【消防科学総合センター理事長賞】「岩手山の火山活動に係る特別調査等の実施」及び「岩手山火山災害対策図の作成」
雫石町(岩手県)
事例の概要
■経緯
岩手山周辺には幾多もの計器類が据え付けられ、有事の際の万全な監視体制が敷かれているが、計器類では判断できない岩手山における自然環境の変化や山体の異常などについて、人による目視での随時観測や観察を行ないながら火山防災対策に役立てることを目的に、平成11年6月21日に雫石町独自の「岩手山火山活動特別調査隊」を隊員6名によって発足させ、観察活動を行っている。
また、岩手県等では岩手山が噴火した場合を想定した防災マップを平成10年に作成したが、関係する岩手山周辺の6市町村を全て含むことから広範囲であるため、縮尺も小さく、情報量も少なく、わかりづらいといった声が住民から出ていた。
より詳細な防災マップについて、雫石町独自の「地域版防災マップ」が緊急に必要ではないのかと考え、学者や関係者などの助言・指導を得ながら、平成12年2月14日に完成した。その後、2月20日の訓練で町民にPRし、3月9日に町民への全戸配布(約5,340世帯)を行なった。この他、町内の観光施設や防災関係機関等にも配布するとともに、講演会や説明会などで「岩手山火山災害対策図」を携えて岩手山の現状などを報告している。
■内容
- 1.岩手山の火山活動に係る特別調査等の実施
調査隊員は、役場職員(防災担当課)3名、民間から山の専門家1名、岩手山裾野に位置する休暇村の職員2名による6名体制で構成している。委嘱した隊員についての責任については町が負うものとし、万一の際に対処するため、損害保険に入るなど、その処遇などについては十分配慮した。
調査の目的は、自然の変化などを観察することにあった。岩手山には、精密な機器類が何十台も設置されて観測がなされている。しかし、防災関係者にとっては山の変化の最新情報を知った上で、いろいろな対策を行うことが必要であるが、それらの情報の入手はなかなか難しいのが現実である。そこで、町独自の調査を行うこととなった。
活動は、年度内に10回、概ね月1回程度の調査を実施し、調査の都度、町長には報告書を提出するとともに、庁議の際は各課にも配付し、できるだけ職員にも山の実態をわかってもらえるよう努めた。
報告書については、町立図書館に2部収蔵しており、町民が随時閲覧や借りることが可能となっている。さらに、調査隊が撮影した写真については、時々中央公民館などのロビーに展示して、町民に紹介している。 - 2.岩手山火山災害対策図の作成
「岩手山火山災害対策図」は、平成10年10月に作成された「岩手山火山防災マップ」(岩手県作成)等をもとにして、雫石町の区域をより大きく分かりやすくしたものである。また、雫石町で想定されている岩手山の様々な噴火形態、災害時における避難所などの主要施設、避難道路など町独自の情報を少しでも多く盛り込んで、緊急時に住民等が役立てられるように作成した地域版防災マップである。
この地図には、多数の情報を登載することから、縮尺1/25,000の大きめのもので折り畳み式にして必要の都度開いて利用するものとし、紙質は耐水性で折り畳んで水に濡れても大丈夫な柔らかい生地のユポ紙を使用した。
なお、この対策図は雫石町だけではなく、周辺関係5市町村も追随して作成することとなり、このサイズや仕様については、後に作成することになる関係5市町村と協議、打合せを行なった。
現在、この対策図を利用し、各種集会、講演依頼などの際に説明・解説などを行ないながら、岩手山の防災に係る啓発啓蒙活動を実施しているところである。
■特色
- 1.岩手山の火山活動に係る特別調査等の実施
自治体と民間が協力して、自らの地域、町の防災に役立てようと一緒になって取り組んでいる。また、データを関係防災機関や学者などにも提供している。
火山活動が活発化してきていることから、危険区域に民間人も入れることに当初は抵抗もあった。しかし、地域の安全確保のために、住民が協力し立ち上がってくれたことが大きなポイントである。そのため、身分補償をするために災害補償の保険をかけるとともに、町職員と同様の身分補償を行っている。 - 2.岩手山火山災害対策図の作成
住民等の要望を取り入れ、縮尺を1/25,000として、雫石町内で想定されている区域が全て入るようにした結果、以前に作成されている県版では、少々わかり難かった表示や範囲が見やすくなった。
また、防災無線塔や緊急避難道路の位置、屯所などの防災施設や医療施設などの関係機関の施設を入れ、有事の際に役立つように配慮した。さらに、災害対策本部用(300部)として、災害弱者の自宅を表示している。
関係6市町村の仕様をできるるだけ同じにしたことにより、関係市町村の6枚分を切って張り合わせれば、大きな1枚の岩手山火山対策図になるため、岩手県等で作成した防災マップの拡大版になる。
岩手山火山災害対策図
岩手山火山災害対策図(表紙)
岩手山火山防災ハンドブック
岩手山火山防災マップ
調査状況(地温89.5℃)
調査状況(地温94.4℃)
噴気の状況
確認された表面現象
岩手山及び岩手山西側
苦労・成功のポイント
1.苦労した点
何故危険を侵してまでも行なわなければならないのか民間人3名の補償などをどうするのかなど、いろいろと苦心した。
また、山に登るので気象状況に左右されることや、それぞれの仕事の都合を調整しながら日程などを決めていくことが難しかった。
さらに、冬場での調査を行なう場合、装備の問題や経験などから、人員が限定されてしまうことが実施する上で大変だった。
1.成功した点
人の目によって実際に観察し、それを文字や写真で記録に残していくことは重要であるという信念を持っていたため、地道に活動を続けてデータを蓄積することができた。また、隊員の協力と周りの人々の理解があった。
2.苦労した点
既存のものは、縮尺が小さく情報も少ないため、どの程度の大きさにするか、何を情報として入れるか検討した。詳細版とすることで、まず1/10,000程度の縮尺を考えたが、噴火災害の境界ラインが明確になりすぎて、かえって住民に不安を与え兼ねないなどの懸念があった。
また、岩手山の場合は噴火形態が2つあり、それに対しての災害形態が数多くあることから、住民にわかるようにどんな情報をどの程度入れれば良いのか、住民はどんな情報を欲しがっているのか、頭を悩めた。
2.成功した点
既に岩手県において作成されている防災マップがあったことと、研修先(北海道上富良野肛、美瑛町)でいただいた参考図があったことが成功の要因である。また、対策図を作成することに各防災機関が理解を示し、協力していただいたことが大きい。
成果・展望
- 1.岩手山の火山活動に係る特別調査等の実施
文字や写真で基本となる資料を記録に残すことができ、防災関係の会議などでは活動について発表する機会を与えてもらい、その都度報告書を提出することで評価された。
また、山の変化の状況を地域住民や関係者に教えることができるようになり、山の現状を把握することにより以前より専門的な話ができるようになった。このことから、何かあった時に、速やかな災害対策や防災計画に反映させることができるようになった。
発足して1年半あまりの調査期間であるが、データを蓄積していくことにより、これからいろいろな比較や検討ができる。岩手山に大きな異常がなければ、可能な限り今後も続け、いろいろな資料を残し町民にも伝えていきたい。 - 2.岩手山火山災害対策図の作成
全町民に配布(約5,340世帯)したことにより、岩手山火山災害に対しての認識と防災意識の高揚に役立てることができた。
現在、岩手山周辺の6市町村は、防災対策についてそれぞれの考えや知恵を出し合い、協議、打ち合わせを行っていく協力体制ができつつあり、今後いろいろな施策を打ち立てていく上で、大きな収穫になっている。
- ~岩手山火山災害対策図の作成~
- 実施期間
- 平成11年10月14日~平成12年2月16日
- 事業費
- 3,964,800円
- ~岩手山の火山活動に係る特別調査等の実施~
- 実施期間
- 平成11年6月21日~
- 事業費
- 268,644円(賃金72,000円、保険料139,860円、消耗品56,784円)
- 団体の概要
- 隊員:6名
(雫石町役場総務課職員:3名、休暇村岩手職員:2名、山の専門家(自然公園保護管理員経験者):1名)