住民やボランティアあるいは当事者、さらに保健・医療・福祉・教育など関係分野の専門家のパイプ役となりながら住みよいまちづくりを進めている。法人化は昭和47年、会員制によって成り立っている。
  • ○沖縄県社会福祉協議会
     社会福祉法に基づき設置されている職員数84名の民間組織で、県域での地域福祉の充実をめざした活動を行っている。災害時には市町村社会福祉協議会のボランティアセンターと連携しながら、必要に応じて災害時ボランティアセンターを立ち上げるなどして被災地支援も取り組んでいる。

実施期間

 平成19年9月4日~