第13回防災まちづくり大賞(平成20年度)

【総務大臣賞】地域に根付く「世界遺産」を守る防火体制

総務大臣賞(住宅防火部門)
地域に根付く「世界遺産」を守る防災体制

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荻町区
(岐阜県白川村)

事例の概要

■経緯

 世界遺産に指定されており、また、現在も住宅として使用されている合掌家屋を中心とした荻町地区の環境を守るため、昭和46年以降、「売らない」「貸さない」「壊さない」という三原則を基本とした住民憲章に基づいて保存運動を推進してきた。
 防災対策においても、茅葺きである合掌造りは、1軒でも出火した場合、飛び火により集落全体が燃失してしまう恐れがあるため、交代制で1日4回地域住民により実施している見回りや、村役場により整備された放水銃等の管理・運用等を行うことにより、地域の財産を守るための防災活動を日常生活の一部として実施している。

■内容

  • 1. 地区住民による見回り
    • ・日常的な見回り
      1回目
      昼頃「火の番やで、頼む」と声をかけて各戸を回る。
      2回目
      夕方、拍子木を打って回る。
      3回目
      午後9時頃、杓杖を鳴らしながら「火の用心いいかなぁ」と声をかけて各戸を回る。

      1~3回目は地区内の各組(全7組)毎に回る。

      4回目
      夜11時頃、約1時間をかけて拍子木を打ちながら回る。

      4回目については、地区内に6箇所スタンプを設置したポイントがあり、スタンプを押すことで地区全体を見回ったことの確認としている。

    • ・8月の週末の見回り
       地区内は花火を禁止にしており、8月の週末は地区内の消防団員が巡回を行う。
  • 2. 消火設備の整備と管理運用
    • ・放水銃等の整備
       火災の発生に備え、地域住民でも消火活動を行うことができるよう要望し、消火栓だけでなく、放水銃が村役場により整備された。
       これらの設備は、地区住民により管理・点検が行われ、毎年秋には放水銃の一斉放水訓練を実施している。

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景観に配慮した放水銃格納箱(表側)

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晩秋の風物詩一斉放水の全景

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一斉放水の様子(集落近景)

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一斉放水の様子(集落近景)

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一斉放水の様子(集落近景)

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放水銃(出水)

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放水銃(格納箱をとった状態)

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景観に配慮した放水銃格納箱(裏側)

苦労した点

  • ・ 平成7年に世界遺産に指定され、観光客も増加したことから、たばこなど火の使用に関してさらに配慮していくことが必要となった。

特徴

  • ・ 30年もの昔から地域の生活を守るとともに、集落の歴史的風致を保存する意識を地区全体が共有し、取組を行ってきたことから、地区住民にとって防火活動が特別なものではなく、日常生活の一部となっていること。
  • ・ 観光地であることから、消火設備の整備に際しても景観に配慮しており、放水銃の格納庫は合掌造り型としている。
  • ・ 年1回の放水訓練の風景は世界遺産である荻町集落の特徴的風景としてその魅力の一因となり、誘客の一翼も担っている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 髙野 公夫((株)マヌ都市建築研究所所長))

 JR名古屋駅から「特急ひだ」で高山駅まで約2時間半、そこからクルマで40分。飛騨高地の北端、富山県との県境にある白川村荻町地区を訪れた。さすが世界遺産に登録されただけあって見事な集落景観を呈していた。江戸期から明治にかけて建てられた139棟の民家が残っている。小雨交じりの天候であったが、観光客でにぎわっていた。こんな山深い小さな集落に年間120万人もの人が訪れるという。以前から人気の高い観光地となっているが、それは日本の農村の原風景への郷愁と、その環境をかたくなに守って暮らしている住民の人たちへの畏敬の念が多くの人々の旅心を誘うからだろう。リピーターの人たちも少なくないと村長の谷口さんは誇らしげに語っていた。
 茅葺き民家集落の最大の脅威は火災だ。そのため、荻町地区では徹底した防火対策が行われている。その一つが住民による見回り。住民の人たちが手分けして、拍子木や錫杖を使い、声を掛け合って、昼と夕方、夜2回、なんと一日4回もの火の用心活動を続けているのだ。もう一つの防火対策は、放水銃の設置だ。集落の要所に59基の放水銃が配置され、水利は標高差80mの高台の600tの貯水槽から供給される。自然水圧があるので30mの高さまで放水できる。年1回の放水訓練は実に壮観で、白川村の風物詩にもなっている。
 放水銃が威力を発揮したのは、先年、集落近傍の製材所で火災があった時だ。「消防団が放水銃で集落全体に水幕をはり、それで飛び火による延焼を免れました。緊張しました。」と区長の佐藤さんが話してくれた。普段の防災活動と近代技術を活かした防災システムが功を奏したのである。しかし、今後の課題もある。それは老朽化を踏まえた防災設備の点検と更新であろう。「結い」の伝統も残り、住民の連帯や互助活動は健在であるようだ。このような暮らしの場と地域の文化を守る姿も世界遺産といえるだろう。世界に誇るこの合掌造り集落をいつまでも守り続けていって欲しいと願う。

団体概要

荻町区
139戸 590人

実施期間

 昭和46年~