消防科学総合センター理事長賞(防災情報部門)
ITを利用した情報伝達システムとHPでの活動情報公開と防災情報公開に連動した商店街との複合活動
郡山市消防団郡山中央地区隊中央第一分団第二班(駅前部)
(福島県郡山市)
事例の概要
■経緯
郡山市は平成10年8月25日から28日にかけての豪雨災害(8.25災害)で多大な被害を出した。団員数が減っている中での人員配置には、当時ボランティアで出されていた河川水位の情報をインターネットで入手し、団員配備を行ったため、効率の良い活動ができた。また、同時期には放火も多発したため、広報活動の一方法としてインターネット部門を設立し情報ネットワークを構築する事となった。
■内容
- 1. ホームページでの活動情報公開
平成11年4月よりホームページを開設し消防団の活動状況を公開する事で、より多くの市民に消防活動の理解と協力に努めてきた。放火などの事例の場合、その事例を公開する事で注意を促し防犯の効果に期待している。子供達にも着目し、消火を題材としたゲームやペーパークラフトなどのページを設置した。大人向けには、簡単な消防団法規や役割、義務などの項目や緊急時に役立つ情報を常時公開している。 - 2. ITを利用した情報伝達システム
緊急時に団員全員に瞬時に伝達できるように携帯電話のEメール機能を利用した一括送信システムを構築した。
この技術を応用し、常時郡山広域消防本部のHPの火災速報の部分をコンピュータで自動巡回させ、情報を感知すると団員全員に伝達される。また、音声認識技術を利用して詰所内の消防無線をコンピュータが傍受し災害発生時に自動で団員に伝達される(火災通報システム)。 - 3. 商店街との複合活動
地元商店街のイベントに消防車の展示や防災活動の広報を行っている。HPで公開しているペーパークラフトをプリントアウトし子供達との交流を行ったり、放水のデモンストレーションなどを行っている。展示車輌は、ポンプ車、電源照明車、赤バイなど。 - 4. 団員増強
平成19年までは駅前部の団員は減りつづけ8名までになっていたが、「やりがいのある活動」「なしとげた達成感」が地域に浸透し、地道な活動が実り平成20年には11名の新団員を入団させる事に成功した。現在も入団希望者が数名いる状況である。 - 5. 安全管理体制
災害状況は時代とともに高度化しており、団員教育の一環として定期的に安全管理講習を実施している。主な内容は、近年の木造火災の注意点とヒューマンエラー。
消防団という職務上、24時間365日緊急出動時に備え待機状態であるため、「ハンドルキーパー」制度などにより飲酒運転の防止に努めている。HPで取組みを公開する事で、新たな意識改革を推進している。
夜間警戒
(福島放送「Jチャンネル」平成19年2月19日放送)
夜間警戒
(福島放送「Jチャンネル」平成19年2月19日放送)
商店街でのイベント(ペーパークラフト)
金透小学校サマーフェスタ
商店街でのイベント
新聞掲載の一部紹介
(福島民報新聞 平成12年6月3日)
新聞掲載の一部紹介
(福島民友新聞 平成20年5月5日)
郡山中央地区隊中央第一分団第二班駅前部HP
http:// hikeshi.if.tv
商店街でのイベント
苦労した点
- 1. ホームページでの活動情報公開
ホームページに情報公開をする際に語群の取り扱いに苦労した。「火災」を題材にしているだけに語群の使い方を間違えると、被災者のプライバシーを侵害する為、現在も最新の注意を払っている。 - 2. ITを利用した情報伝達システム
システムには高度な技術を使用した部分があり、完全とまではいかないがIT技術の進化とともに新たなシステム構築に苦慮しているが、さらなる情報伝達システムを考案中である。 - 3. 商店街との複合活動
商店街の活性化と消防広報は地域密着の消防団には必須の課題で、商店街の衰退は消防団の衰退を意味していると認識し、毎年イベントにはマンネリを防止するように、平成20年から「見せる消防団」をテーマに活動した。一般市民から見て楽しいと思ってもらえるか、防火の意識の向上を考え企画した。 - 4. 安全管理体制
平成19年から実施している安全管理講習についてはテキストの入手に苦慮したが、現在は入手したテキストを参考にピンポイントに講習を実施できるまでになった。平成20年には消防科学総合センターHP内の「消防防災博物館」から、最新の災害事例などを活用している。
特徴
- ○ホームページでの活動情報公開
時に事件などがあると、掲示板での対応に負われることがあったが、広く意見が聞けるため今後の活動に役立っている。消防団の活動を公開する事で、過去のイメージから脱却。地道な活動が実り、平成20年には、新団員11名の入団に成功した。 - ○ITを利用した情報伝達システム
一括送信システムにより、1~2分程度で出動可能人員を確保できるようになった。
自動火災通報システムはより安全で迅速な緊急出動に貢献しており、現場到着の平均は10分程度となった。
年間緊急出動は約50回で、うち放水活動は平均15回である。(過去の出動履歴はHPに公開中) - ○商店街との複合活動
消防団のイメージアップのため地域密着活動のイベントを実施これにより、商店街の理解と協力が得られるようになり、HPの閲覧も増えた。
今後も新鮮な情報をリアルタイムにお知らせできるように努めたい。 - ○今後の課題として、一人暮らし高齢者の把握と予防活動と住宅用火災警報器の普及に向けた企画を来年度実施に向け企画中である。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員長 澤井 安勇((財)日本防炎協会理事長))
郡山市消防団の駅前部は、郡山駅前商店街の後継者等が中心となって活動している平均年齢36歳の大変元気のよい消防団であるが、今回の受賞対象となったIT活用の情報伝達システムは、団員の工夫と努力で開発されたオンリー・ワンの手づくり防災情報システムである。駅前部では、阿武隈川の水害を契機に、10年前から駅前部独自のホームページを立ち上げ、消防団の活動状況や災害情報を流したり、消防車をモデルにしたペーパークラフトを提供するなど市民との交流を推進する一方、既存のゲームソフトなどを改良して、消防本部から送られる無線火災指令の音声を認識して駅前部事務所に置かれたPCを経由して団員の携帯に同報メールを送るシステムを開発し、HPの火災情報とともに団員に送る伝達システムを完成させている。このシステム開発は試行錯誤の連続だったようであるが、最新の情報技術とアナログ型のローテクを上手く組み合わせた実用的で手作り感覚の装置である点、極めてユニークなものと感じた。またハンドルキーパー(当直)制度として必ずシラフの団員を確保したり、ポンプ車にドライブレコーダーをとりつけるなどの安全管理体制にも気を配られていることにも感心した。地元商店街との交流活動も積極的に推進するなどの努力が実り、2007年まで減り続けて8名になっていた団員も11名の新規加入があり、2009年度以降も入団者が見込めるなど活気を呼び戻しているという嬉しい話題も聞いた。この情報伝達システムについては、マシンの更新などによる処理スピードの向上等の技術的課題もあるようだが、持ち前の行動力と研究開発心を駆使して、駅前商店街地域の安全確保に更なる貢献をされるよう願う次第である。
団体概要
- ・郡山市消防団郡山中央地区隊中央第一分団第二班(駅前部) 18名
- ・大町商店街・駅前大通り商店街 イベント参加人数 約600名
- ※数字は平成20年5月現在
- ホームページアドレス http:// hikeshi.if.tv
実施期間
平成11年4月~