第11回防災まちづくり大賞(平成18年度)

【消防科学総合センター理事長賞】「土石流避難訓練」による土砂災害防止思想の普及

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榛名山区災害応急対策委員会
(群馬県高崎市)

事例の概要

■経緯

 榛名町社家町地区は、昭和57年台風10号の影響で集中豪雨により榛名神社参道や神楽殿が土石流による被害を受けた。地形が急峻で集中豪雨が発生しやすいことから、昭和58年に建設省が土石流予警報装置を設置している。これを受け地元・町・県・建設省が協力し、昭和58年6月28日第1回の榛名町予警報装置による土石流避難訓練実施以来、平成18年6月26日第24回まで毎年土砂災害防止月間にあわせて実施している。

■内容

 訓練は、榛名町役場及び地元自治区である榛名山区が主催し、榛名山区災害応急対策委員会が中心となって行われ、住民からの前兆現象の報告を受けた防災責任者が、注意報や警報を発令し、住民や小学生が避難場所に避難する。注意報や警報の発令は、土石流予警報装置を使用して行われている。
 実施の目的は災害から住民の生命・身体・財産を守るため、土石流に関する情報の収集・伝達、防災意識の高揚、警戒避難体制の確立、防災意識の普及・豊かな郷土づくりを達成するためである。
 人為的な操作により土石流予警報装置を作動させ、サイレンを鳴らし住民を含めた関係機関による情報伝達訓練。さらに、大雨洪水注意報が発令された後、住民たちが各自で土砂災害の前兆現象のチェックシートを確認し、防災責任者に通報を行い、それに基づいて自主的な判断により避難するということも行っている。

■土石流予警報装置の概要

 この装置は対象地区の降雨強度・連続雨量を観測し、あらかじめ設定した警戒基準及び避難基準雨量を超過した時点でサイレンを自動的に2段階で鳴らし、同時に電話回線により関係機関(榛名町役場及び事務所)に基準雨量を超えたことを通報するものである。

■情報伝達訓練

  • 1.行政→行政(榛名町役場→利根川水系砂防事務所)
    榛名町は土石流予警報装置による自動通報受信後、電話にて自動通報の事実確認を利根川水系砂防事務所に行う。(正常稼働の確認)
  • 2.住民→住民(住民→地元防災責任者)
    自宅周辺の前兆現象情報や避難開始を地元防災責任者へ通報する。
  • 3.住民→行政(地元防災責任者→榛名町役場)
    住民からの前兆現象情報を収集し、榛名町役場へ通報する。避難途中に負傷者が出た場合の救出要請等。
  • 4.住民→住民(地元防災責任者→住民)
    予警報装置により、注意報及び警戒法の発令を行い住民が避難する。

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土石流避難訓練

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土石流避難訓練

苦労した点

 以前の社家町における避難訓練は行政依存型であった面もあるが、数年前この地区が集中豪雨で交通手段が寸断される土砂災害が発生し、約15時間社家町地区が孤立する被害が発生した。幸いにも急患がなかったため、生命に関わる事態はなかったが、一時は騒然とした雰囲気となった。
 このことがきっかけで、災害時に行政をあてにするのでなく、自分たちの地域で活動を起こさなければならないという危機感が身に付き、訓練への取り組み方や日頃からのコミュニケーションを大切にするなど、地元に活気が出てきたのは大いに改善できた点である。

特徴

 我が家の避難計画図表の利用マニュアルを全世帯に配布して、降雨量チェックシートに1時間毎の雨量を記入したり、自宅周辺の斜面や渓流で水が出てきたり等、前兆現象をチェックシートの該当項目にチェックを付け、防災責任者へ連絡をするなど避難計画図表の活用を推進している。また、地区内で土砂災害の前兆現象が起こりやすい箇所を地図に記した表も各世帯へ配布している。これにより周囲の点検と早めの避難が出来るようになった。

委員のコメント【防災まちづくり大賞選定委員 重川 希志依(富士常葉大学環境防災学部教授)】

 「避難の勧告・指示が出てもなかなか避難してくれない」。津波や風水害、土砂災害に対する警戒避難体制を検討する際に必ず問題となる点です。しかしながら本事例では、住民自らが雨量を測定し、するべき時期を見極め、地域住民すべてがその情報に従い事前避難を完了させる体制が整っています。なぜそのように住民の避難に対する意識が高いのか?お話を伺うと昭和57年におこった台風10号で極めて大きな被害を受けたことが大きな要因となっているようです。本事例の社家町(現高崎市)榛名地区は、榛名山神社を中心とし1400年以上にわたり信仰の地として敬われている歴史と誇りある地区です。ところが台風10号が来襲したときには、あちらこちらの沢から鉄砲水が噴き出し、3tもある石がゴロゴロと濁流の中を流れ、避難を呼びかけるにも人の声が全く聞こえない状況だったそうです。榛名神社の千本杉も600本以上なぎ倒され、この時つくづく「神様もあてにならない」と思ったそうです。神頼みではなく自分たちの手で安全・安心をという決意ではじまったのがこの取り組みです。避難の目安となる雨量の基準をどの程度にすべきかを自分たちで繰り返し議論し、行政が設定した基準よりさらに安全側に基準を設定して、その雨量に達したら自動的にサイレンが鳴る仕組みとなっています。とりわけ避難時期を予測することが難しい土砂災害について、地域の状況を最もよく知っている住民が自ら避難すべき基準を設定することは、極めて意義のあることだと思われます。土砂災害危険地域の警戒避難体制づくりを進めていくためのモデルケースとして、ぜひ参考としていただきたい点が多数ある事例です。

団体概要

  • ・県内唯一である1級河川「土器川」の左岸に位置
  • ・榛名町社家町地区
    人 口:69名
    世帯数:31世帯
    ※数字は平成18年4月1日現在

実施期間

昭和58年~