【消防科学総合センター理事長賞】防火管理者協会活動-地域防災は職場から-
八戸地域広域防火管理者協会(青森県八戸市)
事例の概要
■経緯
八戸市は、古くからわが国有数の漁業基地として知られていたが、昭和39年の新産業都市指定を契機に臨海工業都市としても成長し、全国屈指の水産都市、東北地方有数の港湾都市・工業都市として発展してきた。一方では「昨日と明日が同居する街」と形容されたように、都市機能の整備の遅れは密集地の中に職と住が混在するという防災上の問題を抱えることとなった。
当時の八戸は、年間150件(現在は80件前後で推移している)を超える火災が発生しており、特に不審火による学校火災が多いのが特徴的であった。また、昭和36年に防火管理制度が消防法に規定され、防火管理者の養成が急がれた。こうした背景のもと、各事業所及び学校関係者が集まり検討した結果、火災を減少させ職場や街を守るためには、防火管理者を置く事業所等が相互に連携を図って防火思想の普及を図る必要があるとの認識に至った。こうして1年間の準備期間を経て、昭和42年、東北では仙台市についで2番目となる八戸市防火管理者協会が設立された(協会発足当時会員事業所209)。その後、八戸市を中心とする「広域消防」発足にあわせて、昭和47年「八戸地域広域防火管理者協会」に名称を改めている。
■内容
当協会は、設立当初から事業所のみならず町内会や個人にも入会を呼び掛けてきた。協会があえて職域を超えて住民に共鳴を求めたのは、八戸地域が「職住混在」という環境にあるため、地域の安全なくして企業の安全は有り得ないと考えたからである。この目的を実現するため「地域防災は職場から」をスローガンに活動を続けている。 主な活動については、以下のとおりである。
- 1.防火管理者としての資質の向上及び相互の連携のための活動
- (1) 上級防火管理講習の受講
消防用設備の点検整備の方法や最新の通達など、資格取得後に必要な知識・技術を学んでおり、例年200名余りが受講している。 - (2) 会報(八戸防管だより)の発行
毎年2回の会報発行によって、最新の消防情報を提供し、防火管理の知識や技術の向上及び会員相互の情報交換を行っている。 - (3) 教養及び研修
防火管理業務について、先進地の視察・救急講習・消防用設備等の取扱訓練等を毎年実施している。訓練については、マンネリ化を防ぐため競技会形式をとり、楽しみながら操作方法を習熟してもらえるようにしている。 - (4) 防火意見発表会の開催
毎年1回の定時総会時に、会員・消防職員及び婦人消防クラブ員の方にそれぞれの立場における防火防災に関する体験や意見を発表していただき、防火意識の高揚を図っている(平成14年で19回目)。
- (1) 上級防火管理講習の受講
- 2.地域の防火思想の啓発に関する活動
- (1) 防火大会の開催
昭和43年10月の「火災を無くそう市民大会」をはじめ、これまで八戸市内や各町村で数多く開催している。 - (2) 無火災地区の表彰
平成9年から実施しており、連合町内会を単位として1年間火災が発生しなかった地区を表彰し、町内単位での火災予防思想の普及啓発を奨励している。 - (3) 住宅用防災機器の寄贈
住宅用の自動消火装置を自力避難困難者のいる家庭に寄贈することにより、住宅火災による死傷者を無くすことを目的に実施している。平成9年から10年間で400世帯に寄贈を予定しており、平成14年現在で160世帯に設置している。 - (4) 各消防クラブヘの助成
- (1) 防火大会の開催
- 3.その他
枚方市寝屋川市防火協会連絡協議会と昭和60年に姉妹協定を締結し、それ以来、相互に訪間するなど、友好と協会活動の向上を図っている。
八戸防管だより
消火器使用法訓練装置の寄贈
上級防火管理講習会
防災フェスタ2002(オープニング)~協会主催の事業~
防災フェスタ2002(ミニポンプ操法)~協会主催の事業~
防火意見発表会
住宅用防災機器の寄贈
住宅用防災機器の寄贈
住宅用防災機器の寄贈
苦労した点
当初、会員の中には、「市民の防火思想を高めようという趣旨には賛同するが、それは協会の活動ではなく行政が行うべきことではないか」という声があり、なかなか活動方針が定まらずに説得するのに多少の時問を費やした。
特徴
職場の防火管理に止まらず、市民にも呼び掛けて「地域の防火意識」を高めるという活動方針を一貫して継続している。
昭和40年代から50年代にかけては、保育園・小中学校・町内会等に各種消防クラブの結成を働きかけ、住民各層からなる防災組織づくりを進めた。結成後は、制服の寄贈をはじめ各々の活動に助成している。また、近年は住宅火災による災害弱者の死傷者が多くなっていることから、住宅用防災機器の寄贈活動を始めるなど、その時代時代のニーズをとらえたタイムリーでかつ、防災上有効な活動を行っている。
委員のコメント (防災まちづくり大賞選定委員 務台俊介(総務省消防庁防災課長))
防火管理者協会という事業所の防火管理者の関係団体が地域の防災活動をしていると聞いて、何をしているのかなあと、不思議に思って八戸に出かけて、びっくりした。防火管理者の知識の向上といった本来業務に加え、住民の防火意見発表会、無火災地区の表彰事業、2000人の参加者を集める感動的な防災フェスタの開催、災害弱者支援事業としての住宅用防災器具の寄贈、幼年、少年、婦人消防クラブ等の活動支援、内容豊富な会報の発行といった幅広い事業を行っている。一言でいえば、八戸地域の地域防災の守護神となっているかのような位置づけである。協会の歌まであり、「地域を護る使命は高い、ここに応えて結成し力、我ら広域防火管理者協会」と志気は高い。
八甲田を越えてくる強風は乾燥し、昔から一度火災が発生すると大火となって市域を舐め尽くした災害の記憶が市民に焼き付いている。そうしたこともあり、防災意識は極めて高く、協会の活動は幅広い市民の支持を受けている。協会も、「職場の防火は、地域の防火により全うされる」という思想を高く掲げ、協会の行動の意義を哲学的に昇華させている。
「この協会活動は官民が非常にうまく協調した模範例です」と協会長の神山公佑八戸プラザホテル代表取締役は胸を張った。しかし、うまくいかせるために仕組みも工夫されている。協会の複数の部会に分かち、業種を大括りにまとめている。このことが、部会の会合が業界の悩みや情報を交換できる機会ともなっている。OBになっても、防火管理者協会の活動が楽しく、抜けないで会員となっている人も多いという。会費は、原則年間一万円と決して安いとは言えないが、それ以上に参加者は得るものが多いということのようである。町村役場も会員であり、総務課長がきちんと会費を払って出ている。
「防火」「防災」をキーワードに、業種を超えて地域社会活動、防災まちづくり事業が協会を軸に行われている、というのが実態である。神山会長がふと漏らした。「私も事業をやっていますが、事業をやる場合、商売のことだけを考えてもうまくはいかないのです。地域社会に尽くしていれば、結果として自らの事業もよくなるのです」と。情けは人のためならず、を皆が感じて取り組んでいる助け合いの精神がほとばしり出る地に足のついた防災まちづくりだと感じた次第である。
団体概要
八戸市・三戸郡10町村・上北郡2町の行政区域内の学校・病院・旅館・ホテル、その他の事業所、町内会・個人会員で構成され、平成14年現在で886事業所が加入。
実施期間
昭和42年~