消防庁長官賞(防災情報部門)
日常生活に防災を取り入れた防災情報の伝達=答えは「防災クラウド!」
加古川グリーンシティ防災会
(兵庫県加古川市)
事例の概要
加古川グリーンシティ防災会では、阪神・淡路大震災以降発生した数々の災害から得た教訓をもとに活動し研究を重ねてきた。その結果、自主防災組織が行う防災とは「自分の大切な人を守ること」が根幹にあるひとつの答えだと考えた。その大切な人を守るために何をすれば良いのかを考えたとき、ひとりで防災活動をするのではなく、ひとりでも多くの人が協力し合うことが大切であり、有効な手段であると判った。その為には「情報」を共有することが大切で、その情報はお互いに発信し合い受信し合うことが重要である。そこで加古川グリーンシティ防災会は、グリーンシティの中はもとより、より多くの地域の人たちと情報を交換し共有することでお互いに防災スキルを高める。これが「自分の大切な人を守ること」になると確信した。また、それら情報の受発信に「楽しく」というキーワードをスパイスにすることで継続した運用が可能になることが判った。この「防災情報伝達システム」は被災後すぐに構築できるものではない。日頃の生活の中で育み使えるようにしておく必要がある。それが普段の生活の中に防災を組み込んだ「生活防災情報伝達システム」であり、防災活動に必要な情報をみんなで共有し育むことが「防災クラウド」というものである。ソフトとハード事業に分けた生活防災情報伝達システム「防災クラウド」の一部を以下に記載した。
- 1. ソフト面
- (1)「防災ショットバー」地元FMラジオ局で楽しくお酒を呑みながら防災番組を制作企画放送
- (2)「大地震トライアクト」地元FMラジオ放送による不特定の方に向けた防災放送の制作協力
- (3)「防災インターネットラジオ」による防災啓発と遠隔地との通信体制の構築
- (4)「地震発生時対応マニュアル」自主防災組織の災害発生時における本部構築運営マニュアルの製作
- (5)「非常持ち出し本・DIB」自分の大切な人を守るためのバイブルとして刊行
- (6)「防災を学ぶ会」災害時の連絡体制構築や支援協力について考える会の発足
- (7)「防災知識の共有」防災講演を各地で開催し、防災知識の共有と防災意識の向上を計る
- (8)「グリーンだより」毎月発行の広報誌による住民防災意識の高揚
- (9)「帰宅支援サポーター」帰宅難民にならないための行動指針開発
- (10)「安否確認プログラム・SPC」災害発生時の的確な安否確認の為のシステム開発
- 2. ハード面
- (1)「防災放送設備の拡充」マンション内の緊急伝達システム機器の拡充
- (2)「防災会ホームページ」防災情報や防災知識をより多くの方々に発信する運営管理
- (3)「防災情報モバイルホームページ」携帯電話を利用した防災啓発と緊急伝達システムの構築
- (4)「ニューメディアシステム」テレビを使った緊急情報を伝達する自主放送設備
- (5)「グリーンネット」マンション内イントラネットを使うマンション運営情報及び緊急情報伝達システム
- (6)「緊急時安全管理システム」敷地内やエレベータ内に防犯カメラの設置
- (7)「防災無線機」業務用携帯型無線機を使用した被災時マンション内通信システムの設置
- (8)「防災掲示板」防災啓発や被災時生活情報の掲示用に設置
- (9)「避難集合表示板」マンション内、災害時避難集合場所の表示板設置
数々のアイデア事業を通して、防災を普段の生活の延長線上に置く「生活防災」を推進し啓発している。
インターネットラジオ
グリーンネット
グリーンネットサーバー
防災ショットバー
防災情報モバイルホームページ
防災無線機
非常持ち出し本
苦労した点
日頃の生活の中で備えることを学び、備えることの大切さをどのように伝えれば効果的なのか、そして「防災を防災と語らずとも防災の役割が果たせる」よう如何に工夫するかが課題だった。そこで日常的に使用している身近なアイテムを使い工夫することで、非日常的な災害という出来事を、日々の暮らしの中に盛り込ませ、非日常を仮想空間で想定することで、何故個々で防災活動を行うことが必要なのかを啓発した。「防災」を特殊な活動として捉えるのではなく、日頃の生活の利便性を向上させる目的も兼ねているものであり、ましてや「防災とは、自分の大切な人を守る活動なのだ」と周知することで数々のハードルをクリアした。
また「防災クラウド」は、お互いの持つ情報を出し惜しみしないようにするために、まず始めに自分たちの持つ情報からクラウドに全て上げていくことを心掛けた。
特徴
決められた人だけが、決められたことだけを行うものではなく、みんなで楽しく活動できるシステムになるよう心掛けた。ひとりの人の持つ情報はほんの少しでしかないのだが、多くの人が集まり情報を共有することで大きな防災シンクタンクを創り上げる「生活防災情報システム」を目指した。この「生活防災情報システム」は、「防災クラウド」とも言えるシステムである。今までは、地域単位または個人単位の防災活動に必要なハードウェア、ソフトウェア、データなどを、個々に保有し管理し活動に使用していたのに対し、「防災クラウド」では、自分の大切な人を守るために必要な情報を共有することで、自然とみんなでみんなを守ることのできるシステムが構築でき、その結果、自分自身が自分の大切な人を守ることができるようになれば、素晴らしく災害に強いまちが自然とできあがることになると考えた。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 吉村 秀實(ジャーナリスト))
兵庫県加古川市は、東播磨地方の中核都市で、加古川グリーンシティ(マンション7棟、584世帯、住民約2,000名)がある加古川町一帯は、マンションが林立し、重化学工業地帯や大型量販店の激戦区になっている。特に、臨海部のほぼ全域が神戸製鋼加古川製鉄所の敷地で、いわば企業城下町的な顔を持つが、これまで大きな自然災害や労災事故などをほとんど経験して来なかった。ところが、1995年(平成7年)1月17日に「阪神・淡路大震災」が発生、兵庫県内が大きく被災、加古川市内でも死者2名などの被害が出た。これを契機に、1998年6月、グリーンシティの管理組合は、従来の自衛消防隊を編入した新しい防災会を設立した。マンションと言えば、プライバシーが守られる半面、近所付き合いが薄いのが防災対策を進める上での最大の難点だが、設立当初から「楽しく防災活動を」を目標に、住民たちが様々なアイディアを出し合い、楽しい防災の仲間づくりに成功した。2006年3月、「第10回防災まちづくり大賞」の総務大臣賞を受賞するなど、これまでにも数々の受賞歴がある。今回、受賞の対象となった「防災クラウド」(生活防災情報伝達システム)は、日頃の防災活動の中で、素晴らしいアイディアや情報が生まれても、一個人や狭い地域で持っているだけでは情報の「死蔵」になってしまうため、多くの人たちが共有できる「防災シンクタンク」にしようという意気込みでスタートした。具体的には、2007年1月から防災インターネットラジオ「e-KGB・ネットワーク584」を開局、防災に関する話題や情報を提供している他、2009年4月からは地元のFM局「BAN-BANラジオ」の協力で、お酒を飲みながら防災を語ろうという「防災ショットバー」という番組がスタートしている。また、災害が起きた場合、どのような危険にさらされるかをイメージした防災ハンドブック「非常持ち出し本・DIG(災害図上訓練)」を発刊して、全国に無料で配布、今や全国のマンション管理組合などのリーダー的な存在になっており、グリーンシティの防災活動はクラウド(雲)のように全国に広がっている。
団体概要
団体概要
加古川グリーンシティ自主防災組織
- 構成世帯数
- 584世帯
- 構成人員
- 約2,000名
ホームページ
http://www.greencity.gr.jp/greencity_bousaikai/index.html
実施期間
平成8年~