第6回防災まちづくり大賞(平成13年度)

【消防科学総合センター理事長賞】小さな団地の防災活動

【消防科学総合センター理事長賞】小さな団地の防災活動

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柏野自主防災会(茨城県

事例の概要

■経緯

 柏野団地は昭和40年頃に入居者が増え、それに伴い防災に対する考え方が深まり、「火の用心」の夜警活動が始まった。昭和46年には、「私設消防団」として、団地で最初の防火団が結成された。さらに、昭和60年には、団地内の婦人で「婦人防火クラブ」を結成し、男性がいない昼間における防火活動について一躍を担ってきた。
 その間、初期消火について市消防職員の指導を受けながら、基本的な技術を身に付けてきた。また、団地内の消火栓用ホース、消火器等の設置、団地内の道路への無断駐車禁止の徹底、火災予防啓発等を行ってきた。これが功を奏して、これまで大きな火災は発生していない。
 そして、平成10年に、これまでの「私設消防団」や「婦人防火クラブ」の活動を取り入れる形で「自主防災会」が結成された。

■内容

  • 1.「防災会」づくり
    • (1) 昭和45年、自主参加により「火の用心」の防火団を結団した。当初は、夜回りを中心とした防火意識の高揚を訴えていた。その後、入居者が増えたことから、昭和46年に全住民を対象に「私設消防団」を結成し、初期消火訓練等を実施してきた。
    • (2) 昭和60年には「婦人防火クラブ」を結成し、男性がいない昼間において、「婦人の手で防火を」をモットーに、地域の防災の一躍を担ってきた。
  • 2.「自主防災会」の結成
     平成10年2月に、行政指導のもと「自主防災会」を結成した。組織作りには、「私設消防団」並びに「婦人防火クラブ」の活動を取り入れながら、企画、立案を検討した。
  • 3.防災意識の高揚対策
    • (1) 自主防災会だよりによる啓発(随時)
    • (2) 防災訓練等の開催(毎年12月)
    • (3) コミュニティ防災のしおりの作成・各戸配布(平成10年)
    • (4) 防災に備えた団地内の路上駐車の取り締まりの徹底(年間)
  • 4.防災コミュニティづくり
    • (1) 「街角消火器」配置による消火活動の迅速化(消火器の場所を地域住民が理解)
    • (2) 防災会、規約及び班編成と組織作り(小単位での訓練活動を目的に支部制を導入)
    • (3) 防災計画の立案(水火災等の実災害を想定した防災計画)
    • (4) 防災カルテ、マップの作成(幼児・高齢者の割合や住所が明確化)
    • (5) 定期自主防災会議の開催(毎月第1月曜日)
  • 5.防災行動力の向上策
    • (1) 市総合防災訓練への参加
    • (2) 防災体験(柏野会館での防火講話聴講及び消火訓練)
    • (3) 防災会員の避難・消火・救助・給食給水等の訓練による各自の行動力の強化
    • (4) 柏野団地内へ消火栓用ホース及び消火器の設置
  • 6.防災資機材の整備
    • (1) 防災倉庫の設置(平成10年、1棟11.6㎡)
    • (2) 救助、救急用品(照明用具2、バール4、担架2、救急箱4他)
    • (3) 給食給水用品(防災用かまど2、大鍋4、ポリタンク10他)
    • (4) その他の用品(避難シート10、非常食1,500他)

■特色

柏野団地は傾斜地に造成されており、道路の幅は4.5mと狭隘であるとともに、一旦火災が発生すると大火災に発展する様相を呈している。また、大雨時には下部地域に建築した家屋はいつも水難に遭っている。これらの悪条件の中で、住民の防火に対する意識は高まっており、「防災会」作りが必要になってきた。
 さらに、阪神・淡路大震災の教訓を受け止め、今まであった「私設防火団」並びに「婦人防火クラブ」の活動を見直し、「自主防災会」を設立した。
 設立時には、県、市の補助金、自治会の助成金を受け、資金の中で必要な資機材を購入し、防災体制づくりを行った。

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初期消火訓練

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初期消火訓練

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街角消火栓

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街角消火栓

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災害用資機材

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災害用資機材

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避難訓練

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炊き出し訓練

苦労・成功のポイント

■苦労した点

  • 1.「街角消火器」の配置においては、常会の角の家に置くことを予定していたが、置きたくないという住民もおり、順調にはいかなかった。しかし、常会の角に配置することのメリットを説明し、常会長さんにもお願いして了解をもらった。
  • 2.会員名簿の作成はプライバシーの問題があり、提出できない所があった。しかし、その必要性を訴えるとともに、「名簿作成依頼表」に約束ごとを列記し、使用目的をはっきりさせた結果、納得してもらうことができた。

■成功のポイント

  • 1.団地住民が協力的であり、スムーズに組織作りが確立できた。
  • 2.防災訓練等を通じて、近隣の方々との会話が増え、友好的な輪が広がった。
  • 3.消火訓練、避難訓練、救出救護、給食給水訓練等の訓練をスムーズに行うことができた。
  • 4.行政からの補助金に加え、自治会からの助成もあり、防災資機材の充実を図ることができた。

成果・展望

■成果

 阪神・淡路大震災の教訓を契機に結成された「自主防災会」が、今では「防災」のみならず、団地自治会が主催する「お祭り」の警備まで行っており、団地全体が近隣共同体として活動するようになった。
 また、「街角消火器」の配置により、団地住民が初期消火の重要性を深く認識した。その結果、平成12年に発生した住宅火災は、通行人が「街角消火器」を使用して消火活動を実施し、大事に至らずに部分焼で済んだ。
 この他、防災意識の啓発、訓練による防災行動の向上、各種防災資機材の整備も着々と進んでいる。

■展望

 団地住民一人一人の安全確保という目標を掲げ、自主防災会結成以来、毎年消火訓練・避難訓練等を実施している。当初は、訓練に積極的に参加する住民は少なかったが、住民の自主防災会への理解と防災意識が高まり、多数の人が参加するようになった。
 「災害は忘れたころにやってくる」の諺のとおり、災害に対して油断することなく、団地住民の人の和並びに防災の輪を大切に、防災意識の高揚を推進していきたい。

委員のコメント(務台委員)

「柏野自主防災会」を訪問して感心したのは、住民の皆さんの「結束」、「まとまり」のよさであった。日立グループの企業城下町の当地域では、この団地の入居の方も多くは日立関係の方々であった。聞くと、現役時代から企業の中での防災活動に親しみ、退職した後のまとまりもよく、そのことが、526世帯、1,699名の規模を擁する決して「小さくない」住宅団地の防災対応にも現れている感を強くした。
 五十嵐庸夫会長のお話によると、こうした団地住民の属性を背景に、柏野団地が傾斜地にあることによる水害の実経験や住宅密集による大火等に対する防災意識が住民の間で高まり、「防火団」の結成、「婦人防火クラブ」の結成といった経緯を経て、現在の自主防災会に至ってるとのことであった。
 防災意識の高揚を図るための各種啓発活動、緊急時等の防災・救急活動の妨害となる路上駐車への注意喚起、「防災マップづくり」、「防災カルテ作成」のほか、分かりやすい「街角消火器の設置」などの取組が意欲的に進められており、防災に対する住民の皆さんの創意・工夫、熱意のほどをひしひしと感じた。お祭り、敬老会など季節毎の行事にも積極的に参加されているとのことであった。
 また、我々の現地視察に対応していただいた多くの地元の皆様の御発言や対応ぶりから、住民の皆さんがご自分達の活動に誇りを持ち、その活動をよりよくするために常に問題意識を持って活動されている点にも驚きを感じた。役員や班長の交代時におこる活動停滞の可能性に配慮した組織編成をしている点、新たに救急救命訓練にも取り組む点など、大いなるチャレンジ精神を学ぶことができた。

実施期間

 平成10年~

事業費

 年間1,500,000円

団体概要

 柏野団地:526世帯、1,699名、35常会(第1支部18常会、第2支部17常会)