【消防科学総合センター理事長賞】大津を災害に強いまちにしたい~災害につよいまちづくりプロジェクト~
高知市立大津小学校(高知県高知市)
事例の概要
■経緯
高知市は、平成10年9月24日から25日にかけて秋雨前線の停滞に伴う集中豪雨により大規模な被害を受けた。この集中豪雨では、24日の1日の降水量628.5mm、24日5時から25日5時までの24時間降水量は861mm、24日21時20分から22時20分までの1時間最大雨量は129.5mmなどいずれも高知地方気象台の観測史上最大値を記録し、高知市内で約2万世帯の床上・床下浸水が生じた。大津小学校校区内では、4,164世帯のうち2,594世帯が床上浸水し、168世帯に床下浸水の被害が発生した。また、大津小学校では、校舎・屋内運動場とも床上150cmの浸水に見舞われ、ライフラインの復旧も含めて10月1日まで臨時休校となった。
その時の経験をもとに大津小学校では、平成13年9月より総合的な学習の時間を活用し、本格的に「災害に強いまちづくりプロジェクト」の活動を行っている。
■内容
- 1.事前準備
災害に対する意識付けを行うため、日本赤十字社及び高知市防災対策室から防災やボランティアについての全体的な話を聞いた。また、夏休みに地域や防災関係機関を訪問し、災害に対するインタビューや調べ学習をすることを課題として与えた。 - 2.チーム分け・テーマ決め
子供たちから出てきたキーワードをボードに記入し、自分たちが取り組みたいテーマに従いチーム分けを行った。その結果、16のプロジェクトチームがそれぞれの「テーマ」を決め、「ゴール」を設定し学習を開始した。 - 3.計画の立案
各テーマに対しての大きな計画の流れ・計画表作成・役割分担・各防災機関への情報収集のためのアポイント・アンケートなど、活動の計画・準備を行った。 - 4.防災関係機関・地元等での情報収集・調査・体験
高知地方気象台・日本赤十字社・高知大学・高知市防災対策室等で防災に関する専門的な知識や情報の調査収集を実施した。また、地域の人の体験談や危険場所のチェック等も実施した。 - 5.防災パンフレットの制作
防災関係機関等での情報収集・調査・体験を付箋に書き出し、情報を整理してまとめた。それを凝縮したものを再構築し、防災パンフレットを制作した。 - 6.自主防災組織との合同防災訓練、最終プレゼンテーション
大津地区で平成13年度新たに結成された自主防災組織4組織と合同で防災訓練を実施した。また、各班別に学習内容等を発表した。
パンフレット表紙
パンフレット内容例(地震)
パンフレット内容例(水害)
キーワードを書き、テーマを決める
高知市職員の講演
起震車の体験
ボランティアの参加
情報リサーチ(高知市)
プレゼンテーション
苦労した点
「平成10年9月集中豪雨」を体験した子供たちの水害への恐怖心は3年経ってもなお深く残っていた。子供たちは雨への恐怖心を乗り越え、「大津のまち」があらゆる災害に対して強くなるための「災害につよいまちづくりプロジェクト」をスタートさせた。しかし、どのような形で地域の人たちに自分たちの活動・提言を伝えるのかという点でずいぶん試行錯誤してきた。
地域での調査では、急傾斜地崩壊危険区域近くに住んでいる方へのインタビューの仕方が相手の立場にたっていなかった。これを反省し、その経験を生かして、その後の調査や提言については、地域のあらゆる人達に嫌な思いをさせない気配りや興味を持って見てもらえるような工夫をした。また、パンフレットのキャラクターは皆に親しまれるよう名前や姿など子供たちで考えた。
特徴
- 1.地域・社会のニーズにあったテーマ
「平成10年9月集中豪雨」の体験、そして平成13年9月に政府から「30年以内に40%の確率でマグニチュード8.4程度の巨大地震『南海地震』が発生する」という公式見解が出されたことで、子供たちが「大津を災害に強いまちにしたい」という気持ちがより強くなり、「災害に強いまちづくりプロジェクト」へのやる気を高めた。 - 2.専門機関・専門家との連携、防災のプロの方々の協力
高知市防災対策室・日本赤十字社高知県支部・高知大学・高知地方気象台・高知市消防局・森林総合センター・高知新聞社・地域の歴史研究家など多くの専門家の協力で、「○○ごっこ」ではなく、社会に役立つ本物の提言がパンフレットを通じてできた。 - 3.ポートフォリオを凝縮して作成したパンフレット(成果物)の価値付け
保護者・専門家・知事等にパンフレットについての評価をしてもらったことで、子供たちは社会に役立つことをやり遂げたという自信をつけることができた。
委員のコメント (防災まちづくり大賞選定委員 福嶋 司(東京農工大学農学部教授))
高知市立大津小学校の取り組みは、洪水災害に遭った経験を大切に生かして「生きた防災意識の高揚」に向けて、教員と児童が活発な防災活動を行った成果である。具体的には6年生の総合学習の時間に「災害に強いまちづくりプロジェクト」を組織し、授業の中で計画的に災害や防災について学ぶためのプログラムを設定している。そして、専門家の話を聞き、被災者に直接インタビユーして得た多くの情報を児童自身が主体的に整理し、最終的に手作りの報告書「大津を災害に強いまちにしたい」に結晶させている。さらにその成果をわかりやすい印刷物に作成し、児童の全家庭、地域防災組織に配布することで、防災の情報を社会に向けて発信している。この成果は児童自身を含めて社会の防災意識を高揚させたものとして高く評価されるが、そればかりでなく、身近な地域で防災を児童自身に考えさせ、行動させるという新たな切り口を総合学習の中に提示したものとしても高く評価される。児童の自主性を重んじたこの取り組みは、今後、他校へも広がり、さらなる発展の可能性を秘めた大切な試みであると信じる。
団体概要
大津地区世帯数:4,407世帯
大津地区人口:10,917人
高知市立大津小学校全校生徒:716人
(以上、平成14年5月1日現在)
実施期間
平成13年~