第14回防災まちづくり大賞(平成21年度)

【消防科学総合センター理事長賞】災害時要援護者避難支援体制の整備

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
災害時要援護者避難支援体制の整備

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中志津自治会6区地域支援部会
(千葉県佐倉市)

事例の概要

 少子高齢化が進んでいる状況において、災害時要援護者(高齢者)の避難支援をどうするのかが地域の課題としてクローズアップされている。このため、災害時要援護者を地域住民の共助(好ましくは、向う三軒両隣)により、避難所まで安全に避難誘導することを目標に、実際にハンデキャップを有する要援護者と支援をする住民の参加のもと災害時避難誘導訓練を実施した。

  • 1. 災害時要援護者の把握と支援者への支援依頼
     要援護者の把握のため、中志津自治会6区の全区民にアンケートを実施し、災害時要援護申請者(以下「申請者」と言う。)の全体像を把握した。把握のできた申請者の全家庭を訪問し、心身の現在の状態を伺うとともに、災害時要援護者支援活動についての趣旨説明を行い、特に申請者のハンデキャップの現状が隣近所の支援者に知られても良いか了解をいただいた。
     次に、向こう三軒両隣を基本とする申請者を支援する方への支援依頼を行った。支援者を決定するにあたっては、申請者の意向を踏まえて、近隣住民の方を訪問し、災害時要援護者支援活動の趣旨及び申請者の支援を行っていただくよう(支援者となるよう)お願いし、支援者となることと個人情報を申請者や他の支援者との間で共有化することについて了解をいただいた。
     なお、申請者と支援者から情報の共有化について了解してもらう際に、同一紙面上に署名をしてもらい、双方に署名をしてもらった用紙を双方各自が保有し、災害時の連絡表とした。
  • 2. 高齢者・要援護者避難誘導訓練の実施
     申請者の把握の結果、各人のハンデキャップレベルの違いにより、3つのグループに区分することができることが判明した。具体的には、①自力での歩行が不可能な方・②介助があれば歩行が可能な方・③自力での歩行が可能な方の3グループとなる。
     上記のハンデキャップの差を考慮し、避難誘導に必要な用具の選択・使用方法の確認・使用上の留意点について検討を行い、検討結果に基づき、ハンデキャップの異なる申請者と支援者の方に避難誘導の方法と手順を確認していただき、避難誘導訓練を実施した。
     また、申請者本人(ハンデキャップを有する方)に参加してもらうことから、事故等が起きないようバックアップ体制について支援要請(行政機関等関係機関への協力要請・中志津6区在住の看護師資格を有する方への協力要請等)を行い、避難誘導訓練の骨格を創ることができた。
     この避難誘導訓練の様子は、NHK千葉放送局の取材を受け、平成20年6月30日に放送された。この放送において東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター 田中淳教授より「住民主体での取り組みである佐倉方式は素晴らしい」との評価をいただいている。
     避難誘導訓練実施後、反省点・改善点を精査し、次の訓練へ反映すべく検討を行い、実際の災害時において、より確実に機能する支援体制を創るよう努力をしている。また、これまでの経験を伝えていくことで、災害時要援護者の方への避難誘導方法が他の地域に浸透するよう努力をしている。

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担架による避難支援

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車イスによる避難支援

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浄水訓練(プールの水を浄水)

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看護師資格を有する地域住民による健康状態確認

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避難所の様子

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簡易担架作成講習

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救急演習

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要援護者宅へ駆けつける様子

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要援護者を自宅から搬出する様子

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担架による要援護者の避難支援

苦労した点

  • 1. 実際にハンデキャップを持った方が参加する避難誘導訓練であり、不測の事態に至らぬよう常に細心の気配りをしてきた。人間愛を理念とした訓練であったため、気苦労が絶えなかった。
  • 2. 申請者ひとりに対し、3~4人の支援者が必要となるが、申請者の周囲も同年齢の高齢の方が多く、支援者の確保が難しい状況である。今後、さらに支援者の確保は難しくなることが予想される。
  • 3. 心身ともに異なった個性を持っている申請者の方が、避難所において滞留する際に、どのように対応したら良いか決めることは大変難しく苦労をした。

特徴

  • 1. ハンデキャップを持った申請者が、胸襟を開いて避難誘導訓練に参加され、事故も無く、初期目的の高齢者・要援護者の避難誘導訓練ができた。
  • 2. 避難所では、申請者の体調管理のため、中志津6区在住の看護師の資格を持った方数名に参加していただいたことで、問診や血圧測定等を行い、常に体調管理に留意することができた。
  • 3. 避難誘導訓練当日に実施したアンケートにおいて、「避難誘導訓練を通じ、隣近所の助け合いがいかに大切かを知らされ、普段の付き合いをより良くしたい」という意見を多くいただくとともに、多くの訓練参加者から「ありがとう」との言葉をいただき、災害時要援護者支援の基本である隣人愛の精神を向上させるきっかけになることができた。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 重川 希志依(富士常葉大学大学院環境防災研究科教授))

 佐倉市中志津地区は昭和43年に入居が開始された大規模な住宅団地である。中志津1丁目から7丁目まで全7区、2,800世帯、8,500人からなる自治会が構成されている。このうち、今回受賞の対象となった6区には1,300人が居住しているが、そのうち400人が65歳以上の高齢者となっている。高齢化が進む中で、自治会では平成19年から地域内の要援護者の避難支援体制作りに取り組んできた。それ以前には防災や防犯のための地域での取り組みが活発に行われてきたが、要援護者の問題に直面した際に、自治会長は「要援護者問題の解決は、今までの防災や防犯の取り組みとは違う」と考えたという。防災や防犯は物が対象であり主催者側の考え一つで対策が取れるが、要援護者は人間が主役であり避難所を中心としたコミュニティで解決しなければならないのが、その理由ということである。
 このため、要援護者対策のために自治会内に運営委員会を設け、全世帯へのアンケート調査を実施し、要援護者の自己申告をしてもらった。その結果にもとづき、申請のあった全世帯1件1件を訪問し、避難支援のため隣近所に援護を頼むにあたり情報が知られても良いかどうかの承認を得てまわった。次に、要援護者の隣近所に支援協力を依頼してまわったが、この作業が最も大きな苦労であったという。1人の要援護者支援には3~4人の協力者が必要であり、最終的には120世帯の家を訪問したが、なかなか協力者が見つからず、中心となった自治会長はストレスから体調をこわすまでになってしまった。しかし結果的には、自治会長を中心とした熱心で粘り強い努力の成果から、支援者を得ることができ、支援希望者と支援者の情報を記載した“連絡票”作成にこぎつけた。
 実際の避難訓練を通して、様々な身体的・精神的ハンディキャップを有するよう援護者を車椅子や担架に乗せて避難所まで移動させるには、事故発生などの危険が多く存在することが明らかとなるなど、訓練をして見なければ分からない新たな課題も浮かび上がっている。
 団地がつくられてから40年以上が経過し、入居者の高齢化が進む中で、順番制の自治会長指名は難しくなってきており、限られた役員だけでコミュニティ育成活動を続けていく方式は限界に来ているという。そのために、地域の祭りや運動会、文化祭など様々な行事運営のために、手上げ方式で200人のボランティアを登録し、若い人たちを巻き込んだ地域コミュニティづくりを目指すなど新たに取り組みが始まっているのが印象的であった。

団体概要

 中志津自治会は、その範囲が大きいことから、区域内に1区から7区までの地域組織を設立し、区ごとに個別具体的な活動を実施するための部会等を設置している。
 中志津自治会6区については、地域支援部会・防犯部会・防災部会・環境部会を設置し、それぞれの役割に応じた活動を行っている。地域支援部会では、地域内の人道的支援活動を主に実施している。

実施期間

 平成19年~