第16回防災まちづくり大賞(平成23年度)

大学と学生・地域による安心安全の「共生」への取組

優良事例(一般部門)

大学と学生・地域による安心安全の「共生」への取組

龍谷大学
(京都府京都市)

事例の概要

 京都市伏見区深草に本部を置く龍谷大学(以下「大学」という。)は、学生数約2万人を有する関西でも有数の総合大学である。
 大学の本部がある深草学舎は、京都市の広域避難場所及び避難所に指定され、大規模な災害が起これば多くの地域住民が避難することから、大学側も普段から防災に関する意識は非常に高い。
 大学及び学生達による防災活動への先進的な取組内容について紹介する。

  • 1. 災害時に活用できる井戸プラントの建設
     大学では 2010年 5月に、地下80 メートルから汲み上げた良質な地下水をろ過処理し、大学内の飲料水及び生活用水として供給するシステムの運用を開始した。
     普段は大学構内の飲料水としで使用しているが、大地震など大規模災害時に活用できるよう、井戸プラントに専用の応急給水キットを接続し、8個の蛇口から給水することができる設備を設置した。次年度以降には同プラントに非常電源設備を配備し、大地震に伴う停電時においても給水することができるように備える。
     また、飲料水供給システムの受水槽に消防隊が使用できる取水口を設置し、火災の際には同システムの水を消火用水として使用することも可能とした。
  • 2. 地域防災への参加、「大学」と「地域」との協力体制の締結
     飲料水供給システムの運用開始に伴い、災害発生時には、大学周辺の地域住民に対して同システムの水を提供することを提案し、平成23年1月17日、地元の砂川学区自治連合会と大学の間で応援協定を締結し覚書を交わした。
     締結の主な内容としては、大学側からは、飲料水の提供のほか、AEDや応急医薬品等を提供する。一方、地域住民からは、地域内に居住している学生などの安否の確認を実施するほか、大学への情報提供を行い、相互に協力連携を実施するものとしている。
  • 3. 学生(応急手当普及員)による救急救命の知識及び技術の向上
     「安心救急ネット京都」 (事業所が相互に連携して応急手当の普及啓発やAEDの設置促進を進め、安心安全のまちつくりを進める取組:平成20年8月に設立)に参画し、現在AEDを構内に63台設置しており、今後も増設する計画である。応急手当普及啓発については、これまでに1,000人を超える学生、教職員が普通救命講習を受講し、認定証の発行を受けている。
     また、昨年運動部で活動中に事故が発生したのを契機に、学生自らが応急手当普及員となり、大学内の他の学生に対して更に応急手当を普及させることを、学生から大学側に要望した。要望を受けた大学は、応急手当普及員の受講に係る費用を負担するとともに、同普及員の資格を取得した学生(12名)と消防署の指導員による普通救命講習を実施した。学生主体による普通救命講習の実施回数は10回に渡り、合計で300人を超える学生が新たに修了証の発行を受けた。
     本取組は、大規模災発生時のみならず、通常時における救急事案等に対しても非常に有効であり、大学内はもとより、地域の安心安全の推進にも大きく貢献している。

消火班ブロック対抗操法大会

苦労した点

 地域と「共生」する大学の理念に沿った地域貢献を実現するに当たり、防災あるいは安心安全をテーマとし、大学として何ができるかを検討することから始めた。防災活動については、どこまで実施すれば安心を得られるか、といった基準はない。そうした中で、抽象的でなく具体的且つ実践的に地域に果たすべき使命、果たし得る役割などを整理することに苦慮した。
 地域との協力体制を締結する際にも、地域住民に対して大学としてどういう形で伝え、意思表示をすればいいのかに苦慮し、自治連合会をはじめ各種団体との協議の場を積み重ねることで合意を図ることができた。

特徴

  • 1. 学長と消防署長が会談を行うなど、消防署とも積極的に連携を図っている。本取組については消防署長からの具体的なアドバイスのもと、学長が積極的にリーダーシップを発揮し実現した。
     現在も消防署と連携を図りながら、地域防災力の向上に向けた取組を計画、実行しているところ である。
  • 2. 本取組は、大学の「共生」の理念に沿った地域貢献の一つで、地域の自主防災会や学生などが顔の見える姿で参画し、地域の安心安全の推進に大いに貢献している。
  • 3. 地域との協力体制の締結により、大学構内を避難所として開放するとともに、地域住民が不安と感じている避難所生活に必要不可欠な水を確保するなど、地域住民の安心安全を重視した積極的な取組である。
  • 4. 学生についても、普通救命講習を積極的に受講し応急手当の普及に努めるとともに、これまで16名の学生が「京都市学生消防サポーター」に登録し、地域の総合防災訓練等にも積極的に参加するなど、地域防災力の向上に大きく寄与している。

団体概要

 京都市伏見区深草に本部を置く私立大学で、1922年に設立された。大学院、各学部、短期大学、合わせて約2万人の学生が学ぶ総合大学である。

実施期間

平成22年5月~