優良事例(一般部門)
地域と大学が連携した災害対策-災害時要援護者を支援する体制の構築-
中野町甲和会
(東京都八王子市)
事例の内容
■経緯
首都直下地震の切迫性や頻発するゲリラ豪雨などの災害が危惧されている中、中野町甲和会(以下「甲和会」という。)では、地域が災害時要援護者をどのように把握して、平時から声かけ等によりコミュニケーションを深め、災害発生時には自治会が傘下の自主防災組織や民生委員等と協力して要援護者の救護・救援を行うための体制づくりが必要であるとの機運が高まった。一方、甲和会の区域内には市が広域避難場所として指定している工学院大学八王子キャンパスがあり、同大学も地域貢献をしたいという考えを持っていたことから、地域と協働で災害対策をテーマとした取組みを行うことを地元に呼びかけたところ、両者の思惑が一致し、お互いの持ち味を十分に発揮し合いながら協働で防災事業を推進しているものである。
本市は、周辺を含めて大学・短大、工専が23校もある全国屈指の学園都市である。このような地域特性を活かし、大学が持つ専門的知識を地域の災害対策に活かした先進的な事例である。
■内容
ステップ1 「先ずはお互いを知ろう!」
甲和会の住民にとって工学院大学は自治会の区域内にあるにもかかわらず、交流が少なかったため、先ずはお互いを知ることから始めることとし、平成20年4月、新入生オリエンテーションに甲和会の住民も参加してキャンパス内を見学しながら八王子キャンパスサバイバルマップを作成した。
ステップ2 「お互いを知った上でそれぞれの視点から再点検」
甲和会役員と大学が今後の災害対策の進め方について検討を行い、地域防災マップを作成することを決定するとともに、マップのテーマ、方向性等を検討した。
平成20年7月、工学院大学建築学科の教員と学生、甲和会住民が実際に町歩きを行い、地域の点検を実施。点検を行う際には、災害時における地域の危険性や問題点だけでなく、災害時に有効に活用できる資源も抽出することを目的として点検を行った。また、町歩き後には大学内で、地域の防災課題を整理し、今後の改善策の検討も行なわれた。町歩きで得た様々な情報を基に紙ベースで地域防災マップの原案を作成。町歩きは甲和会を6地区に分割して行い、地区ごとに住民と大学が一緒に点検を実施した。点検後は、住民、大学それぞれの視点から見た町の実情を地区ごとに発表し、情報共有を図った。
紙ベースで作成したマップ原案を大学がデータ化し、清書して防災マップを作成するとともに、甲和会が行っている防災上の取組み、各家庭での備えなどを記した冊子「防災への備え」を発行、全世帯に配付した。「防災への備え」は、甲和会が行う今後の災害対策に活用していく。
ステップ3 「町会・大学の連携~今後のビジョンについて考えよう」
今後は、甲和会と大学が「防災計画委員会」を組成し、災害時要援護者支援のためのアクションプランを作成し、要援護者の把握と支援体制を構築、プランに基づいた防災訓練を行い、その効果を検証するとともに、必要に応じて改善を実施するといったPDCAサイクルに基づいた支援体制を構築していく。また、平成20年11月には大学が実施した防災訓練に甲和会の住民も参加し、教員・学生に混じって応急救護訓練、資機材操作訓練、学生が作った非常食の試食体験などを行った。
6地区に分かれて地域ウォッチングを実施
地図に写真や収集した情報を記載
グループごとに調査内容を発表
簡易トイレの組立て訓練
三角巾を使った救急法
苦労した点
本事業を地域と大学が協働で進めようと話し合いを始めた当初、目指す目的は一致していたものの、大学(学生)は授業の単位を取得するための手段、地域は災害に対する備えと経験したこともない災害対応への不安が解消できればという願望というように、それぞれ手段と願望の相違が、事業進行に支障を来たした。それをお互いが理解し合うための話し合いの場を多く設けることで解消した。話し合いを重ねることで、甲和会の役員と大学側との年齢差も苦にならなくなり、今では「“大人”が学生を頼る」ようになり、一定の成果を残すことができたと考えている。
特徴
- 1. 地域と大学が協働して災害対策を推進していくことで、相互理解が深まり、災害発生時の助け合いが円滑に行われる。また、大学が有する専門的な知識や学生が持つ柔軟で斬新なアイデアを地域の災害対策に取り込むことができた。
- 2. 日常の福祉活動の一環として、高齢者や障害者とのコミュニケーションを深めることで、住民相互の連携と福祉の増進が図れ、災害時には要援護者の安否確認や避難支援が速やかに行われる体制が整備される。
- 3. 大学側にとっても、地域貢献ができるとともに住民を動員して様々な災害対策を行うことで、実態に即した研究成果が期待できる。
団体概要
構成世帯数:683世帯
中野町甲和会は、昭和35年6月に設立され、八王子市中心部から北西約5キロに位置している住宅街である。この区域は、かつては農耕地が広がっていたが、近年、住宅開発が著しく進行し、主に一戸建て住宅が立ち並ぶ閑静な住宅地となっている。自治会を母体とした自主防災組織も結成され、以前から区域内にある市立小学校・中学校と協働して防災訓練を実施など、住民によるコミュニティ活動が盛んな地区である。
実施期間
平成20年4月~