【消防科学総合センター理事長賞】文化財(大内宿)を守る自主防災活動
下郷町大内宿防災会(福島県)
事例の概要
「大内宿」は、寄棟造りの茅葺屋根として、昭和56年4月、国重要伝統的建造物群保有地区として選定を受けて以来これまで保存整備に努めている。しかし、伝統的材料工法と家屋の密集により、最も火災の危険性が高い地区である。この伝統的建造物を火災から守るために、平成3年度から国庫及び県費の補助で、各戸に自動火災報知設備、屋内2号消火栓、放水銃等が整備され、平成6年3月に工事が完了している。
これらハード面の防災施設の整備とともに本格的に防災に取り組む組織として、平成5年4月1日に「下郷町大内宿防災会」が発足し、単体では消防団、婦人消防隊、大内宿火消組(大内地区消防団OBで組織)、それに江川小学校大内分校少年消防クラブが加わり、それぞれ特有の活動を展開し、平成10年度にようやく幾多の苦労が結集し、自主防災組織として充実した組織活動を確立した。
消防団は、火防検査(予防査察)と毎日の放送広報による予防活動のほか実戦訓練等を実施し、婦人消防隊は消防団との同一歩調での活動を行っている。また、大内宿火消組は、日中の消防団員不足解消、団員との交歓、それに古式腕用ポンプ使用の放水による広報等を実施し、現行の消防団に負けない士気と意欲で活動を行っている。
少年消防クラブは、春休みと夏休みに、拍子木をたたきながら一晩に2回の夜回りをするほか、花火をする日を年1回8月15日と定めて固く守る等、子供としての役割を担っている。このクラブの活躍は平成10年度の財団法人日本防火協会主催のクラブ活動体験の作文コンクールに「火の用心を通して」と題して応募し、最高位の優秀賞を受賞している。
大内宿防災会は各隊単体として独自の活躍のほか、全世帯全員による春・秋季の年2回各設備の取扱説明会や防火講習と救急講習の企画で消防署の協力を得るほか、文化財防火デーでは放水銃の一斉放水等、防災会の重要な活動として観光客はじめ地区民から賞讃と絶大な信頼を得ている。
このように、町の一行政区が国の文化財を火災から守るため、伝統的に引き継がれた相互扶助の精神から「下郷町大内宿防災会」を発足させ、全世帯が会員として加入し活動している。その他、各隊が特徴ある活動をして予防活動及び有事の際の消火体制を確立するとともに、一部補助を受けながらも独自の防災予算を確保し、積極的に文化財保護のため絶えず研鑽し改善を図っている。
大内宿の放水銃
古式腕用ポンプによる放水訓練
消火訓練
放水銃の点検
火防検査
夜回り
大内宿消防駐屯所
「消火栓」標識板
苦労・成功のポイント
火災に弱く、大火になる可能性が大きい伝統的な木造建築を守ることは、地域ぐるみの設備の充実と相まって住民の防火活動への参加と意識の高揚が最も重要となる。
火災に対する警戒心の向上、観光客等の来訪者が多い中での防火のあり方、日中の消防団員の不在等が問題とされる中、大内宿では住民が総力をあげて取り組むことが不可欠で、その事無くして文化財防火は成立しない状況であった。この状況の中で、住民が防災設備の設置と並行して、下郷町大内宿防災会を組織し活動を実施した。これにより、住民の理解と文化財を守る意識に変化が生じ、さらに各隊が励まし合い激励しあってきたことが団結力を強め成功した所以と言える。
成果・展望
防災設備の整備と下郷町大内宿防災会の活動により、ここに大内宿の防災体制が確立され、その成果は自他ともに認めるところである。
今後は、特に重要な防火対策の基本となる防火意識の一層の向上を図り、全世帯全員が今後更に火気取り扱いに十分注意するほか、観光客の喫煙等警戒心を更に強化する必要がある。特に観光客対策として、次の防災事業は古風な立て看板で注意を呼びかける等更に改善意欲は旺盛である。
大内宿防災会は「江戸時代のそのままの景観を目標とし、それには全戸を茅屋根に復元し、しいては世界文化遺産の指定を目指します。」と夢を膨らませながら新たな展望を持っている。
実施期間
平成5年~平成10年継続中
事業費
-
平成9年度事業費
- 974千円
(自動火災報知設備の避雷針設置事業)
- 974千円
-
補助金
- 国 569千円
- 福島県 60千円
- 下郷町 247千円
- 大内宿防災会 98千円
- 平成10年度事業費 5,243千円
(各戸に自動火災報知設備の赤色回転灯、非常ベルの設置) - 補助金
- 国 3,067千円
- 福島県 330千円
- 下郷町 1,322千円
- 大内宿防災会 524千円
団体概要
大内宿防災会:全世帯会員50名(大内区50世帯、人口218名)
消防団員20名
婦人消防隊員20名
大内宿火消組員22名
少年消防クラブ員16名