【消防科学総合センター理事長賞】町内会の枠を越えた地域ぐるみの防災対策
澄川地区連合会 (北海道札幌市)
事例の概要
■経緯
南北に長い地形の澄川地区は、東は急勾配の傾斜地やがけ地を有する丘陵地、西は地下鉄高架が縦断し、老朽建物や高層建物が密集する繁華街を有する平坦部で、いずれも生活道路は狭隘かつ複雑、さらには様々な地質が混ざり合うという、震災に対しては根本的に劣悪な環境である。加えて、近年における著しい高齢者の増加と相まって、大規模地震発生時には甚大な被害が懸念されることから、自主防災組織の必要性を痛感した大石昇司澄川地区連合会長は、地区連合会内の13の町内会に自主防災組織の結成を呼び掛けるとともに、地区連合会防災対策本部を設置し、平成10年4月に全町内会において自主防災組織の結成を完了した。同年9月には地域主導型で連合会が主催する総合防災訓練を実施した。それ以来、地区連合会組織が中心となって関係機関との調整その他防災に関する企画・立案を行い、地域ぐるみで様々な防災活動を積極的に展開している。
■内容
- 1.地区連合会防災対策本部の設置及び地区自主防災計画の策定
町内会単位の自主防災組織の相互連携を目的に、「澄川地区連合会防災対策本部」を設置することとし、平成10年1月に「澄川地区自主防災計画」を策定した。また、すみかわ地区センター内に、本部用の防災用無線機を設置するとともに、札幌市防災行政無線機を併置した。 - 2.災害への備え
- (1)各種団体等の任務分担指定
澄川地区は、町内会組織のほかに民生児童委員や青少年育成委員など、多数の関連団体と一体化した組織形態をとっており、構成メンバーに相応しい任務分担を指定している。また、一人暮らしや寝たきりのお年寄りには、災害発生時のみ民生委員から情報を収集し、効率的に災害対応できる体制を整えている。 - (2)住民の資格登録
重機の運転や医師など、大規模災害発生時において救出・救命に役立つ資格を有している住民を定期的に資格登録し、適切な災害対応が可能な体制を整えている。 - (3)防災資機材の整備
平成10年に、地区連合会防災対策本部及び各町内会で防災用無線機(18台)を自主的に配置した。さらに、住民の避難場所となる三つの小学校敷地内に防災倉庫を設置し、防災資機材を3セットずつ整備している。 - (4)小学校児童の安全確保
学校区ごとに校区内町内会、学校、PTA、警察署、消防署などで構成する「防災等連絡会議」を設置し、災害発生時における児童の安否確認や在校時の児童の保護者への引渡方法などを協議している。 - (5)生活用水及び医療用水の確保
平成10年に、医療機関の医師と協議し、地区内にある災害応急用協力井戸から生活用水及び医療用水を確保する体制を整えている。 - (6)がけ地その他のパトロール
地区内の危険ながけ地11箇所について、4~6月と10~11月の時期と、一定量以上の降雨時に随時パトロールし、異常を発見した時には速やかに関係機関に連絡する体制を整えている。また、歳末期や大規模イベント時は定期的にパトロールしている。 - (7)防災資機材取扱い訓練の実施
防災用無線機の操作訓練(毎月1回)をはじめ、可搬式消防ポンプやエンジンカッター、チェンソーなどの防災資機材の取扱い訓練を定期的に実施している。 - (8)総合防災訓練(発災対応型)の実施
主婦や中学生・高校生なども含め、毎年400人以上が参加し、避難誘導訓練、地元医師による応急手当講話、救出・救護訓練、初期消火訓練、放水訓練などを実施している。 - (9)冬期間における避難場所運営・管理訓練の実施
厳寒期における大規模災害を想定し、1月に地区内の収容避難場所において、避難訓練、避難場所の運営・管理訓練を実施している。 - (10)大規模イベント時における警戒
札幌市の一大イベント「YOSAKOIソーランまつり」の際に、ボランティアで澄川会場の運営・警戒に当たっている。 - (11)防災リーフレットの作成
避難経路やがけ地・危険箇所などを明示した「交通安全・防災リーフレット」を平成15年度に作成する。 - 3.防災意識の高揚策
- (1)将来地域を担う人材の育成
地区内の小学校・中学校が避難訓練を実施する際に連合会長が出向き、自主防災と郷土愛の大切さについて講話を行っている。 - (2)防火・防災に関する行事への参加及び研修会の実施
春・秋の火災予防運動をはじめとする各種防火・防災行事の際に、防火ちらしの配布を行うほか、防火・防災に関する研修会を随時開催している。 - (3)防火・防災まちづくりモデル事業への積極的参画
札幌市消防局が平成14年度から実施している「防火・防災まちづくりモデル事業」の対象に選定され、澄川地区内の町内会の取り組みを紹介している - (4)防災功労者の表彰
地区住民による消防協力などの防災功労があった場合、地区連合会としても感謝状を贈呈し、防災意識の高揚を図っている。
- (1)将来地域を担う人材の育成
放水訓練
バケツリレー
消防ポンプ取扱訓練
放水訓練
バケツリレー
中学生への防災講話
煙内避難体験
機材取扱訓練
救護訓練
苦労した点
防災資機材等に対して、連合町内会のレベルで短期間に多額の資金を投入することについては、一部住民から異論があった。また、小学校敷地内に防災倉庫を設置することについても、学校関係者は難色を示した。しかし、関係者を説得し、理解を得ることができた。
特徴
- 1.同時多発災害を想定して、組織は指揮命令の徹底しやすいピラミッド型とした。
- (1)最小単位はゴミステーション共同利用者グループ程度とし、単位町内会(600~1,200世帯)は50~100グループで中隊を編成する。
- (2)小学校区内の4~5町内会は相互応援のグループとし、大隊を編成する。
- (3)地区連合会は、地区内13の町内会を統括するとともに、状況に応じて警友会、隊友会などその他直轄の組織を派遣して支援を行う。また、無線機をフルに活用して情報収集、関係機関への伝達及び各種調整を行い、連隊本部としての役割を担当する。
- 2.災害発生を平日の昼間と想定すれば、活動要員は中学生・高校生と専業主婦が主力とならざるを得ない場合もある。訓練もこれを想定し、中・高生と主婦に積極的な自主参加を呼びかけている。
- 3.災害発生時に臨機応変かつ適切な現場指揮が執れる人材をできるだけ多く確保する必要があるため、常に適材の発掘と育成に努め、平時の祭など各種イベントの執行は、防災活動への転換活用を意識して行っている。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 斎藤誠治(財団法人消防科学総合センター常務理事))
全ての自主防の組織には、それが発足したきっかけがある。大きな災害があったり、市町村からの行政指導があったりするが、本会の場合は暴力団であった。札幌オリンピック後の新興開発に目をつけて、某暴力団が澄川地区に縄張りを広げようとした。これは一大事、安心して暮らせる町を守らなければならない、その為には親睦団体のような町内会を脱皮して、危機管理のできる自主防災組織をと、町内会を連合して作り上げたのである。 「自主防を作ったのはよいが、最初は熱心に活動していたのに最近はどうも…」とはよく聞く話である。その点、本会では「防災は防災訓練だけではない。日常の様々な活動こそが防災につながる」と、毎年行われるお祭り等のイベントを組織の活性化に役立たせている。つまり、イベントを組織するノウハウを普段から備えておけば、いざ災害と言う時に住民を動員して防災活動を実施することができるというわけである。 また、昨今、在宅介護を受けているお年寄りが増えているが、その方々をいざという時に迅速に救出するためには、前もって情報を得ておく必要がある。しかし、プライバシーのこともあって難しい問題であり、澄川地区のように民生委員に協力してもらうのも有効な方法であろう。 他にも、町内会を超えた小学校区毎の防災倉庫、8台の防災用無線機、医師等災害時に技能をもつ人々の(自主的な)登録など、全国の自主防を担う人々が本会に見習うことは数多くある。このような生きた自主防が全国に広まることを期待する。
団体概要
澄川地区連合会 人 口:29,289人 世帯数:14,535世帯 町内会数:13 区域面積:5.15km2 (平成15年4月1現在)
実施期間
平成9年~