第15回防災まちづくり大賞(平成22年度)

【消防庁長官賞】受け継ぐ拍子木~地域ぐるみの防災活動~

消防庁長官賞(住宅防火部門)
受け継ぐ拍子木 ~地域ぐるみの防災活動~

h22-054-map

宿根木自治会(新潟県佐渡市)

事例の概要

■経緯

 宿根木地区は、平成3年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、歴史的街並みと自然環境の保存に取り組んでいると同時に古くから地域ぐるみの防災活動が積極的に行われている。1671年(江戸時代・寛文11年)に宿根木集落(戸数約70軒)は僅か2軒を残し、全ての建物が焼失する大火が発生した。この火災を契機に集落内の夜警が始まり、午後10時、深夜0時、深夜2時の1日3回行われてきた。その後、平成に入り防災設備の整備が進み、1日3回行ってきた夜警は午後10時の1回となったが、今も年間を通し毎日交替で拍子木を打ちながら夜警を実施している。また、夜警という伝統的な防火対策に加え、木造の密集家屋に対する防火体制の強化を図るため、防災設備の整備や防災訓練を積極的に実施している。

■内容

  • 1. 1軒毎の輪番制で毎日午後10時に拍子木を打ち、集落内の夜警を年間を通じて実施している。古くから実施している地域ぐるみの防災活動と自分たちの手で地域を守る精神を次の世代へ伝承している。江戸時代の大火から類焼火災は記録が無く、昭和60年に発生した部分焼けの建物火災を最後に火災は起きていない。
  • 2. 狭隘地に伝統的木造家屋が密集しているため、防災設備の整備、充実に努めている。要所に防火水槽、水道直結2号消火栓及び65mm消火栓を配置しているほか屋外サイレンと連動した火災通報装置も要所に設置し、早期に火災発生を消防署と集落内に周知する方策を講じている。また、防火水槽等の標識には茶色が使用されており、伝統的建造物との調和を図っている。
  • 3. 車両の進入できない集落内には、防火水槽に接続されている小型動力ポンプが設置されており、集落の自衛消防隊により初期消火活動を目的に運用されている。
  • 4. 毎年、消防団、消防署と連携協力した文化財防火デーに伴う訓練及び防災会議を実施し、防災意識の高揚に努めている。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

自衛消防隊の小型動力消防ポンプ

h22-054-02

文化財防火デー訓練

h22-054-03

文化財防火デー訓練

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

火災通報装置と2号消火栓

h22-054-05

夜警中の様子

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

宿根木街並み

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

防火水槽

苦労した点

  • 1. 夜警は輪番制とは言え、高齢者世帯は免除しており、過疎化、高齢化が進む中で実施者の負担が大きくなっている。
     かつては子ども会による夜回りも実施していたが、子供の減少により現在は実施していない。
  • 2. 自衛消防隊は、初期消火が行えるよう普段集落にいる人を中心に約20名で組織しているが、隊員の高齢化が進んでいる。若い世代の絶対数の減少と地区外の職場に勤めている人が多いため、高齢者への負担が大きい。

特徴

  • 1. 大火災を教訓として始まった夜警は、江戸時代から連綿と続く地域ぐるみの防災意識の高さを示しており、今後も後世に伝えるべき活動である。
  • 2. 重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けたことから防災用設備等の充実が図られたこと及び文化財防火デーに伴う訓練等への取り組みが積極的に実施されるようになり、一層地域での防災活動への取り組みが活発になった。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 坂野 恵三((財)消防科学総合センター常務理事))

 佐渡市宿根木地区は、かつて千石船で栄えた町で、西廻り航路の寄港地の小木港に近く、千石船の船主や船大工が住み、佐渡の富の3分の1が宿根木にあるといわれるほど栄えたところであり、また、「日本海」という名前を付けたのは、宿根木出身の天文地理学者の柴田収蔵である。そんな宿根木地区も過疎化、高齢化が進んでいる。
 夜警は、宿根木地区では、「夜番」と呼ばれており、19戸が持ち回りで、1年を通して、毎日、夜番を行っている。雪の日も嵐の日も、絶えることなく、夜番が行われており、20年ほど前までは、1日に3回の夜番が行われていた。宿根木地区は、重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、1ヘクタールの土地に110棟の建造物がひしめく高密度の集落であり、密集した谷間に、有効に土地を利用するために、三角家も建てられていて、建物が隙間を空けずに立ち並んでおり、もし、火事になってしまうと延焼の恐れが高い。火事に対する備えはこのような特色から生まれたものであり、宿根木地区では、常備消防である佐渡市消防本部、非常備消防である佐渡市消防団の活動のほかに、初期消火のための自衛消火隊が組織されており、防災設備の整備や、防災訓練にも熱心に取り組んでいる。
 宿根木地区には、地域振興の活動を行っている宿根木を愛する会があり、また、宿根木のシンボルともいえる千石船を再現するための取り組みも行われ、長い年月を経て実現し、現在、佐渡国小木民俗博物館に白山丸と名付けられて展示されている。また、瀬戸内海尾道から運ばれた御影石でできた石橋なども、往時の隆盛をしのばせる。上流にダムができて水害は減っているが、これまで水害に悩まされてきた。
 日本全国で、過疎化、高齢化に悩む地域は多いが、宿根木地区では、防火や地域振興の取り組みなどが一体となって行われており、高齢化が進み、厳しい環境の中で、地域を愛し、地域を活性化していくための熱心なまちづくりが行われている。

団体概要

宿根木集落

構成人員
地区住民63名(全戸、全住民で組織)

実施期間

 寛文11年~