第14回防災まちづくり大賞(平成21年度)

【消防科学総合センター理事長賞】神戸市防災教育支援ガイドブックの開発

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
神戸市防災教育支援ガイドブックの開発

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特定非営利活動法人プラス・アーツ
(兵庫県神戸市)

事例の概要

■経緯

 阪神・淡路大震災から15年が経ち、学校では震災を経験した教職員が大量退職していくなかで、実感できる防災教育が求められ、地域では、活動参加者の固定化、高齢化が課題となっている。また、家庭では家庭内の事件や事故が絶えず、親子の話し合いが減少している。この「学校」「家庭」「地域」3者を結び付け、それぞれの課題を解決する契機となる防災教育の支援を目指し、国内外各地で「子どもが楽しみながら防災を学ぶ」イベントを通じて実施してきたNPO法人プラス・アーツのノウハウを生かした「防災教育支援ガイドブック」を市教育委員会(以下「市教委」と言う。)、市消防局と合同で開発することとなった。

■内容

  • 1. 平成19年度から市教委と市消防局と合同で、「地域」「学校」「家庭」の相乗効果による地域防災力の向上を目指す防災教育の支援のあり方を検討する「神戸市防災教育支援プロジェクト」に参加し、市教委、小学校教員、市消防局が持つコンテンツやニーズを行政とは違った視点で地域や学校と一緒に実施してきた防災イベントの経験を生かした編集を行い、小学校での防災教育と地域の防災活動を結びつけるためのガイドブックを作成する中心的な役割を担った。
  • 2. 防災カードゲームや防災体操など、当NPO法人が保有する「楽しみながら防災を学ぶ」新しい形の防災教育プログラムをガイドブック作成にあたり提供している。
  • 3. 地域、行政、小学校で実施されている防災教育に関するコンテンツを集約したものを、聴取した教職員の意見等を基に当団体がとりまとめ、小学校教職員が計画を立てる段階でセレクトしやすいよう、「震災教訓を伝える」「知識を伝える」「技を伝える」といった内容による分類、「クラス」「学年」などの実施規模による分類、低・中・高学年の対象学年にそれぞれ分類した「一覧表」を作成した。
  • 4. 当NPO法人が開発したプログラムを小学校や地域で実践するために、市内12の小学校にてモデル実施及び地域の方を対象にした体験会を市消防局、市教委と合同で行った。
  • 5. またガイドブックのデザインについて、教職員地域の方が活用しやすいように、編集作業に併せてピクトグラムによる表示をデザインするなど、アートを加えた視覚的工夫も実施した。

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ガイドブック

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解説書例

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メニュー例

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モデル実施(水消火器)

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モデル実施(防災カードゲーム)

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モデル実施(防災カードゲーム)

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モデル実施(防災ダック)

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モデル実施(防災すごろく)

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モデル実施(防災人形劇)

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モデル実施(防災体操)

苦労した点

 多忙な教職員でも実施しやすいワンタッチで実施可能なプログラムから、地域や消防と協働で実施する応用的なものまで、多くのプログラムを収集し、計画段階で参考とするこのプログラムの紹介は一目で概要を見渡せるように各プログラムにつき見開き2ページとした。また、実施段階で参考にするための「解説書」を作成し、進行要領に併せて、新学習指導要領や他の教材との関連を記載、ガイドブックだけでは実施が困難なプログラムについては解説映像を作成し、添付している。
 さらに資料編として、授業で配布するワークシートや家庭へ持ち帰る資料などを掲載した。
 このように膨大なデータを、モデル実施での検証結果などを踏まえて、さまざまな教職員のニーズを反映させ、有効に活用できるようにするための編集作業に困難を極めたが、NPO法人プラス・アーツの「アート的な発想」を持ち込むことで非常に有効な編集をすることが出来た。

特徴

 阪神・淡路大震災の教訓である“いのちの大切さ”を子ども達に伝えるために、地域・学校・消防が連携した活動を継続的に実施していくための共有ツールとなるための工夫が随所に表れている。地域の自主防災組織である防災福祉コミュニティの概要や小学校における防災教育年間計画の例、消防署の業務内容など、連携する各組織の概要を知るための項目がガイドブックに記載されている。また、すべてのプログラムに「地域のかかわり方」「保護者の参加方法」「消防職員のサポート」など連携の方法が具体的に例示されている。
 さらに、防災を子ども達と楽しく実施することで、防災活動を中心とした地域活動の活性化、地域力の向上を目指している。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 中林 一樹(首都大学東京大学院都市環境科学研究科教授))

 あらゆる世代がいかに防災学習や訓練に、継続的に取り組んでいけるか。災害を忘れず、備えを継続するには、さまざまな機会に、マンネリ化することなく、防災学習できることが重要である。阪神・淡路大震災を転機に、アートの持つ圧倒的な強さやアーティストの既成概念にとらわれない自由な発想“アーツ”を取り入れて、さまざまな社会問題に取り組む活動体として設立されたNPO法人プラス・アーツは、それまでに小中学校をはじめとして、さまざまな機会に防災学習を支援してきた。とくに子供とともに若いファミリーが楽しみながら防災の知恵や技を学ぶ新しい防災訓練プログラム「イザ!カエルキャラバン」は、国内のみならず海外でも実践されてきた。こうした経験と工夫から開発し、実践してきた多様な防災訓練/学習プログラムをもとに、地域・学校・消防が連携した防災教育を継続的に実施することを目指し、これまでのプラス・アーツが開発してきたスキルを体系化して、防災カードゲームや防災体操など「楽しみながら防災を学ぶ」内容を取り入れた防災教材として市教育委員会、市消防局と合同で作成したのが、「神戸市防災教育支援ガイドブック」である。ガイドブックは、小学校低学年・中学年・高学年に対応して「災害を伝える」6メニュー、「知識を伝える」21メニュー、「技術を学ぶ」14メニュー(合計41件)の組み合わせにメニュー化し、マニュアル・DVD・教材で構成されている。
 学びの主役は次代を担う小学生であるが、地域と家庭と学校の相乗効果で地域防災力の向上をめざすという考え方から、教員が関わる小学校での防災教育に、地域の自主防災組織・消防団の防災活動を結びつけ、支援者として消防職員が関わるという体制を同時に構築しているところが高く評価される。こうした体制づくりが、このマニュアルが191の全自主防災組織に配布されており、五年間で全164小学校に普及して、神戸全域での取り組みの展開を可能としているのである。

団体概要

設立年
2006年7月設立
構成人数
理事長1名、副理事長1名、理事8名、監事1名、以上理事・監事合計11名事務局員8名
活動概要
現在課題を抱えている社会の様々なテーマ(教育、防災、環境、福祉、など)に対して“アーツ”(アートのもつ圧倒的な強さやアーティストの既成概念に捉われない自由な発想)を注入し、そうした課題の解決とそれらのテーマの再活性化を図ることを目的に設立された。現在、森を舞台にした実験的な「教育+アーツ」プログラム『ネイチャーアートキャンプ』や若いファミリーが楽しみながら防災の知恵や技を学ぶ新しい形の防災訓練プログラム『イザ!カエルキャラバン!』などを中心に活動を展開している。

実施期間

 平成19年11月~