第12回防災まちづくり大賞(平成19年度)

【消防科学総合センター理事長賞】“福祉の里”弱者を守る消防団活動と地域と連携した訓練の実践

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
”福祉の里”
弱者を守る消防団活動と地域と連携した訓練の実践

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富岡町消防団(第3分団)
(福島県富岡町)

事例の概要

 富岡町は、福島県の浜通り地方のほぼ中央に位置し、知的障害者支援施設を始め特別養護老人ホ-ム等が町内に数多く点在している「福祉の里」が自慢である。当該消防団が管轄する地区には、県立富岡養護学校、養護老人ホ-ム東風荘、東洋学園、特別養護老人ホ-ム館山荘、精薄者更生施設東洋育成園などがあり、そのほとんどが居住型の収容施設であり、重度障害者、知的障害者の他、視覚、聴覚などに障害を持つ者が入所している。
 当該消防団は、このような管轄区の地域特性から、精薄者の愛護精神と住民の安全・安心を守る消防団活動の重要性に鑑み、福祉施設事業者や公的機関、さらには地域行政区との連携を密にし、地域密着型の活動と実践的訓練を目途に、昼夜を問わず長期間に亘って活動を展開している。
 当該消防団は、地域防災のリ-ダ-的役割を担うべく意識と団員相互の団結力も高く、団員の英知と創意工夫を駆使した活動を継続して実践している。また、団員の知識・技術の向上を確立すべく、規律訓練、消防操法訓練等の活動にも力を注いでおり、公的消防機関とともに地域住民の信頼と負託に応えられる消防団として活躍している。

■内容

  • 1.知的障害者支援施設と連携した訓練の実践
    当該消防団は、東洋学園、東洋育成園と連携して、人的被害の拡大と消防活動の困難性が危惧される夜間時の発災を想定した実践訓練を広域消防とともに毎年実施している。特に東洋学園の訓練は、昭和59年から22年間に亘り継続して実施されており、隣接分団及び近隣福祉施設と連携した訓練にも積極的に参加、様々な災害を想定し、入所者の避難誘導・救護活動等の地の利を生かした訓練を実践している。この実績から事業所、地域、公的機関との信頼関係を構築し、大規模災害時等の近隣共助関係の強化と発展に尽力している。
  • 2.地域と一体となった防火思想の普及啓発
    当該分団は、地域行政区とともに密着した防火活動を展開し、併せて防犯活動や青少年健全育成活動にも繋げている。具体的には、11月から3月までの火災多発期において、拍子木、提灯による昔ながらの夜警活動を実践、住民の警火心喚起による出火防止と防火思想の普及啓発に努めている。また、町内全域を対象とした各世帯訪問による防火活動も実施している。
  • 3.地域参加型の防災訓練への協力と実践
    当該分団は、総合防災訓練の参画と実践にも力を注ぎ、地域防災のリ-ダ-としての指導力を発揮し、住民参加型の防災訓練を公的機関とともに実践しており、住民から高い信頼と評価を受けている。また、隣接町消防団との合同訓練についても、多くの分団、団員を参加させている。
  • 4.災害対応能力及び技術の向上に向けた訓練の実践
    当該分団は、団員の士気、団結力の向上、技術の錬磨等を目的とし、規律訓練及び消防操法の訓練を果敢に実践している。特に消防操法技術に対しての理念と志は極めて高く、双葉地方の消防操法技術の向上と改革に大きく貢献し、住民の安全・安心を確保すべく消防団活動を実践している。結果、全国消防操法大会2大会連続出場の偉業を達成させ、第19回大会については、ポンプ自動車の部で第9位優良賞の栄誉に輝いている。

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職員と連携した避難誘導活動

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消防団員による救出活動

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拍子木・提灯で「火の用心」

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屯所前で点呼・出発準備

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地域住民とともに避難誘導

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婦人消防隊と連携した応急処置啓発

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消火器による消火訓練の指導

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隣接町消防団と連携訓練(林野火災訓練)

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応急処置訓練にも果敢に挑戦

苦労した点

  • 1.知的障害者支援施設と連携した訓練の実践
    知的障害者支援施設を管轄する消防団として、地の利を最大限に生かせる活動を構築しなければならなく、活動の優先順位と施設の防災体制を考慮した適切な消防団活動を見い出す必要があった。精薄者の意識、行動等、防災能力を正確に把握することが困難であり、また、企画サイドと消防団との間に意見等の違いが生じ、マンネリ化の傾向を脱却し実践的な訓練内容とする点で関係機関との調整を必要とした。
  • 2.地域と一体となった防火思想の普及啓発
    地域行政区との連絡調整やコミュニケーション不足を解消しなければならない。また、管轄する行政区全域をもれなく警戒するには、人的、時間的にも困難で実施地区に間隙が生じないように配慮しなければならない。
  • 3.地域参加型の防災訓練への協力と実践
    本訓練は、地域型の訓練企画につき、消防団が中心となり地域住民への参加を募ったが、住民一人ひとりの理解と協力を得ることは極めて大変だった。また、広域消防、役場のサポート体制を構築する面でも不慣れな点もあり団員相互の調整に対し苦慮した。
  • 4.災害対応能力及び技術の向上に向けた訓練の実践
    消防操法の訓練は長期間に及ぶことから、団員の士気、団結心の維持と向上、訓練時の体調管理に関する面で苦慮した。また、訓練場所が限定され効果的な訓練計画とする点で多くの調整を必要とした。また、支援分団の体制維持と団員相互のコミュニケ-ションの維持に配慮を要した。

特徴

  • 1.当該消防団の活動には、“福祉の里”富岡町を守る使命感を象徴するかのように、本団、分団を中心に団員が一丸となり、災害時要援護者を火災から守るべく活動を積極的に展開している。また、地域の安全と安心を確保するための団員の郷土愛と実践訓練等への情熱も一際強く、地域防災の中枢的役割を担った消防団活動を的確に推進している。
    また、富岡町消防団の組織力と団員個々の意識は極めて高く、地域に密着して様々な消防団活動を率先し努力していることは、双葉地方の各町消防団からも目標とされている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 高野 公男(東北芸術工科大学デザイン工学部教授))

 JR上野駅から常磐線、特急スーパー日立を使って約3時間、はじめて訪れる富岡町はのどかな風景を呈していた。太平洋に面した福島県浜通り地域は、気候が温暖で自然災害も少なく住みやすいところらしい。商店街や市街地の街並みにも活気が感じられた。普通の小さな地方都市なのだが、人口、産業、環境、生活基盤面でバランスのよいまちという印象を受けた。出迎えてくれた富岡町第三分団の団員の人たちも、みな若々しく愛郷心と町を守る気概に満ちていた。第三分団の主たる活動範囲は、市街地エリアと近傍に立地する福祉施設群である。老人ホームに加えて知的障害者の施設もあり、地域防災の担い手としてユニークな活動を展開している。とりわけ知的障害者施設の防災には、夜間の防災訓練、情報の伝達方法など通常の健常者施設防災と次元を異にした対応が求められる。消防署と施設、消防団の三者、トライアングルの連携で試行錯誤を繰り返し、防災マニュアルの定式を編み出している。三者の呼吸が合わないとできないことである。真の安全・安心は経験の蓄積と継続性、そして相互の信頼関係の中から獲得できるものであろう。帰途に富岡町の名所、「夜の森桜のトンネル」を案内されながら富岡町の地域防災のかたちに思いを巡らした。

団体概要

◇富岡町消防団の概要

①設置年月日:昭和30年
②消防団員数:定員300名、実員282名
③分団数:6分団
④団長名:安藤 治(平成19年4月1日)
⑤配置消防車両数:23台
⑥人口:15,956人
⑦世帯数:6,054

◇富岡町消防団第3分団の概要

①団員数 40名
②班数 3班
③分団長名 遠藤 政孝
④配置消防車両数 4台
※平成19年8月1日現在

実施期間

昭和59年~