第15回防災まちづくり大賞(平成22年度)

【消防科学総合センター理事長賞】災害から命を守る~自助共助を目指した組織づくり~

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
災害から命を守る ~自助共助を目指した組織づくり~

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塩屋向自治会自衛防災隊
(兵庫県赤穂市)

事例の概要

■経緯

 塩屋向自治会は、南海・東南海地震、山崎断層帯地震により震度6強、津波災害も懸念されている地域である。過去に豪雨による洪水災害を繰り返し経験しており、自治会員の防災意識は高い。自衛防災隊を組織し災害への備えを進めていたが、「あて職のような組織では災害時に機能しない」という声が上がり、さらに中学生からは「なぜ僕たちは災害弱者なのだろうか、僕たちにも役割があっても良いと思う」と提言があり、これを契機に、「自助共助を目指した防災まちづくり」を目指すことになった。そして、自治会役員、子ども会、中学生、老人くらぶなどの代表者による防災委員会を立ち上げ、訓練と検証を繰り返しながら災害への備えを磐石にしている。

■内容

  • 1. 地域の現状を知ろう-DIG-
     地域の現状を知ることから始めた。様々な年齢層の参加者を募り自治会内を歩く。地震、水害を想定し、街構造や居住者の避難上の問題などを実地検証。その後、防災絵地図を作成し討論を行った。①倒壊家屋により通行できないエリア、②自主避難が困難な高齢者や障がい者の住居などが明らかとなり、自治会ならではの個別対応システムの構築を目指すことにした。
  • 2. 総合防災訓練
     防災委員会主宰で防災訓練を実施。自治体が実施している総合防災訓練を「自助共助」の観点から修正した内容で、ジャッキを使用した瓦礫救助、おんぶ帯を使用した搬送、一人暮らし者の安否調査など、自治会住民の安全を意識した訓練である。①中学生の役割を明確化する、②応急手当の知識が必要と確認、次回の訓練に反映させることにした。
  • 3. ファーストエイドラリー
     集団災害、応急手当、洪水避難・誘導などをテーマとした訓練。医師、看護師、消防職員など20名がボランティア指導員として参加。自治会員15名が特殊メイクを施し、怪我人役を演じた。また、大型水槽を作成して水を張り、水中歩行を経験、洪水時の避難要領を学ぶ。リアルな訓練を経験し、災害に対応するための思考を学ぶ。特にトリアージでは、参加者全員が「大切な命」と真剣に向き合った。①水中歩行の困難性、②洪水時の要救護者の搬送方法などが問題視され、次回の訓練テーマとした。
  • 4. 洪水から身を守る-避難訓練とクロスロード-
     大型水槽を2基設置。1つは濁水で、ブロックをランダムに入れて障害を作り、水中歩行要領を学ぶ。もう1つは流水で、水圧の威力と歩行障害を体験、さらに水槽内で担架搬送や車椅子走行を行い、洪水時の救出訓練とした。クロスロードでは、豪雨災害をテーマにした題を設定して住民同士が議論。早期避難や近隣者への声かけの重要性を学ぶ。なお、自宅療養者の避難には医療機器の搬送が必要であるとわかり、機器操作要領を学ぶことにした。そこで、自主避難障害者リスト(希望者のみ)を作成し、さらに自治会員のうち、医師、看護師、救急救命士、介護福祉士などの有資格者からなる「医療班」を結成、共助の中で必要な医学知識の整理を行うことになった。

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地域の現状を知ろう-DIG-

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総合防災訓練(瓦礫救助訓練)

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ファーストエイドラリー(瓦礫救助・トリアージ)

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水中歩行訓練

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水中担架搬送訓練

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水中車椅子搬送訓練

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クロスロード

苦労した点

 自治会では「災害対応や防災訓練は公共機関が行うもの」という考えが根強い。「自助共助」という考え方が理解されず、組織構成、災害活動の範囲、活動内容など、全てが「受身」になってしまう。そのために丁寧な説明と説得を根気強く行った。また、経費削減のために自治会員の労力により会場設定や資材収集を行った。なお、住民の命に関わる問題であるため「科学的根拠」には妥協せず、市・県防災担当部局との意見交換を行い、監修者として大学等の研究者をボランティアベースで招聘。そのために打ち合わせや準備には多くの時間を費やすことになった。

特徴

 100%住民の手による防災まちづくりが実現している。行政機関が行うような形式重視の訓練ではなく、「隣のお婆ちゃんを助けるため」の訓練が行われ、「自分の命は自分で守る、近隣者の命はみんなで守る」という意識が高まっている。訓練内容も実にユニークで、現実味を帯びたものである。そして、高齢者への配慮、障がい者への思いやりの心が育ちつつあり、防災をテーマにしたまちづくりが結果的に地域コミュニティの形成に役立っている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 吉村 秀實(ジャーナリスト))

 「忠臣蔵のふるさと」、「塩のまち」で知られる兵庫県赤穂市は、瀬戸内海に面し、雨量も少ない温暖な地域である。しかし、まちの中心部を流れる清流の千種川は、過去に台風や集中豪雨によって何度も洪水被害を繰り返して来た。また、岡山県美作市から兵庫県三木市にかけて、ほぼ東西に約80kmにわたってのびる「山崎断層」は、今後30年間に地震発生の確率がかなり高い活断層であり、この断層帯で直下型地震が発生した場合、マグニチュードは7.3以上、震度は6強以上が想定されている。中でも、塩屋向地区は、その昔、塩田事業で栄えた地域だが、地盤が低いために、これまで何度となく洪水被害を受けているほか、山崎断層が動いた場合は、老朽家屋の倒壊が相次ぎ、地盤の液状化現象が発生する危険性も極めて高い。このため塩屋向地区の住民の災害に対する関心が高く、1983(昭和58年)年に自衛消防隊を結成、5年前には自衛防災隊に改組された。「阪神・淡路大震災」の教訓から、この組織の理念は「いざという場合、行政は頼りにならない」で、「自助共助」が基本的なコンセプトになっている。日頃の防災訓練は、常に実戦的で、従来は「災害弱者」と見られていた小中学生にも積極的に訓練などに参加を求めている。2009(平成21年)年8月には、千種川の上流の兵庫県佐用町で豪雨災害が発生、死者・不明者が26名に上り、このうちの13名が避難中の遭難者だったことから、避難対策の見直しを検討している他、濁流の中を如何に安全に避難するかを体験するユニークな防災訓練も実施している。しかし、現地は塩田を埋め立てた古い住宅地であり、地震にしろ、洪水にしろ、高齢者たちが安全に避難できる場所がなく、避難場所の確保が住民たちの悲願でもある。

団体概要

塩屋向自治会自衛防災隊
 昭和58年4月1日に塩屋向自衛消防隊を結成し、平成18年10月1日に塩屋向自治会 自衛防災隊に改め、実動性を強化するため規約・防災計画を改正し継続的に活動している。
世帯数
262世帯
住民数
750名
防災委員
約20名(訓練毎に委員変動あり)

実施期間

 平成19年~