消防庁長官賞(一般部門)
顔の見える活動で災害に強い地域づくり ~「地域の輪づくり」を防災力へつなげる~
北鯖石コミュニティ振興協議会
(新潟県柏崎市)
事例の概要
■経緯
北鯖石地区は柏崎市の中心部より東に4kmに位置し、人口3,570名、世帯数1,321世帯の平場地域である。地域の中心には二級河川鯖石川が流れており、洪水になると地域が分断される。平成7年の洪水で初めて避難勧告が発令され北鯖石コミュニティセンターに避難所を開設、また、平成16年中越地震に遭遇し、コミュニティレベルでの自主防災組織結成が急務であると感じたが、まだまだ全住民の意識がそこまでに至らなかった。
そこで、コミュニティ振興協議会において北鯖石地域避難所マニュアルを作成し全世帯に配布、地域住民の意識の向上に努めていた中、中越沖地震が発生し、地震発生直後から町内会、地域住民と連携を図りながら避難所開設、避難誘導、要援護者への避難誘導や支援等の対応を行い、平成19年度中に地区内の全町内会で自主防災組織を立ち上げ全地域住民の防災に対する意思統一を図ることができた。
中越沖地震以降も防災訓練、コミュニティ部会活動を通じ、町内会(自主防災組織)、地域住民と連携を深め、地域に密着した活動を続けている。
■内容
- 1. 地域の実態を反映した防災訓練等の実施
平常時の活動が災害時の活動に繋がることからお互いが支えあいながら、安心・安全なまちづくり、きめ細かい対応で組織体制を確立していくことを目標に町内会活動の強化に努めたとともに、中越沖地震の教訓を生かし、地域の実態に即した防災訓練等を継続的に実施している。- (1)防災意識を高めるためのワークショップ開催
中越沖地震を経験し、「大地震その時あなたは…」と題して減災への知恵や心得を探るワークショップを開催し、地域住民の意識向上を図った。当日は140名以上の参加者があり、災害時についての話し合いを重ねたことで、役員だけでなく多くの住民が地域全体で防災を考えるきっかけとなり、その後の活動の礎にもなった。 - (2)地域の実態に即した防災訓練の実施
中越沖地震の教訓から、要援護者への支援が大切であると実感した。
そこで毎年7月16日に中越沖地震と同程度の震災を想定して、安否確認、要援護者名簿の作成など地域の問題解決に向け防災訓練を実施している。
また、向こう三軒両隣を基本とした地域活動の取り組みから「ご近所ボランテア」を募集し、要援護者の避難誘導訓練を行うなど、結果として、どんな状況下であってもお互いにささえ合うことの大切さを確認することができているとともに、平成22年は各町内へ働きかけ要援護者の登録や支援など漏れのない組織支援体制が確立され、町内会、地域住民における日頃の防災意識も高まっている。
- (1)防災意識を高めるためのワークショップ開催
- 2. コミュニティ協議会、町内会、地域住民、行政との連携
- (1)情報伝達方法の見直し
震災時の教訓から、情報が錯綜したり一方通行となるなど、災害が大きい程、正確、迅速な情報伝達が重要であるとの認識を深めた。そこで地区内(コミュニティ協議会、町内会)で無線を整備し、地震だけでなく特に迅速な情報伝達、避難誘導が求められる水害時への対応を強化し、使用訓練も兼ねて情報伝達訓練を実施している。
また、コミュニティ協議会が情報を集約することにより行政への迅速な情報伝達、災害対応の体制が構築される。 - (2)地域の緊急医療情報システムを構築
災害時だけでなく、日頃の安心と安全を守る取り組みとして、全世帯に緊急医療情報「もしもBOX」を配布した。防災訓練を通じ、地域住民から意見が出たこの「もしもBOX」とは、もしもの時のお助けボックスで、設置場所は各家庭の冷蔵庫と統一し、「緊急時に保険証は?どこに連絡?」と慌てずにいち早く対処ができるようなシステムを整備した。情報には地域の支援者欄を設けたことが特色で、これによって「向こう三軒両隣」の輪を広げることに繋がり、災害時の要援護者の安否確認の際にも情報の1つとして有効的なものである。
さらに「もしもBOX」作成に中学生からも加わってもらうことで、情操教育や減災意識の育成に寄与することとなった。高齢者世帯だけでなく、核家族の世帯にも配布することによって地域の課題を理解したり、非常時に対する適切な対応を磨く訓練の場にもなっている。 - (3)北鯖石地区避難所マニュアルの見直し
マニュアルは作って最後ではなく、その時々の情勢にあわせて見直しを行うことで真価を発揮するため、時勢に即したマニュアルになるように随時修正を行っている。各関係機関相互の連携強化を図ることによって意思疎通を円滑に行い、地域の防災力の向上に繋げることを目指し、継続的に検討している。 - (4)隣近所から始まる防災を目指す
震災を経験して、災害時はやはり隣近所で安否を確認し、支えあうことが基本であると感じた。お互い助け合うことが必要で、向こう三軒両隣を基本とした地域活動から取り組んだ。高齢者などの災害時要援護者が暮らしやすい地域を目指して、各部会の活動を通じ、平常時から顔の見える活動を展開した。こうした取り組みが災害時の活動、地域防災力の向上に繋がっている。 - (5)まち歩き、あいさつ運動などで安心・安全を守る
各関係機関と連携し、危険箇所等は行政機関への改善要請を行い、防災・防犯活動を展開した。防犯パトロールや「ながら」パトロールを随時行い、あいさつ運動を強化し、学校やPTA、警察と連携した活動を実施しすることによって、お年寄りから子供まで世代を超えて「顔」の見える地域づくりを図った。これらの活動を通じて「自分たちの地域は自分たちで守る」という意識のもと、「人と人との日々のつながりが防災力の強化につながる」という共通認識が地域に生まれた。
また、地域内の危険箇所を自分たちの目で見て歩き危険箇所を確認し、災害時での避難経路や危険箇所など共通認識を持つことができ、確認した危険箇所は危険順位をつけ行政へ要望し改善した。 - (6)水害時の危険箇所やその他の災害時の対応マップ作製
地域の中心を二級河川鯖石川が流れ、たびたび水害に見舞われている。災害時に水没する道路が通学路になっているなど危険・注意箇所があるため地域関係機関と協議し共通認識を持つことができた。また、堤防の高低差や地域の高低差を測量し、オーバーフローしやすい箇所や地域の低い箇所を図示したり、その他の風雪害等にも対応できる地域の危険情報を盛り込んだ、「地域のハザードマップ」を作製している。今後は、全世帯に配布し危険箇所などを注意喚起するとともに住民1人1人が共通した認識の確立を図りたい。
- (1)情報伝達方法の見直し
防災訓練(安否確認訓練・情報伝達訓練)
もしもBOX
防災訓練(安否確認情報収集訓練)
防災訓練(要援護者避難誘導訓練)
ワークショップ「地震復興!やろねっか!和喜愛逢の北鯖石」
「もしもBOX」作成作業
中越沖地震「自衛隊の給水活動」
苦労した点
町内会とコミュニティは昔から表裏一体の活動をしていたが、各組織間の事情や温度差があり、全地域住民ひとりひとりまで理解をしてもらうことに苦労をした。
これを同じレベルに引き上げるため、何回も会合を開き、話し合いを重ねるなど、各団体や各世代が連携をとって、平常時から顔の見える活動を行うことで、「もしもの時」に役立つよう理解を深めてもらった。
特徴
- 1. 顔の見える活動の推進
災害時はいろんな事態が何層にも重なる。この地震で被災者は誰なのか、本当に手を差し伸べてほしい人に手が届いているのか、住民意識の改革が必要と痛感した。そこで活動は平常時から町内会、各部会を通じ顔の見える活動をよりきめ細かく、組織は継続可能な組織作りをすることにより、どんな事態にも対応できる体制が確立した。
「向こう三軒両隣の和を大切に地域の輪づくり」を合言葉に、地域で支えあう地域づくりを目標に活動に取り組んでいるなど、平常時の活動を災害時の活動に繋げている。 - 2. 地域、関係機関との連携確立
北鯖石コミュニティ振興協議会は、地域部会、学習部会、健康部会、子供部会、福祉部会の5つの専門部会を設置している。
地域部会では防災連絡体制、福祉部会では地域での支えあい等、部会ごとに個別の活動を行っていた。これらの各部会とは防災という観点から有機的に連携をとりあうとともに、各町内会の自主防災組織と密に連携をとることによって、各町内会と表裏一体の活動を行い、迅速に災害対応できる体制づくりを構築した。また、地域内の情報集約窓口を協議会に一本化することにより、行政など関係機関と迅速な連携・対応が可能となった。 - 3. 地域力
これまでの災害の教訓から、「何が不足しているのか」、「何をすべきなのか」を地域全体で考え取り組みを行っている。平常時の活動が災害時の活動につながり、地域住民ひとりひとり共通認識を持ちながら取り組みに参加するなど「地域の輪づくり」を防災力へ繋げている。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 坂野 恵三((財)消防科学総合センター常務理事))
柏崎市北鯖石地区は、鯖石川の両側に沿って、平らな土地に水田が広がる、稲作の盛んな農村地域である。地域の真ん中を流れる鯖石川は、これまで何度もあふれて、住民は水害に悩まされてきた。
平成16年に中越地震に遭遇し、被害を受けたが、住民は、すぐに別の大きな地震に襲われるかもしれないと考えることはできず、防災の備えを十分に行うことはできなかった。そこへ、平成19年7月16日に中越沖地震が発生し、北鯖石地区は大きな被害を受けた。
柏崎市では、コミュニティ活動と公民館活動が一体的に取り組まれており、北鯖石地区でも、北鯖石コミュニティセンターを拠点として、自治会活動と公民館活動が一体的に行われている。コミュニティセンターでは、妊婦を対象とした活動から高齢者を対象とした活動まで、すべての年齢の住民を対象とした活動が行われており、普段のこういった活動を通じて、地域の住民の状況に目が届く。中越沖地震に襲われた直後から、普段のこういった取り組みが生かされ、避難所の運営においても行き届いた配慮がなされ、また、直後から、住民に対して、状況と困っていることを把握するため、アンケート調査が速やかに行われ、課題に対して適切な対応をとることが可能となった。
北鯖石地区における防災の取り組みは、中越沖地震の後から本格的にスタートし、災害がまたすぐに起きるかもしれず、災害に対する備えを十分に行わなければならないという意識が住民に共有され、多様な取り組みが行われるようになった。散歩しながらなどの「ながらパトロール」や、災害時の対応マップ、中学生も参加して作った「もしもBOX」など、防災の取り組みが公民館活動とも連携して行われており、地域の防災への意識が高まっている。7月16日は、平日、休日を問わず、防災訓練の日とされ、毎年、住民の意見交換の中で、防災訓練で何を行うかが決められる。
災害を受けた住民でなければ感じることの難しい災害への備えというものがあるように思われる。災害を受けたことのない地域に住む方々の防災への取り組みでも、北鯖石地区の防災への取り組みが参考となるところは大きいと考えられる。
団体概要
- 北鯖石コミュニティ振興協議会
- 柏崎市立北鯖石小学校区を範囲とする5町内会からなる北鯖石地区を対象地域とするコミュニティ組織で昭和53年4月1日に結成され、北鯖石コミュニティセンターを拠点施設として活動を行う。
- (1)人口
- 3,570名(以下、平成22年3月末日現在)
- (2)世帯数
- 1,321世帯
- (3)高齢化率
- 25.3%
- (4)町内会数
- 5町内
実施期間
平成19年~