消防庁長官賞(一般部門)
「避難所で防災講座」~高校と地域が連携して~
栃木県立学悠館高等学校JRC(青少年赤十字)部
(栃木県栃木市)
事例の概要
■経緯
本校は、栃木市指定の「災害時避難場所」に指定されている。しかし、実際の災害時にどのように使用されるかについては、具体的な取り決めはなされていない。4年前の平成19年に、本校JRC部の部員が「避難場所」の看板に注目し、「もし災害が起きたら学校はどうなるのか」という疑問を持ち、これをきっかけに部活動として防災活動に取り組むこととなった。最初は校内で行っていたが、地域住民と連携していく必要性を感じ、平成21年度より、地域住民の皆さんを避難所である本校に招いて防災講座を開催している。生徒たちが毎年テーマを設定し、本年で3年目となった。地域住民の参加数も年々増加し、避難場所としての認知度も高まっている。
■内容
- 平成19年度
- ・ 栃木市役所総務課訪問(栃木市の防災システム、備蓄について説明を聞く)
- ・ 部活動で、本校の避難所運営プランを作成し、学校祭で発表
- 平成20年度
- ・ 地域のイベント等で応急手当等の実演
- ・ 防災講座についてのワークショップ作成
- 平成21年度 第1回防災講座
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- ・ 6/27 栃木市の防災・避難所「学悠館高校」の運営
参加者 地域住民20名、生徒18名、教職員5名 - ・ 7/4 図上型防災訓練(DIG)(外部講師)
参加者 地域住民7名、生徒16名、教職員5名 - ・ 7/11 災害時生活支援講習(日赤栃木県支部講師)
参加者 地域住民18名、生徒18名、教職員5名
- ・ 6/27 栃木市の防災・避難所「学悠館高校」の運営
- 平成22年度 第2回防災講座
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- ・ 7/3 「避難所を体験してみませんか」炊き出し体験、避難所施設案内、避難所でのリラクゼーション紹介
参加者 地域住民24名、生徒15名、教職員4名
- ・ 7/3 「避難所を体験してみませんか」炊き出し体験、避難所施設案内、避難所でのリラクゼーション紹介
- 平成23年度 第3回防災講座
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- ・ 9/3 「となりのお年寄りをさそって避難所体験してみませんか」災害時高齢者生活支援講習(日赤栃木県支部講師)炊き出し体験、避難所施設案内、被災地ボランティア活動報告
参加者 地域住民63名、生徒24名、教職員14名、行政3名
- ・ 9/3 「となりのお年寄りをさそって避難所体験してみませんか」災害時高齢者生活支援講習(日赤栃木県支部講師)炊き出し体験、避難所施設案内、被災地ボランティア活動報告
校舎案内
リラクゼーションのようす
救急法の紹介
炊き出し
苦労した点
- 1. 学校自体が本年で創立7年目を迎えるまだ新しい高校であるため、地域の認知度も低く、防災講座を実施した初年度は地域の参加者を募るのに苦労した。しかし、3年目を迎え地域住民の関心も高まりつつある。
- 2. 県立高校であるため、小中学校と違って地元との密着度はあまり高くない。校内の生徒・教職員とも地域との連携にはあまり関心が高いとはいえず、防災についての考えも校内に限定されたものだった。しかし、今回の東日本大震災で2日間ではあったが、実際に避難所として使用されたこともあって、地域も含めた防災に対する校内の意識も高まっている。
- 3. 実際の避難所運営にあたっては、運営の主体となる栃木市との連携が不可欠であるが、まだ十分な状態ではない。しかし、この点も防災講座の運営や今回の避難所使用を契機に、情報交換をする動きが出てきている。
特徴
- 1. 生徒自身の発案で、避難所運営プランを作成し、さらにそれを進めていく中で、地域に発信していく必要性に自ら気づいて、防災講座を企画し開催した。毎年開催し、本年で3回目を迎えた。その年ごとのテーマを生徒自身で考え、発信している。本年度は、避難所において弱者となる高齢者に焦点を当てて、災害時高齢者生活支援講習をメインに実施した。
- 2. 3年間継続して防災講座を実施していく中で、地域の認知度も高まり、本年度は東日本大震災を経験した危機感もあって、予定の2倍を超える地域住民の参加があった。
- 3. 本校の取り組みが、行政にも注目されるようになり、本年度は栃木市長、消防防災課長も本校の防災講座に出席され、今後行政とも連携した取り組みに拡大する方向性が見られる。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 中林 一樹(明治大学大学院政治経済学研究科特任教授))
学悠館高校は、栃木県立の通信制定時制高校として2005年に開校した新しい4部単位制のフレックスハイスクールである。JRC(青少年赤十字部)は、栃木県が県立高校に設置してきた課外活動である。県立高校であるが、開設にあたって地域の防災拠点として位置づけられ、非常時に備えたディーゼル発電、ソーラーシステム、地上受水槽等が装備され、「避難場所」に指定されていた。2007年にJRC部員の生徒がこの「避難場所」の看板に注目し、「もし災害が起こったらこの学校はどうなるのか」と疑問を持った。JRC部による校舎の探検が始まり、さまざまな災害時に対応する装備が設置されていることを発見した。これらを有効に活用するには、生徒と先生だけではなく、避難してくることになっている地域住民とも連携しておくことが必要であると考えた。2009年、クラブでテーマや内容を企画し、地域に呼びかけて「避難所で防災講座」を開催することになり、3回の講座「避難所運営、図上訓練、避難生活支援」に延べ45人の地域住民が参加した。2010年には防災講座「避難所体験」を呼びかけ、24人の地域住民が参加した。
生徒達は、地域住民と交わりながら、避難所が開設されたときに避難者を支援し、避難所運営を補佐するために何が必要なのか、さまざまなアイデアを検討した。避難所開設時に運営者(市職員・高校教員・日赤・生徒)を見分けるために、4色のカラーの軍手を自ら染めて準備している。
2011年3月11日、春休み期間で生徒が不在時に東日本大震災は発生した。学悠館高校は鉄道駅前に立地している。防災講座の体験は、駅に溢れた多くの帰宅困難者を躊躇なく避難所として受け入れた。またJRCを中心に、多くの生徒が被災地でのボランティア活動も継続して行ってきた。被災地で高齢者が災害時要援護者であることを学び、2011年度は防災講座「となりのお年寄りをさそって避難所体験をしてみませんか」を企画した。63名もの地域住民が参加した。栃木市との連携も強化しつつ、生徒達は学悠館高校JRCのベストを身につけて、防災活動を継続している。
団体概要
- 構成人員
- JRC(青少年赤十字)部員 19名
赤十字の精神を取り入れて活動している部。人道的価値を身につけ、日常生活の中で人の命と健康を大切にし、人間としての尊厳を互いに尊重して行動できるようになることをめざしている。具体的には、「健康・安全」「奉仕」「国際理解・親善」の3つの目標に沿って、本校では防災活動をはじめ救急法講習への参加、清掃活動、モンゴル・タンザニアとの交流などの活動に取り組んでいる。
実施期間
平成19年10月~