第12回防災まちづくり大賞(平成19年度)

【消防科学総合センター理事長賞】我らが里は『孤立無縁!』~住民による手づくりヘリポート~

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
我らが里は『孤立無縁!』
~住民による手づくりヘリポート~

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桑薮自主防災組織(高知県越知町)

事例の概要

■経緯

 桑薮地区は、越知町中心部から車で30分ほど走った中山間地域に形成される小集落である。常々、地区住民が懸念していることは、災害発生時におけるアクセス道の崩壊等による集落の孤立化である。
 孤立すれば「傷病者の搬送」や「救援物資の未到達」などの問題が数多く発生するのは目に見えており、何とかこれらの問題を解消すべく、自主防災組織隊長を筆頭に地区住民一丸となり、『自分たちで自分たちの防災拠点をつくろう!』という思い切った解決策を打ち出した。

■ヘリポート及び避難場所の整備

 地域が打ち出した解決策は、「桑薮ヘリポート」をつくるというものだった。
 しかし、最初は夢物語だ、本当に実現するのかと半信半疑の者もいたが、隊長らの地域を想う熱い気持ちに応えるべく作業に取りかかった。
 まずは、木々が生い茂る未開の地を住民はもとより、地区外の人々も快く無償奉仕で伐開、切株の撤去作業を行い、ようやく山肌が露出し、次の工程に進むことができた。
 ヘリポート及び避難場所の造成作業には、ありがたいことに重機のオペレーターとして地元の建設会社員を始め、桑薮地区に縁あるさまざまな人々が従事してくれた。
 これらの遥かなる道のりを越え、ついに越知町中心部一円を始め、太平洋をも望むことができる絶景のヘリポートが完成した。
 当然のことながら、関係者の喜びがいか程であったかは言うまでもない。
 完成した防災拠点は、ヘリポート・イベント広場を兼ねた避難場所・駐車場の3段構成となっており、主たるヘリポートの面積は約600Gで、県消防防災ヘリはもちろんのこと、自衛隊ヘリも離発着可能な広さを確保し、まさに災害時において、「孤立無縁の桑薮地区」の金看板として、以後、地区住民に大きな安心感を与えることとなった。

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県警ヘリの見学・説明会

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県警航空隊員からヘリコプターの説明を聞く住民たち

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重機によるヘリポート造成の様子

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上空から見た桑薮ヘリーポート全景

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伐採した雑木の整理風景

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伐採した木々の整理風景

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県警ヘリによる傷病者搬送訓練

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消防団によるタンカを使っての傷病者搬送訓練

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消防署員による応急タンカの講習風景

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地元婦人の協力を得ての炊出し

苦労した点

  • 1.まず、用地交渉では、組織の隊長が地権者の承諾をもらうまで、何度も防災拠点の必要性を誠心誠意説明し、ようやく用地の無償提供までこぎつけた。
  • 2.さらに工事実施にあたっては、建設業者に設計を依頼した訳でもなく、建設工事の知識を持つ者が少ない集まりの中で、みんなで知恵を出し合い設計を行った。
    途中、幾度となく、工程の見直しを余儀なくされたこともあったが、その都度その都度、頭を悩ましながら最良の工法を見出していった。
  • 3.また、金銭面において行政に頼らないというのは正直苦しかったが、自分たちの力のみで成し遂げるという意気込みと、工事に必要な資機材等は住民らの持ち寄りで対処した。この間、地区住民は個々の生業すら投げ出し、一心にヘリポートの完成を夢見てがんばった。

特徴

  • 1.全国的にも類を見ないケースであり、行政に頼らず、自主防災組織(地区住民)の力のみでヘリポート及び避難場所、駐車場を完成させた。
    建設用地は無償提供。また、本来であれば、数千万円規模となるはずの造成費用も、自主防災組織員らの完全無償奉仕により「ゼロ」である。
    唯一、町が補助したものは、重機の借上げ料と燃料代のみでわずか数十万円程度である。
  • 2.組織自体が熱心に防災活動に取り組んでおり、防災訓練や防災学習会を定期的に実施しており、その甲斐あって非常に高い防災能力を有する組織に変貌を遂げた。
    また、平成19年5月には、柿落としとして完成したての桑薮ヘリポートで、「土砂災害に対する全国統一防災訓練」を県の代表として実施し、そのなかで県警ヘリコプターによる傷病者搬送訓練を実現させ、桑薮自主防災組織と桑薮ヘリポートの名を町内外に広く知らしめた。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 福嶋 司(東京農工大学農学部教授))

 桑薮地区の自主防災組織は高知県の中央部、越知町にある。この地区には急峻な山腹に張り付くように、3つの集落に戸数30戸、総人数68人が生活しているが、高齢化の進んだ典型的な過疎地域である。この地区までは、山麓の集落から幅3~4mのくねくねと曲がった道を25分も走らねばならない。この1本の道路が崩壊すると桑薮地区は孤立状態になる。また、台風などの大雨の影響で、今でも2~3年に1度は3~4日間孤立するときがあるという。孤立すれば、物資の移送が止まるだけでなく、傷病者の救助もできない。その不安を解消したのがヘリポート建設構想であった。しかし、この地区には平地がない。区長の北川氏らは専門家の助言を受けながら、地区から1.5kmにある尾根を建設候補地として探し当てた。しかし、そこに作るとなると山を削り、アクセス道路も建設しなければならない。2006年11月の建設当初の参加者は建設会社に勤めている重機オペレーターをはじめとした限られた人の参加であった。しかし、工事が進むに従って参加者も増え、最後には住民総出となり、5ヶ月後の2007年3月に600m2のヘリポートと接続道路が完成した。その年の5月には高知県警察のヘリコプターが飛来し、その運用が可能なことが実証された。北川氏によれば、この作業の実施により、地区の人々の融和と連帯意識が醸成され、「人作り」という貴重な成果も得ることができたという。さらに、今後は、この場所を利用して外部の人に「イノシシ鍋」や「きのこ鍋」などを提供し、外部との交流を進めるいくつかのイベントも計画しているという。これも、老人の多い地区とは思えない元気な取組であり、この防災拠点は地域の村おこしにも大いに活躍しそうである。この事例は、自分たちの力で防災拠点を作り上げたというすばらしい実績に加えて、その活動により地域の「人づくり」を成し遂げ、さらに、その拠点を核として「村おこし」にまで発展したという点に特徴がある。この事例は、全国各地に点在する山間過疎地域の「自主防災」のあり方を示した貴重なモデルとなるだけでなく、その活動が「山村の元気」を取り戻すことを実証したすばらしい取組でもある。

団体概要

高知県越知町桑薮地区
世帯数:34世帯
人口:73人
※数字は平成19年8月1日現在

実施期間

平成18年10月~平成19年3月