第12回防災まちづくり大賞(平成19年度)

【消防庁長官賞】子ども・地域と防災(防犯)教育プロジェクト

消防庁長官賞(一般部門)
子ども・地域と防災(防犯)教育プロジェクト

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北海道教育大学(北海道札幌市)

事例の概要

■経緯

 北海道教育大学では、平成12(2000)年より、下記のような防災に関する取組を行ってきた。

  • 1.学生への防災教育
     北海道における防災教育の充実を図ることを目的に、平成12年より、函館、釧路、旭川の各キャンパスにおいて、各教員がそれぞれの専門領域において「防災に関する教育」に取り組んできた。現在は、平成18年度の大学再編を機に、専門領域の異なる4名の教員が連携し、教員養成3キャンパス(札幌、旭川、釧路)において、双方向遠隔授業システムを利用した全学連携科目・現代を読み解く科目群の授業「子ども・地域と防災(防犯)教育」を開講している。この授業の特徴は、一方的な知識注入型の講義に終わらず、最終的には各キャンパスが所在する地域において、「災害図上訓練DIG(以下、DIG)」を取り入れた参加体験型ワークショップを実施することにある。札幌校では、昨年7月15日(土)午前9時~午後5時、江別消防署の協力を得て、北海道消防学校(江別市)でフィールドワークを実施。午前の部では、学生が江別消防署職員の指導で「消火訓練」「救助訓練(救急救命士による心肺蘇生法)」「救助訓練(ロープ結索法、輸送訓練)」「緊急避難訓練」の4訓練を体験した。さらに、「炊き出し訓練」として、ハイゼックス袋(高密度ポリエチレン)で炊いたご飯と緊急時多人数調理器を用いて豚汁を作った。午後は、地域住民98名、学生96名、関係職員を含めた約300名を対象に、「DIG」を実施した。平成19年度は、7月16日(月)に午前9時~午後5時、札幌市北白石まちづくりセンターの協力を得て、実施。午前の部では、住民とともにまち歩き、昼食はハイゼックス袋でご飯を炊いた。午後は、学生と住民との懇談会を催し、防災に強いまちづくりについて話し合った。その後、山下亨氏による「災害時の避難所におけるトイレについて」(主催 北海道教育大学)の講演会を開催した。
  • 2.小・中学校での防災学習の実施
     平成13年度は、函館市立大川中学校の2年生を対象に、選択教科(家庭科)において「防災の視点をとりいれた住生活学習」(全23時間)を実践し、防災学習プログラムを開発した。さらに、この授業の中では地域住民と中学生が一緒に「DIG」を行った。平成14年度は函館市立八幡小学校の「総合的な学習の時間」で「わたしたちの学校は避難所です」を実施し、この中で地域住民との交流会を行った。同年、函館市立亀尾小中学校の「防災学習」では、聴覚障害者と一緒に「DIG」を行った。平成16年度は函館市立深堀中学校「技術・家庭科」で「自助(ラジオ付き懐中電灯の製作)」「共助(地域住民とのDIG)」、平成17年度は函館市立北美原小学校の「総合的な学習の時間」で「まち歩き」と「地域住民とのDIG」を実施した。
     平成19年6月には千葉県技術・家庭科研究大会(於:松戸市立第5中学校)で、防災の視点をとりいれた授業(家具の転倒防止対策について)の提案を行った。なお、11月には函館市立本通中学校で全道技術・家庭科の研究発表があり、ここでは「DIG」の授業提案を行う予定である。以上のように、小・中学校用の防災学習プログラム開発に取り組んできた。
  • 3.地域貢献活動(行政職員や地域住民向けの防災研修会:講師)
     地域貢献活動として、北海道総務部危機管理対策室、北海道立北方建築総合研究所、石狩川振興財団、社会福祉協議会など行政機関の要請による研修会の講師を務め、自主防災組織の結成や活性化に向け、災害図上訓練DIGを導入した参加型体験学習プログラム開発を行ってきた。なお、北海道教育委員会との連携では、社会教育主事講習会「災害の読図(平成16年度)」、「防災と市民教育(平成18年度)」の講義を実施した。また、町内会や各種ボランティアグループの要請によるDIGも実施してきた。以上のように、平成12年から現在に至るまで、DIG研修会などの活動は延べ250回以上になる。
  • 4.DIG指導者(ファシリテーター)養成講座の実施
     北海道総務部危機管理対策室は「災害図上訓練DIG」を普及させるための出前講義を積極的に実施することとなった。しかし、実際に「DIG」を指導できる者が数少ない現状にあることから、学長裁量経費の助成を受けて地域貢献推進プロジェクト「災害図上訓練『DIG』指導者(ファシリテーター)養成プログラムの開発」を実施した。本プロジェクトは平成17、18年度の2年間において、一般人から希望者を募り、指導者を希望する地域住民や行政職員を対象に、指導者(ファシリテーター)養成講座を各3日間実施した。平成17年度は、函館市にある「財団法人 北海道国際交流センター」と連携して、11月12、13日と平成18年1月28日(フォローアップ)に、平成18年度は江別市消防署と連携し、11月11、12日と平成19年1月27日(フォローアップ)に実施した。この2年間のプロジェクトを通して、指導者養成プログラムを開発することができた。また、この2年間で誕生した延べ50名の指導者は、現在、積極的に活動している。

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地域住民と一緒の授業

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小学生が生き生き発言

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住民と一緒にまち歩き

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みなみ風(北海道新聞)

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第2回ファシリテータ養成講座

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毛布を使った担架づくり

苦労した点

 北海道においては、住民の防災に対する意識が低く、特に、学校の防災に関する対応については他府県に比べて希薄であると指摘されている。1998年に全国へ向けて発信された災害図上訓練DIGであるが、2000年の時点で北海道民は言葉さえも知らない状況であった。まず、「DIG」という言葉を住民たちに知ってもらうために、学生たちと一緒に休日や平日の夜の時間を利用して、町会やボランティアグループなどでDIGの出前講座を実施した。
 翌年は、中学校で授業実践をさせてもらうなど、地道に活動を重ねてきた。7年間を経過した現在では、北海道中にDIGが広まり、いろいろな地域や町会単位で実施されるようになった。さらに、DIGをもとに住民たちが主体となって災害時要援護者の「名簿づくり」や「見守り活動」に発展している。

特徴

  • 1.本学が定めた大学憲章では、「他者との積極的なかかわりと共存、社会に広がりを持つ人間性の育成、子どもたちが抱える困難をわがこととして受け止める」力を育成し、「社会から信頼される教師と地域人材を送り出す」ことを謳っており、「防災」の視点を将来教師となる学生が身に付けることで、この憲章に沿った人材育成を実現するものである。
  • 2.これまで函館、釧路、旭川の各キャンパスにおいて、防災に関する教育が家庭科教育、社会科教育、理科教育、生涯教育関連科目において個別に取り組まれてきた。しかし、このような個別の教科教育にとどまることなく、異なるキャンパスに所属する教員が連携することにより、防災教育の一層効果的な実現が期待されると考え、4人の教員が連携して全学的な取組として発展させてきたものである。
  • 3.全学連携授業である「子ども・地域と防災(防犯)教育」は、地震災害の多い釧路、洪水災害を体験している札幌、さらに災害が比較的少ない旭川といった特徴ある3キャンパスを結んでいること、担当教員が多専攻にまたがるものの数年間ともに研究してきたこと、講義だけではなく各地域において地域住民とともにフィールド研究(実地指導)を行うといった特徴がある。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 野村 歓(国際医療福祉大学大学院教授))

 ヒアリングの冒頭に札幌、旭川、函館の3校舎をネットで結び、DIGに参加した学生の学びえたこと及び貴重な体験を3人の学生から聞き、続いてDIG授業に参加している社会学・地理学の教員から幅広い学問体系からDIGを展開している効用の成果とこれに関わる授業形態についての意見を聞いた。その後、理事室でDIGに直接参加した消防署及び札幌市まちづくりセンターからDIGによる成果等について聴取した。
 これらの話し合いの中で、DIGによる成果はそれぞれの立場で評価がそれぞれ異なることが印象的であった。DIGを体験した小・中学生は「愉しみながら防災に対する心構え」を感じ取り、DIG活動の中で重要な役割を果たす大学生・院生は「DIGの本来の重要性の認識と将来の自分が置かれた立場(教職)において子供の安全をどうやって守るかに大きなプラスと同時に、DIGを通して小・中学生との接触の仕方が身につく」とかたり、消防側からはこれまでの画一的な消火訓練等では住民との接点は非常に低かったが、このDIGを通して住民の顔が見えコミュニケーションが図れるようになってきたことを非常に高く評価していた。この点はまちづくりセンターも同様であった。他分野の大学教員もこれまでと異なった視点で学生と接する機会がもてたことは、自分の研究にもいろいろな影響を与える可能性があろう。
 全般的な印象は、DIGを通して「まちを知り」「人と知り合う」ことによって自分が居住している地域には、さまざまな問題があることの共通認識を持つことでコミュニケーションが芽生え、そこから更に要援護者の援助体制まで話が展開していく、これをDIG参加者が自ら気づいていく素晴らしさを感じ取った。

団体概要

札幌校 准教授 佐々木 貴子(家庭科教育学)
釧路校 教授  酒井 多加志(地理学)
釧路校 准教授 小松 丈晃(社会学)
生涯学習教育センター 准教授 今 尚之(土木工学)

実施期間

平成12年~