第12回防災まちづくり大賞(平成19年度)

【消防科学総合センター理事長賞】「災害時における要援護者の救護対策」― 民生委員児童委員発 ―

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
「災害時における要援護者の救護対策」
― 民生委員児童委員発 ―

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浦安市西地区民生委員児童委員協議会(千葉県浦安市)

事例の概要

■経緯

 民生委員児童委員は平素、高齢者や各種障がい者・乳幼児・生活困難者など、社会的に弱い立場にいる人たちの相談・支援・見守り活動等を行なっている。
 しかし、地震等の災害発生時においては、これらの多くの人は適切な判断や行動がとれず、自らの命を守ることが困難であることから災害時要援護者と呼ばれ、過去幾多の災害で尊い命を失っている。
 特に、三方を海と川に囲まれ、4分の3が埋立地の浦安市は、地震災害には極めて脆弱な立地条件にあり、要援護者の命を守るには、事前の対策が欠かせないと判断した。
 そこで、平素から要援護者と深いかかわりをもつ者として、福祉と防災を結んだ「災害時における要援護者の救護対策」を取り組むこととした。

■内容

  • (1)22名の委員が、自然災害の中では最も過酷な地震と地震災害及び地域危険・防災対策・防災行動力等について学んだ。
  • (2)災害時要援護者のうち、対象者を一人暮らし高齢者・同障がい者に絞り、手持ち資料と聞き込みにより把握した上で、「災害時要援護カード」に記入してもらい、自主防災組織への情報提供の承諾をも取り付けた。
  • (3)14自主防災組織と話し合い、民生委員が作成した「災害時要援護カード」「災害時要援護者一覧表」「防災マップ(要援護者宅等を色分け記入)」の情報を共有し、災害発生時に活用することとした。
  • (4)浦安市長に、災害時要援護者の情報提供等の要望書を提出するとともに、行政及び福祉関係機関にも、研究・実践した資料を配布して今後の協力を求めた。
  • (5)全国一斉活動の「民生委員児童委員発災害時一人も見逃さない運動」のビデオ撮影に協力した。

■特色

  • (1)2年間の研究・実践で委員自らが、自然災害の中では短時間に被害が多発する最も過酷な地震災害と対策を学び、災害に対する認識を高めてから本題に取り組んだ。
  • (2)高齢化率10%未満の浦安市だが、災害時要援護者は約20%にも達することから、対象者を一人暮らし高齢者・同障がい者に絞ったことが、入り口の扉を開く結果となった。
  • (3)平素から、要援護者の相談や支援活動で、厚い信頼を得ている民生委員児童委員だからこそ、要援護者のカード作成や他組織への情報提供承諾が得られた。
  • (4)災害発生時、身近で最も頼れる自主防災組織とじっくり話し合いをし、民生委員と情報を共有する事前対策が、災害時の要援護者救護対策の要となった。

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定例会議のあと、三角巾や消火器などの実技も学習(平成17年11月4日)

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約1時間の学習で、三角巾の取扱いも格段と上達(平成17年11月4日)

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住宅密集地と道路狭隘の地域危険を調査(平成17年11月14日)

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学習は、100名中90名の委員が出席(平成17年9月16日)

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浦安市民児協合同研修会における防災学習(講師は民生委員)

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堀江地区6自治会と民児協との話し合い(平成18年6月17日)

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防災マップ作りの防火水槽設置場所調査(平成18年9月6日)

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舞浜三丁目自治会への情報提供説明会(平成19年1月28日)

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防災マップ作りの街頭消火器設置場所調査(平成18年9月6日)

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防災マップ作りの打ち合わせ(平成18年10月2日)

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14自治会ごとの航空地図上に、要援護者や防災設備等を色塗りして防災マップを作成している作業(平成18年11月22日)

苦労した点

  • 1.要援護者の把握は、行政の過度の個人情報保護により、調査時点における情報が得られず、3年前の高齢者実態調査資料による委員の手持ち資料と聞き込みに頼らざるを得なかった。
  • 2.平素、委員の訪問活動が少なかった要援護者については、犯罪の多い世相を反映して在宅でも応答が出来ないなど、委員が何回も訪問した例は数多く、また他組織への情報提供拒否者には、根気よく説明して承諾を得た。
  • 3.自主防災組織へ提供した情報管理について、自治会役員の過度の責任意識があり、理解を得るのに時間を要した。

特徴

  • 1.災害時の要援護者救護対策を、福祉の組織から発信・実践したことで、要援護者及び自主防災組織の全面的な協力が得られた。
  • 2.地域の民生委員と自主防災組織の情報共有により、災害発生時における要援護者の確認・救護・避難誘導等の地域共助体制が確立された。
  • 3.この取組は2年間で終らせず、平成19年度に現有情報の更新と高齢者世帯の組み入れ、同20年度に障がい者世帯への拡大へと、継続活動を申し合わせた。
  • 4.市長への要望書が、行政の要援護者救護対策への意識を変えはじめた。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 室崎 益輝(総務省消防庁消防大学校消防研究センター所長))

 高齢者や障がい者などの自力で避難することが困難な要援護者を、災害時において誰がどのようにして支援し救護するのか、が問われている。がしかし、個人情報保護の問題もあって、この災害時要援護者支援の体制づくりは多くの地域において、大きな壁にぶちあたっている。ところが,この浦安市西地区民生委員児童委員協議会の取組は、「福祉と防災の連携」という視点からの取組によって、見事にこの壁を打ち破ることに成功している。この取組の評価される点は、支援の必要な要援護者に関する情報を、民生委員が支援カードや防災マップという形でまとめあげ、その情報を自主防災組織と共有化することにより、災害発生時に確実に支援がはかれる体制を作りあげたことである。
 この成果が得られたのは、何よりも民生委員児童委員が地域に根ざした支援活動を日常的に展開していることからくる、要援護者や地域コミュニティの信頼関係によるところが大きい。要援護者は、信頼できる民生委員児童委員の依頼だということで、自主防災組織への情報提供を快く了承してくれている。それに加えて、民生委員児童委員の防災への熱い思いや使命感がある。持続的に防災学習を繰り返すなかで、日常の福祉だけでなく非常時の防災に取り組むことを、自らの課題として自覚したことが大きい。いずれにしても、この浦安市西地区の先進的な取り組みが全国に広まって、災害時要援護者問題の解決につながればと思う。

団体概要

構成人員
民生委員児童委員22名
団体概要
民生委員法に基づいて、全国の市町村に設置されている社会福祉組織で、当協議会は浦安市を5地区に分けた単位民児協の1組織である。
委員は、市町村および都道府県の推薦会によって推薦され、知事の推薦により厚生労働大臣が委嘱する。

実施期間

平成17年4月~