第12回防災まちづくり大賞(平成19年度)

【消防科学総合センター理事長賞】崇仁学区自主防災会の連続放火防止対策

【消防科学総合センター理事長賞】崇仁学区自主防災会の連続放火防止対策

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京都市崇仁学区自主防災会(京都府京都市)

事例の概要

崇仁学区は、地域整備が順次進められているものの、まだまだ木造住宅の密集する地区である。
 平成8年夏頃から平成10年秋頃にかけて、36件の放火による火災が発生した。当初は、空家や放置車両、ごみへの放火がほとんどであったが、平成10年に入ると住民の住んでいる建物への放火に変わり、ついには、焼死者1名、重傷者1名が発生するという、住民が一番恐れていた事態となった。
 そのような状況の中、「今度は,自分の家が燃やされるのでは」という不安が住民の中に広がるとともに、発生時間帯が夜明け前に集中していたため、不眠に陥るお年寄りも多く発生した。
 当然、地元警察署、消防分団、消防署のパトロールも実施されたが、「パトロールの裏をかく」という形で放火は続いた。
 そこで、崇仁学区自主防災会が中心となって、自治連合会、消防分団と連携し、「自分たちのまちは自分たちで守ろう。明るい崇仁のまちを取り戻そう」を合い言葉に、学区民が一丸となって様々な放火防止対策を行った。
 活動内容は以下のとおりである。

  • 1.放火防止を訴えるポスターを4種類延べ800枚作成し、広報板や人目につきやすいあらゆる場所に貼り出して、住民や通行人に注意を喚起した。なお、色槌せたポスターは張り替えるなど、啓発効果が落ちないようにした。
  • 2.当初は、自主防災会、消防分団を中心に夜間にパトロールを行ってきたが、平成10年6月には、毎月の最終週をパトロール週間と定め、夜間に学区内をくまなくパトロールすることとした。このため、拍子木や強力ライトなどを購入し、各自主防災部に配備した。このパトロール週間の取り組みは、現在も継続している。
  • 3.平成10年9月には3日間にわたり、学区内の防火・防災タウンウォッチングを自治連合会、消防分団、関係行政機関とともに夜間に行った。放火されやすい暗がりや人目を遮る樹木の陰などの確認を行い、路地などの暗がりとなる場所にセンサー付ライトを設置するとともに、各家庭の外灯を終夜点灯しておくなどの対策を行った。
     また、関係行政機関に対して、街路灯の整備や街路樹の剪定などまちを明るくする対策について協力を要請した。さらに、ごみや可燃物の放置も目に付いたため、「ごみは集収日の朝に出す」、「家の周りの可燃物は片づける」というルールを学区の広報紙を通じて住民に徹底した。
  • 4.放火の手口に対応した対策として、
    • (1) 空家への放火を防ぐため、学区内の全空家をチェックし、出入口の施錠の徹底や窓へのトタン板の打ち付けなど侵入防止の徹底を図った。
    • (2) 建物内に直接郵便物が落ちる構造のポスト(投げ込み型)から、「火の着いた紙を投げ込む」という手口を防ぐため、投げ込み型ポストの危険性を知らせるビラを作成・配布したところ、多くの家が屋外型のポストに変更した。
  • 5.対策を進めるうちに学区民自身の防火・防災意識も高まり、全世帯に消火器を設置した防災部も現れた。また、平成10年6月には、火災発生時の初期消火手段と学区民の防火・防災意識の高揚を図るため、人目につきやすい赤色の防火バケツ60個を学区内に配置するとともに、学区内の各家庭で消火用水の汲み置き運動も行った。
  • 6.毎年秋に、消防音楽隊の出動を要請して、放火追放パレードを実施している。
     以上の放火防止に関する自主防災活動について評価をいただき、平成10年度消防記念日に京都市長表彰をいただいた。
     平成10年秋以降、連続放火は止まったが、この間に実施してきた取り組みは学区民の防火・防災意識の高まりとともに定着し、現在も学区の重要な事業として継続している。

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防火ポスター

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防火ポスター

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夜間パトロール

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夜間パトロール

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タウンウォッチング

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タウンウォッチング

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センサーライト

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センサーライト

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放火追放パレード

苦労・成功のポイント

 放火防止の活動を根気強く続けた結果、連続放火は平成10年10月18日の火災を最後に止まった。
 連続放火に襲われた2年余りは本当に恐怖との戦いであり、また、手を打てども打てども再発する放火に怒りだけでなく挫折感も味合わされた。
 振り返って考えると、最も大切であったのは粘り強く地道に続けた夜間パトロールでの呼び掛けであった。連続放火が発生し始めた平成8年の夏には、夜間パトロールの参加者は役員のみ数名という状況であった。しかし、汗の貴き出す暑い夏の夜や雪の降る寒い年末の夜にもパトロールを行い、学区民に放火への注意とパトロールヘの参加を呼び掛けるうちに、現在では毎回数十人の参加者となった。また、パトロールに参加していない人も拍子木の音を聞きつけると表に出てきて、「ごくろうさんです」と声を掛けてくれるようになった。
 わたしたちのまちから放火を追放できたのは、学区民一人一人の「放火を防ぎたい。まちを守りたい」という思いが結集して学区全体が団結し、総力を挙げて放火対策に取り組んだ結果であると考えている。

成果・展望

成果としては、以下のとおりである。

  • ・暗がりへのセンサー付ライトの設置や家庭の外灯の点灯運動、街路灯の整備により、まちが明るくなった。
  • ・ごみ出しルールの徹底、可燃物や放置車両の除去、街路樹の剪定により、まちが美しくなった。
  • ・家庭用の消火器や防火バケツの設置、消火用水の汲み置き運動により、初期消火体制の強化が図られた。

 しかし、最も大きな成果は「自分たちのまちは自分たちで守る」という合い言葉で活動するうちに、学区民の心が一つになり、団結力が増して自治意識の盛り上がりが感じられるようになったことである。
 連続放火が止まって2年近くが経ようとしているが、いまだ犯人は捕まっておらず、連続放火が終息したとは言えない。学区民の間では、再発を恐れている人も今だ多く残っている。そのような中、毎月最終週の夜間防火パトロールは継続中で、平成12年8月からはパトロール主催団体に少年補導委員会も加わり、さらに参加者の増加が見込まれている。
 現在崇仁学区では、学区民主導で新しいまちづくりが進んでいる。不幸な連続放火に見舞われたことを逆にバネとして、放火防止の活動を行う中で育まれた学区民の団結と自治意識の盛り上がりをまちづくりの中に活かしている。
 今後は、わたしたちの行動の趣旨を「自分たちのまちは自分たちで守る」から、「災害に強いまちづくりの主役は住民であり、防災はまちづくりである」に発展させ、パトロールの目的を単に防火・防災のためだけでなく、「暮らしの中の安全・安心づくり」に高めて、学区民がお互いに尊重し合い助け合う「崇仁の新たなまちづくり」を目指していきたい。

実施期間

 平成8年8月~

事業費

 400,O00円

団体の概要

 崇仁学区自主防災会:平成元年発足、8月10日「崇仁防災の日」(昭和45年同日に発生した大火にちなんで)、学区全住民2,500名