消防庁長官賞(一般部門)
市民提案型協働事業による「聴覚障がい者用防災イラストマップ」の作成
恵那市手話通訳連絡会
(岐阜県恵那市)
事例の概要
■経緯
恵那市手話通訳連絡会は市内の聴覚障がい者の現状(緊急の防災無線が聞こえない、避難所を知らない、分からない、理解力が乏しい、隣近所との交流も無い)を把握している者として、かねてから「聴覚障がい者用の防災マニュアル」を作成したいと話し合ってきた。そんな折「恵那市まちづくり市民活動推進助成事業(市民提案型協働事業の部)」(助成金上限30万円)があることを知り応募したところ認めていただき、本格的に作成に取り組むこととなった。
■活動内容
- 1. マニュアル、マップの作成については、聴覚障がい者一人ひとりに配布する「聴覚障がい者用防災イラストマニュアル」、「聴覚障がい者用避難イラストマップ」、聴覚障がい者が住む地域の方へ配布する「聴覚障がい者災害支援イラストマニュアル」を作成することとなった。
- 2. 「聴覚障がい者災害支援イラストマニュアル」は市全体で行われる防災訓練に地域の方々へ配れるよう作成した。市にはイラストを書く方の紹介、聴覚障がい者の住んでいる自治会長の連絡先を調べていただくなど協力していただいた。自治会長の皆さんには快く承諾を取り付けることができ、訓練当日には手話通訳連絡会が訓練会場に出向き、聴覚障がい者とともにマニュアルの説明を行うことができた。
- 3. 「聴覚障がい者用避難イラストマップ」を作成するにあたり、マップ作りのノウハウが無いため恵那市防災研究会に協力を依頼し、聴覚障がい者のいる自主防災隊の隊長を交え9月に話し合う機会があった。具体的に2名の方をモデルとし、10月に聴覚障がい者の家から避難所まで聴覚障がい者、地元の防災隊の方、防災研究会の方と共に歩き、危険箇所の確認を行うことから始めた。ここで得た知識はモデルとした2名以外の聴覚障がい者へのマップ作成に活かしたいと考えている。
- 4. 「聴覚障がい者用防災イラストマニュアル」は聴覚障がい者に“より分かり易く”仕上げるため、他市のマニュアル等を参考にしながら恵那市独自のマニュアルを作成しているところである。
手話通訳連絡会
恵那市に新築された防災センターでの研修風景
恵那市に新築された防災センターでの研修風景
新たに導入された地震体験車での体験風景
防災訓練での住民への説明風景
避防災訓練での聴覚障害者の訓練風景
防災訓練での聴覚障害者の訓練風景
防災訓練での聴覚障害者の訓練風景
防災訓練での聴覚障害者の訓練風景
防災訓練で区長と話している風景
苦労した点
- 1. 5年位前から市に聴覚障がい者にも分かる防災マニュアルの作成を要望してきたが、なかなか市は作成してくれなかった。一般の防災マニュアルでは聴覚障がい者の国語力の不足、情報・コミュニケーション障がい等で理解すらままならない実情を理解していただけていないと感じていた。行政の方も迷惑だったかもしれないが、会議の席で何度も聴覚障がい者の実情を話して理解を得る努力をした。
- 2. 事業を進めていくにあたり、市のまちづくり推進課に相談すればよいのか防災対策課に相談すればよいのかよく分からず大変だった。
- 3. 聴覚障がい者が理解できるマニュアル“文章を砕いて簡単に、より分かり易く”はなかなか難しく、“これなら”と聴覚障がい者に見せてもなかなか理解してもらえなかった。
特徴
- 1. まちづくり推進課の仲立ちで手話通訳者の意見、市側の意見が交換できたことは、お互い共通の認識がもてた。
- 2. 恵那市防災研究会の協力という新しいつながり、ネットワークが出来た。
- 3. 連絡会及び聴覚障がい者の悲願の願いであった聴覚の障がいのことをもっとみんなに知ってほしいという思いが一歩前進した。
- 4. 連絡会は月1回の会合だったが、この事業のおかげで顔を合わせる事が多くなり、連携、団結力が強くなった。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 野村 勸(国際医療福祉大学大学院教授))
本団体は平成20年に設立されたばかりであるが、恵那市(人口約56,000人)内に居住するろう学校教育を受けていない年配の聴覚障害者など約30名の生活支援と社会的地位の向上のために、月例会や学習会、様々な場所での手話通訳活動や相談活動を積極的に行ってきている。特に防災面では、かつて自転車事故に遇った聴覚障害者が消防署との連絡がうまくいかずに問題化したこともあり、現在は消防本部への「緊急通報FAX用紙」のフォーマットを作成・各戸に事前配布して、緊急時に項目に○をつけるだけですぐに送付でき、また、返信を受け取ることで受信の相互確認ができるような工夫をしている。
今回の受賞は、恵那市・市民活動推進助成事業に応募し、市民団体である恵那市防災研究会(平成17年から災害救急ボランティア等の活動を行う)と密接な連携のもとに「聴覚障がい者支援イラストマニュアル」「避難イラストマップ」「防災イラストマニュアル」の作成を行っていることである。
災害発生時には市・福祉課が全責任を持つことは到底不可能であり、市民による救援活動・避難所生活支援が不可欠であることに鑑み、「聴覚障がい者支援イラストマップ」は、その際、救援者と聴覚障がい者がコミュニケーションをとれないことが障壁にならないように、救援者の聴覚障害者に接する基本的な姿勢および聴覚障害者が求めている内容が図を指さしながらお互いに理解できるように工夫されている。このマニュアルは1,400部印刷され、市内の公共施設を中心に配布された。また、これとは別に作成されている「避難イラストマップ」は、当面、2人の聴覚障害者をモデルに居住する住宅から第1次避難所までの経路を10数名の関係者が一緒になって歩き、危険箇所をチェックしマップ化することで実際に役立つ形で作成している。
これらの活動を通して、市のまちづくり課を始め、防災課、社会福祉課、消防本部、防災研究会等との密接な連携が生まれ今後の活動に結びつける大きな役割を果たした。
団体概要
本会は聴覚に障害を持つ人達と共に活動し、聴覚障がい者の情報とコミュニケーション保障及び啓発活動を行うと共に、手話通訳に携わる者の社会的地位の向上を図ることを目的とし設立した。
- 人員構成
- 手話通訳連絡会7名
聴覚障がい者福祉協会の役員4名
実施期間
平成21年4月~