第07回防災まちづくり大賞(平成14年度)

【消防庁長官賞】「災害助け合いネットワークづくり」の推進で地域ぐるみの防災対策

【消防庁長官賞】「災害助け合いネットワークづくり」の推進で地域ぐるみの防災対策

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若林町会(東京都世田谷区)

事例の概要

■経緯

 若林地区は世帯数が多く、狭あい道路や行き止まり道路が多い上、中央を南北に環状7号線が、東西に世田谷線(電車)が走り地域を4つに分断しており、災害に対して地域が一体となって立ち向かう態勢づくりが難しい地域である。
 こうした中にあって、若林町会防災部は「自らの安全は自ら守る」自助の考えと、「自分たちのまちは自分たちで守る」共助の考えに立ち、地域の連帯意識を高め、心のふれあう住みよいまちづくりをめざし、昭和63年4月に活動を始めた。
 阪神・淡路大震災では、災害時の救出・救護や安否確認、高齢者や障害者等の避難誘導などで隣人同士の助け合いは不可欠であり、家族から向こう三軒両隣まで助け合いの輪を広げていくことがいかに大切かを再認識させられた。
 そのため、近年では、家族や隣近所相互の協力態勢を整え、いざという時に近所同士による助け合いのしくみを確立する「災害助け合いネットワークづくり」を推進している。
 日ごろから防災訓練、防災教室などを通して、防災行動力を向上させることはもとより、地域住民同士のコミュニケーションを深め、災害時には地域ぐるみで立ち向かえる態勢をめざし、以下の取組みを実践している。

■内容

  • 1.地域の実態把握と行政への提言(平成8年から継続)
     防災タウンウォッチング、防災アンケートなどを行い、防災地図の作成、防災上の問題点、課題、解決策を「防災まちづくりのための提言」として小冊子にまとめ、住民へ周知するとともに行政へ提言している。
  • 2.防災ボランティアの育成(平成10年から強化して継続)
     区民消火隊を「防災ボランティア」と位置付け、消防署、消防団等の関係機関との連携を図っている。また、ポンプ操法、上級救命講習など各種防災訓練を行い、年2回防災の専門家を招き防災研修会を行っている。
  • 3.防災教室(平成11年から継続)
     丁目ごとの防災ネットワーク(区民防災組織)が、それぞれの問題点や課題など地域性を考慮して、街かど防災教室等を行っている。人と人のふれあいを大切にして隣近所のコミュニケーションを図り、災害時、お互いに助け合うことのできる態勢を整えている。
  • 4.防災フェア(平成12年から継続)
     防災ネットワークが自主的に行う防災教室、防災ボランティア活動等の集大成として年1回防災フェアを行っている。第1回(平成12年度)は既成概念的な防災訓練から脱皮して「コミュニケーシヨン」をテーマとし、第2回(平成13年度)は「子供の目の高さで防災を考える」をテーマに企画実践した。第3回(平成14年度)は広域避難場所である国士舘大学一帯で「体験」をテーマに実践的な総合防災訓練を行った。

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街かど防災教室

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防災タウンウォッチング

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負傷者搬送訓練

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消火器訓練

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三角巾取扱訓練

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応急救護訓練

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仮設トイレの設置

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煙中訓練

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スケットイレ展示

苦労した点

  • 1.防災フェアは、場所を変え、テーマを変え、関係機関と協力して実施した。各種訓練、行事等の集大成として身につけた防災行動力と住民間の連帯意識を発揮し「災害助け合いネットワーク」の大切さを参加者に意識させている。
  • 2.若林地区は行き止まり道路、狭あい道路、消防水利、木造密集地域、避難路など問題が山積みである。被害にあってから街をつくり直すのではなく、住みながら住みよいまちづくりを進めるため、視点を変えて自分たちのまちを点検し、防災マップ等を作成して実情を十分把握した。
  • 3.防災は人とのふれあいが基盤と考え、資源リサイクル、健康づくり、青少年の健全育成など地域の問題を解決していく場としてのコミュニティづくりを進めていき、ふれあいを軸にまちの防災に取組んでいる。

特徴

  • 1.「災害助け合いネットワークづくり」の推進は、若林町会からのお知らせとしてホームページにも載せ、町会未加入者も取り込み、地域住民すべての協力体制を目指している。
  • 2.4,600世帯と大所帯の町会であるが、消防署、消防団、学校等の各関係機関との連携協力を図り、各種防災訓練を実施し、丁目ごとの防災ネットワークで住民同士のコミュニケーションを深め、地域ぐるみの防災行動力を向上させている。
  • 3.防災部員の女性5名はすべて消防団員であり、消防ポンプ操法訓練、応急救護訓練等の技術面の指導は大きな成果をあげている。また、女性44名が防災ボランティア(区民消火隊)で精力的に活躍しており、女性はもとより多くの人が防災訓練等の各種行事に参加しやすい雰囲気がある。
  • 4.毎年30名以上の町会員が上級救命講習を受講し、応急救護、救命措置等の知識、技術を身につけ、防災ボランティアに登録し防災リーダーとして地域に根ざした活動をしている。災害発生時はもとより、避難所等においても応急救護等の活動など避難所運営に役立ち大きな力となるものである。

委員のコメント (防災まちづくり大賞選定委員 中林一樹(東京都立大学大学院都市科学研究科教授))

 世田谷区若林地区は、東京の山手ではあるが稲荷神社や八幡神社、松陰神社などが所在する歴史のある地区でもある。狭隘な街路も多い密集市街地で、消防車が入りにくい街区も多い。そのため、世田谷区が30年前に取り組みを始めた防災まちづくりをきっかけに町会に防災部を設置し、地域での防災の取り組みが始まった。阪神・淡路大震災を契機に、世田谷区長期計画の見直しに合わせて、我が町の防災点検(タウンウォッチングと防災アンケート)から、「防災まちづくりのための提言」(平成9年、11年、14年)によって、街づくりへの具体的な提言をとおして都市整備としての街づくりへの取り組みを進めるとともに、「若林防災フェア」(平成12年、13年、14年)を、世田谷消防署の指導のもとに、消防団と連携し、地域での自主的な企画による地域ぐるみの防災訓練や防災意識の高揚活動を継続している。若林1~5丁目で構成される町会には、各丁目ごとに区民消火隊(婦人消火隊)を設置し、さらに家族や隣近所の助け合いのための救援体制の整備につとめ「災害助け合いネットワークづくり」を推進している。こうした地域ぐるみの、ハードとソフトにわたる防災まちづくりは、大都市密集市街地での防災まちづくり活動のひとつのモデルとして、高く評価できる。

団体概要

 若林町会(若林1丁目から5丁目)世帯数:4,600世帯

実施期間

 平成8年~