総務大臣賞(住宅防火部門)
全国初の動く!光る!防火劇「パネルシアター」で住警器PR、空き缶のプルタブの売却金で住警器を購入、団員がボランティアで設置
北九州市戸畑消防団
(福岡県北九州市)
事例の概要
■経緯
北九州市戸畑区は、明治34年「八幡製鐵所」が建設されたことから工業都市として急激に発展した街である。そのため、その当時、急増した人口に伴い多くの木造住宅が建設され、現在は、老朽木造家屋密集地域が多く存在している。また、高齢化率も進んでおり、25.9%(住民基本台帳:平成22年3月末現在)と、全国平均23.0%(総務省統計局推計人口:平成22年4月1日現在)より約3ポイントも上まわっているところである。
このような状況から、戸畑消防団では、一旦火災が発生すると延焼拡大や、高齢者の逃げ遅れが懸念されていることから、住宅用火災警報器の設置の重要性に注目し、①全国初!! 動く!光る!防火劇「パネルシアター」(第16回全国女性消防団員活性化奈良大会出場)で住宅用火災警報器のPRや、②空き缶のプルタブ回収費で機器を購入し高齢者宅に団員がボランティア(無料)で設置する等、様々な普及促進策に取り組んでいる。
■内容
- 1. 全国初!! 動く!光る!「パネルシアター」による設置PR
北九州市戸畑消防団では、効果的な住宅用火災警報器の設置を推進するため、全国初の女性団員手作りの紙芝居「パネルシアター」でPRすることにした。
この「パネルシアター」とは、暗い部屋に黒布を貼った大きなパネルを置き、様々な光を照らし、蛍光人形によって表現する「動く!光る!大型現代紙芝居」である。
主に高齢者のための「ふれあい昼食会」や自治会の行事の機会を捉え、歌や演技をまじえながら動く!光る!現代紙芝居のパネルシアターを実施している。体験した住民からは、「おもしろかった。火の怖さがわかった。住宅用火災警報器は大切だ。」、「楽しみながら、防火に関する知識や技術が身に付く。早く私の家も住宅用火災警報器を設置しよう。」と好評である。
このパネルシアター劇団は、平成12年に結成し早や10年となり、平成21年度から、住宅用火災警報器の設置促進のPRを中心に実施している。 - 2. 空き缶のプルタブの売却金で住宅火災警報器を購入し、団員が無償設置
北九州市戸畑消防団では、空き缶のプルタブを集め、その売却金により、住宅用火災警報器を購入(平成21年:44器購入)し、区内の高齢者宅に消防団員が出向きボランティアとして設置をしている。
設置した高齢者からは、「本当に助かった」、「これで安心して暮らせる」などの声を聞くことができた。
なお、集めたプルタブを売却し、その利益で住宅用火災警報器を購入することになるが、この活動は誰もが気軽に参加でき、環境美化や資源のリサイクルにもつながることから、学校や企業、市民の皆様にも呼びかけ、ご協力いただいた結果、プルタブを収集することができた。
住宅用火災警報器1個を購入するためには、金属の価格にもよるが、プルタブが12万個必要である。これは、重量にしてドラム缶約3/5本分の45kgにあたる。
住宅用火災警報器の他にも、プルタブの売却代金で車椅子等を購入して、市社協を通じて、社会福祉施設等に寄贈している。
パネルシアター
消防団による住警機設置
パネルシアター
キャップを持参した園児
苦労した点
[パネルシアターで苦労した点]
- 1. パネルシアターをどのように効果的に伝えるか
「パネルシアター」は、初めての試みであったため、どのようにして地域住民に効果的に伝えるかが、問題となった。
実施にあたっては、幼稚園や公民館の関係者等多くの人から意見を聴取し、その結果、動きのあるものが良いことが分かり、人形の間接部が可動したり、燃え上がる炎が次第に大きくなる工夫などをした。
また、ブラックライトを活用した大型紙芝居の暗部分と、団員自身が衣装を身にまとい劇をする明部分をつくり、全体を通してメリハリのある構成にしている。 - 2. 音響効果による臨場感の向上
サイレンの音、風の音、住宅用火災警報器の警報音などを録音して、音響も劇に取り入れ、臨場感を向上させることとした。 - 3. 発声練習
聞き手に分かりやすく伝えるため、発声方法も専門の先生からアドバイスを受けた。始めは、複式呼吸ができなかった女性団員もレッスンの結果できるようになった。また、発音もアドバイスを受け、聞き取りにくい発音をなおすのには大変苦労した。 - 4. 分かりやすい表現
台本を作成している時、「どのようにすれば分かりやすくなるのか」女性団員皆で考え次のような工夫をした。- (1)良い例と悪い例の対比
119番通報要領の紹介場面では、まず、悪い例を実演し、一旦ストップして、次に、良い例を紹介して、視聴している人がよりわかり易いようにした。 - (2)立体的と平面的に同時に解説
AEDの取扱要領の紹介場面では、実際に床に練習用の人形を置きAEDを装着して解説しながら、同時に見易いように掲示板に人間の心臓の位置を示したイラストを貼りAEDのパッドの装着位置を説明して、視聴している人がよりわかり易いように工夫した。
- (1)良い例と悪い例の対比
- 5. 台本は全て暗記
スムーズに劇を進行させるため、ナレーション担当の女性団員以外は、台本を全て暗記して演技をしている。
しかしながら、女性団員は、仕事や家事の都合もあり、全員が揃って練習することが困難なのが現状で、全員が暗記して実演できるようになるまでには、約2~3ヶ月を要した。
[空き缶のプルタブ回収費で購入、無料設置で苦労した点]
- 1. プルタブの自主回収
プルタブの回収は、思うように進まず、公園清掃も兼ねて空き缶拾いをするなどして回収に努めた。 - 2. 地域へのプルタブの回収協力依頼
消防団員だけでの回収では、最初は思うように集まらず、地元の小・中学校や企業に依頼し、プルタブを回収した。消防団員の中には、幼稚園、小・中学校の役員や会社役員等も数名おり、そのような団員を通じて徐々に協力の輪が広まり、他県の小・中学校や保育園等からもプルタブが送られてくるようになった。 - 3. プルタブの換金
回収したプルタブを換金する際は、少しでも高値で引き取ってもらうよう、プルタブを通じた社会貢献をしている旨を説明して、地元企業に協力を求めた。製鉄業で発展したまちという利点もあって、通常より若干高値でプルタブを換金できた。 - 4. 無料設置対象者の選定
設置する高齢者宅は、地域の実情や高齢者の福祉に精通した社会福祉法人北九州市社会協議会(以下、「市社協」という)の協力を頂き決定した。
市社協は、地域にきめ細かなサービスを提供するため、小学校区単位で「みまもり訪問」を実施しており、その代表者の意見に基づき、市社協が設置対象高齢者を決定して、消防団員が無償設置したもので、本当に必要な高齢者の方々に届けることが出来た。 - 5. 地域と連携して無料設置
対象の高齢者宅に設置のため訪問した際、最初は、悪質な訪問販売員と間違われたこともあった。そのため、設置の際は、市社協を通じ、民生委員や自治会長等に同行して頂き、地域と連携して設置することにした。
特徴
[空き缶のプルタブ回収費で購入、無料設置で苦労した点]
- 1.全国初のパネルシアター
女性団員がどこにも無い、だれも挑戦したことも無いことに挑戦したいという熱い情熱と、豊かな想像力で「ブラックライトと紙芝居を融合させた現代紙芝居」を防火・防災啓発劇「パネルシアター」として全国で初めて取り組んだ。 - 2. 総務省消防庁が推進している「住宅用火災警報器の設置促進」や「若年層の防火・防災教育の推進」、「AEDの普及促進」を取り入れた内容にしている。
- 3. 若年層と高齢者に分けたことで、対象者が内容を理解しやすいように工夫した。
- (1)若年層向け
- ・火遊びなどの怖さ
- ・火気使用は大人と一緒に
- ・119番通報の要領
- ・住宅用火災警報器の設置促進 など
- (2)高齢者向け
- ・住宅用火災警報器の設置促進
- ・高齢者の救急事案を踏まえた救急処置法の紹介(AED使用方法等)
- ・119番通報の要領
- ・近隣住民との共助の大切さ
- ・高齢者宅への防火訪問「いきいき安心訪問」の紹介 など
- (1)若年層向け
- 4. 心温かい手作り
全国初の試みであったため、ブラックライトの装置から特殊なインクを使用した人形の他、衣装、ケース等に至るまで、すべて団員が色々な知恵を出し、力を合わせて楽しみながら約3ヶ月をかけて作成した。 - 5. 出前授業
幼稚園や保育園への出前事業では、ギターやピアノの演奏にあわせて、歌や演技をまじえて「パネルシアター」を子どもや先生と一緒になって行っている。- <成果>
体験した子どもたちは、「おもしろかった火の怖さがわかった」、父兄、先生、高齢者等からは、「楽しみながら、防火に関する知識や技術が身に付く」と好評である。
また、評判を聞き付けたテレビや新聞などのメディアも取材にきた。 - <今後の展開>
このパネルシアター劇団は、平成12年に結成し、早や約10年となりる。平成22年度は、ちょうど10周年となるため記念イベントを開催したいと考えている。
- <成果>
[空き缶のプルタブ回収費で購入、無料設置のセールスポント]
- 1. 必要性が高い一人暮らしの高齢者宅のために消防団がプルタブの売却益で住宅火災警報器を購入
北九州市戸畑区では、高齢化(25.9%)が進んでおり、住民の4人に1人が高齢者で、その中でも火災等の際、逃げ遅れが懸念されている一人暮らしの世帯に、どのようにすれば住宅用火災警報器の設置を促進できるかが課題になっている。
しかしながら、「一人暮らしの高齢者は住宅用火災警報器の購入が困難」等の地域住民からの声が寄せられた。
このような状況から、消防団で何かできることは無いか考え集めたプルタブを売却し、その利益で住宅用火災警報器を購入することにした。 - 2. 設置困難な高齢者宅に消防団員が無料設置
「住宅用火災警報器は、比較的高い位置に設置するため、高齢者には設置が困難」で、また、業者に依頼しても費用がかかるため、思うように住宅用火災警報器の設置を促進できるかが課題になっていた。
そのため、電気工事業や大工等を生業としている消防団員が、職業上の特技を活かし、高齢者宅に無料設置することとした。
更に、設置する際、住宅防火診断等も行い安全で安心して暮らせるまちづくりに努めている。- <成果>
設置した一人暮らしの高齢者宅では、「これがあれば、心強い」、「これで、安心して寝ることが出来る」と感謝された。
また、活動を聞きつけたテレビや新聞などのメディアも取材にきた。 - <今後の展開>
平成21年度は、44器を購入し無料設置した。今後は、プルタブの回収、換金率にも影響する中、需要数を勘案しながら、毎年50器程度を購入し、計画的に設置していきたいと考えている。
- <成果>
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 野村 歡(国際医療福祉大学大学院教授))
国指定重要無形民族文化財「戸畑祇園大山笠」の指定を受けている北九州市戸畑区は、旧くから日本でも有数の工場地帯として発展し、現在でも約半分が工場用地である。と同時に、現在は政令都市の中で最も高い高齢化率25.9%で、かつ管内に木造住宅密集地を抱えている特徴ある地域である。しかし、この地域に根付く戸畑消防団は団員充足率が100%(140名)という実績を長く維持している消防団活動が盛んな地域として知られる。
消防団本部に所属している女性消防団員(20名)は、地域の特性を鑑み、日頃から熱心に火災予防活動に従事している。活動の中心になっているのが全国初の動く、光る「パネルシアターによる防火劇」と「プルタブ回収による住宅火災警報器購入及びボランティアによる無料設置」である。
「パネルシアター防火劇」は、内容を総務省消防庁が推進している「住宅用火災警報器の設置促進」、「若年層の防火・防災教育の推進」、「AEDの普及促進」をテーマに若年層向けと高齢者層向けに分けて演出している。暗い部屋に黒布を貼った大きなパネルの前で、蛍光塗料を塗った関節などが動くようにした人形等に様々な光を照らして「動かす!光る!大型現代紙芝居」として観る人の気持ちを引きつけ、併せて団員自身が衣装を身にまとい寸劇を演じるなどして内容を理解しやすいように随所で工夫している。たとえば、床面でAED操作を寸劇で実演しても見えにくいことから、その動作を黒布の上にイラストを貼り付け理解しやすく工夫したり、サイレン音、風の音、住警器音を録音して臨場感を高めるなど随所に工夫が観られるところが素晴らしい。さらに、台本では良い例・悪い例を含めるなど女性団人全員でどうしたら分かりやすくなるかを考え、劇中での発声も専門の先生からレッスンを受けるなど細部に至るまでかなりの工夫を凝らしている。
「プルタブ回収による住宅用火災警報器設置」は、平成14年度から市民の協力を得て回収したプルタブを換金して車いすを寄贈する活動をしていたが、平成18年度から住宅用火災警報器等にも拡げ、これまで114個を社会福祉協議会に寄贈してきた。これを受けて社会福祉協議会はこれを本当に必要としている設置対象高齢者を決定し、消防団員がこれを無償で設置している。なお、プルタブ回収で、これ以外にも防災ハンドマイク、ラジオ付き懐中電灯、防災ヘルメットレスキューセットなどを多数寄贈し、地域住民に非常に喜ばれている。なお、女性団員は全員が2級ホームヘルパー資格を所持。
団体概要
北九州市戸畑消防団
北九州市の戸畑区を管轄区域とする消防団
魅力ある消防団運営に努め、団員充足率は常に100%を継続している。
- 構成人員
-
消防団員数 :140名〔充足率:100%〕
〔女性消防団員20名を含む〕分団数 :1本部5分団
実施期間
平成13年3月~