瀬谷区連合町内会自治会連絡会
(神奈川県横浜市)
事例の概要
- 1.事業のきっかけ
平成16、17年度の2か年にわたった「瀬谷区地域福祉保健計画」の策定の際、区民の意見を反映するために行った地区懇談会において多くの区民から、「災害時が心配であり、その中でも特に要援護者をどうしたら災害から守れるかということが、地域の課題である」という意見が出された。
「発災直後の対応は地域にしかできず、そのためには平常時からの地域の結束と支えあいがもっとも大切である」という意識は、区民の中でも急速に高まってきた。瀬谷区としても、防災のまちづくりを進めていくためには、区民主体の防災活動、特に災害時要援護者への支援活動が不可欠であるとの認識から、地域の支えあいにより要援護者への救援活動を推進する「災害弱者あんしんネットワーク事業」を区の重点事業とし取り組むこととした。 - 2.事業内容
自治会町内会ごとの要援護者への支援の手法などを含めた取組みの総体を「まちの防災知恵袋」と呼んでいる。「まちの防災知恵袋」は、
(1)地域を住民、行政、防災の専門のコンサルタントの3者で歩く「まち歩き
(2)まち歩きの成果を白地図に落とし地図情報を共有化する「マップづくり」
(3)まち歩き、マップづくりで地区の一体化を図ったのち、要援護者の情報を把握するために要援護者、支援する者の両者から提出してもらう「支えあいカード」
の3つの取組みを経て、最終的に地区の中で要援護者の情報が共有され、発災直後に地区で支えあう体制が形成されることを目的としている。
これらの一連の作業をマニュアルとしてまとめた「まちの防災知恵袋作成の手引き」は、行政が一方的に作成・配布するのではなく、各自治会町内会が「まちの防災知恵袋」をつくるため、瀬谷区内の15の地域防災拠点の代表者による検討会を開催し区民の皆さんと協働で半年かけて作成した。
この手引書を基に、地区で支えあいの町の体制が生まれ、瀬谷区の防災のまちづくりが一層推進している。
第3回知恵袋検討会
二ツ橋北部自治会まちあるき
ひばり地区防災まちあるき
五月台マップづくり
自治会の防災倉庫を点検
まちあるきで得た情報を議論
五月台自治会まちあるき
ひばり地区防災まちあるき
旭ヶ丘地区防災マップづくり
苦労した点
新聞報道などでも繰り返し報道されているが、区民の個人情報に対する意識の高まりがあり、当初から本事業の実効性に対する懸念があった。そのため、区の総力をあげての取組みが必要との判断から、瀬谷区においては防災を担当する総務課だけでなく、すべての課の管理職が地域に入り込み説明会の会場に足を運んでいる。
また、自治会・町内会への未加入世帯の存在も地域の自治会・町内会から課題である旨指摘をいただいている。
瀬谷区内の、全町内会自治会154のうち平成18年度で取組みが行われている地区は45単位自治会町内会であり、今後精力的な取組みが必要となってくる。
特徴
「瀬谷区福祉保健計画」の計画立案の際、地域に入り込んで地域の要望を聞く中で区民からあがってきた要望を具現化したのがきっかけである。
本事業のマニュアルである「まちの防災知恵袋作成の手引き」の策定も区役所が作成するのではなく、区内の15箇所の地域防災拠点から選出された15人の区民(検討委員会のメンバー)の評論の中から生まれたことも特徴である。
個人情報の意識の高まりの中、必要な要援護者に対する支援策への取組みを18区の中でも先進的に行っていることは特筆すべき点だと考える。
要援護者の個人情報の電算化については個人情報保護審議会の審議を経て了承を得た。
単位自治会町内会での取り組みについても、瀬谷区と瀬谷区連合町内会自治会連絡会(単位自治会町内会の連合組織)とで取組みについての趣意書を締結し、個々の単位自治会町内会とも、「支えあいカード」の取組みの前には個人情報の保護等についての協定書を締結した上、取り組むこととしている。
委員のコメント【防災まちづくり大賞選定委員 野村 歡(国際医療福祉大学大学院教授)】
瀬谷区は、横浜市の中でも緑が多く、また低層階の建築物が多く、昔の面影が残っているが、道路の整備が遅れている地域である。このような状況の当区が平成16、17年度に「瀬谷区地域福祉保健計画」を策定する作業の中で「災害が心配」との声が上がり、これを受けて重点事業として「災害弱者安心ネットワーク事業」に取り組むことにした。
そこで、区内にある自治会が中心になって「住民・行政・防災専門コンサルタントの3者で歩くまち歩き」「その成果を地図情報として共有化するマップづくり」「要援護者、支援者双方から提出してもらう支えあいカード」の取組を実施した。
この結果を基に区内15の防災拠点の代表者が検討会を重ね、内容の濃い「まちの防災知恵袋~作成の手引き~」(A4版、32P)を完成させた。
具体的には、個人情報の扱いが難しい状況の中で、予想以上の「支えあいカード」の提出がなされ、大きな成果を得た。
今後、具体的な支援計画をどのようにして作成するか、また個人情報取扱への配慮等をさらに検討し、この活動を未実施の自治会に展開させていくことを検討している。