第12回防災まちづくり大賞(平成19年度)

【消防庁長官賞】防災・社会貢献ユニットにおける大学と地域との相互教育の実践

消防庁長官賞(一般部門)
防災・社会貢献ユニットにおける大学と地域との相互教育の実践

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神戸学院大学 学際教育機構
防災・社会貢献ユニット(兵庫県神戸市)

事例の概要

■内容

 平成18年4月にスタートした防災・社会貢献ユニットでは、大学と地域との相互教育による、「防災」を軸とした危機管理意識や能力を高め合うための防災・社会貢献教育プログラムを実践している。このプログラムの特徴は、学生を主体とした実学教育が特徴であり、教育と地域貢献が一体となり活動をしている点である。
 防災・社会貢献ユニットの授業は、以下の7つの授業スタイルから構成されている。①講義(防災概論・防災行政学・災害解析基礎理論他)、②他機関連携による提携講座(兵庫県、神戸市、人と防災未来センター、神戸市消防局、CODE(海外災害救助市民センター)、JICA(国際協力機構)、読売新聞、読売テレビ、ラジオ関西)、③プレゼンテーション(ゼミ他)、④学生及び地域住民向けの講演会(防災シンポジウム他)、⑤フィールドワーク(防災実習・救命処置実習・国内実習・海外実習他)、⑥成果物を作る過程での学習(学生によるオリジナルの防災教育教材の開発)、⑦実際に教育をする過程での学習(学生による小学校における防災教育出前授業)。特に多くの機関からの講座を実施してもらっていることが特徴である。
 当ユニットでは、このような多方面からの授業を通じて、学生の人材育成を行うとともに、学生自身が授業等で学習した内容を生かして、実際に社会貢献できる活動を行っている。具体的には、①防災教育の教材開発、②語り部とのコラボレーションによる新しい防災教育ツール、防災教育プログラムの開発、③学生応急手当普及員による市民救命士講習の実施、④被災地におけるボランティア活動、⑤学内防災マップ・地域の防災福祉マップの作成などである。
 ①防災教育教材開発は、小学生の教科+防災(例:国語+防災)の内容の教材をオリジナルで作成し、指導書とセットにして小学校等に配布している。②語り部とのコラボレーションによる新しい防災教育ツール、防災教育プログラム開発は、語り部の話をもとにした防災教育ツールの作成と語り部の語りのあとに大学生が防災教育を行うといった出前授業を実践している。③学生応急手当普及員による市民救命士講習の実施は、学生が普通市民救命士講習を指導する、応急手当普及員(救急インストラクター)の資格を取得し、講習を実施して市民救命士の育成・普及に貢献している。④被災地におけるボランティア活動は、新潟県中越沖地震や、能登半島沖地震の現地ボランティアを行った。⑤学内防災マップ・地域の防災福祉マップの作成は、防災アンケートを実施し、結果を反映させ、高齢者に考慮した防災福祉マップを作成した。

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オリジナルの防災教育教材開発

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語り部さんとの教材作りの様子

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市民救命士講習の実施

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市民対象に171の使い方を教える

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市民対象の非常食試食

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小学校での出前防災教育(災害時要援護者体験)

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小学校での出前防災教育

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小学校での出前防災教育(非常持ち出し袋を考える)

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小学校での出前防災教育授業

苦労した点

 本ユニットは、大学2年生から4年生を対象とした3年間の教育プログラムで、2006年4月にスタートしてからようやく1年半が経過したところである。全国的にみても大学学部レベルからの防災を専門とした教育プログラムは限られていて、学生はユニットでの教育が始まるまで防災に関する知識は少ない。ユニットが開始し、様々なプログラムを実践する中、学生の急激な成長が見られる一方、ある程度の成果がでるまでには、時間がかかることを痛感した。

特徴

 本ユニットでは、学生が授業で習ったことを即社会に生かす活動を実践している。実習授業の中では、授業で習った知識を元に学習指導要領に沿った(学校で教科授業の中で使えるような)オリジナルの防災教育の教材を作成し、教材の配布や学校への防災教育の出前授業を行っている。また、授業で応急手当普及員の資格を取得した大学生講師が講習を実施し、これまでに500名以上の市民救命士を育成する活動も行っている。このように、授業で学習したことを生かし、地域の既存の枠組みの中で、防災意識や防災教育の普及に貢献する活動を実践している。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 金谷 裕弘(総務省消防庁国民保護・防災部防災課長))

 現地で神戸学院大学防災・社会貢献ユニットの学生による神戸市立港島中学校でのモデル授業を参観させてもらいました。当中学校においては、3回の総合学習の時間(2時限×3回)を防災学習にあて、最後の枠で、学生作成の教材を活用してのモデル授業が実施されました。これまでは、小学校を対象に行っていましたが、今回、初めて中学校で実施したとのことです。ユニットの指導者の神戸学院大学の舩木先生は、「こうした経験を通じて学生が考えさせてもらう場」となっているとおっしゃっておられましたが、教材は従来から小学生に使っていた災害時の緊急の持ち出しの素材を選ぶ教材に加え、(中学校向けに新たに作成した)条件設定をした上での緊急対応(たとえば地震で避難する際、怪我人を発見した場合の対応等を考えさせる等)の教材を用いて行われました。
 参観の後、皆さんと意見交換をした際、港島中学校の山本学年主任は、「学生が教えるのでは広がりに限界があるから、教える側(学校の先生)に伝える側になってほしい」とおっしゃっておられました。これまで小学校や中学校での授業が実現したのは、個人的あるいは地域的つながりを頼ってとのことでしたが、学生自身が実施するモデル授業ではやはり広がりに限界があるでしょう。
 学生たちからは、今後、小・中学校の恩師にアプローチするなど普及・拡大に向けての積極的な意見が聞かれましたが、さらに外に出て行ってネットワークを広げていくことが重要だろうと感じました。また、そうしたネットワークの活用あるいは連携のもと、行政(防災部局それとも教育委員会へのアプローチがいいのでしょうか)へのアプローチも期待したいと思います。
 防災教育をどう教育の現場に浸透させていくかは、多くの防災関係者が期待しつつ悩んでいる点であり、防災行政に携わる者も積極的に取り組んでいくべき課題ですが、こうした防災教育の教材の活用の普遍化、一般化を目指した取組がさらに活発になっていくことを願うものです。

団体概要

 防災・社会貢献ユニットは、法学部、経済学部、経営学部、人文学部の文系4学部に所属する学生が大学2年生から4年生の3年間、一緒に学習をする教育プログラムである。2006年4月にスタートしてから現在、一期生(現大学3回生)の50名、二期生(現大学2回生)の47名がユニットに所属している。このプログラムでは、自然災害および人的災害を対象とした防災に関する研究・教育とボランティアや国際協力といった社会貢献に関する研究・教育を有機的に関連させることで、社会の様々な問題解決に即応できる知識と技能、行動力を身につけることを目指している。

実施期間

平成18年~