昭和61年10月11日エルサルバドル地震災害

体験記(6)


エルサルバドル地震災害

地震の被害状況 国際消防救助隊の構成等
携行救助資機材 出発までの動き
被災地での活動状況(1) (2) (3) (4)
各国救助隊の体制 第2次派遣隊
現地での新聞報道及び反響 帰国後の動き
外務省の支援
体験記(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)

体験記(6)
とにかく前例はできたあとはやるだけ

横浜市消防局 消防司令補 清宮茂一

 10月20日、17時50分、全日空機により成田到着。それはすべての任務を終了しての5日ぶりの日本。そして任務の重要性をあらためて感じた消防庁長官等の盛大な出迎え。これらは派遣決定からの全行程を思い起こされる感無量の瞬間であった。
 10月14日、非番における派遣決定の電話連絡。15日の辞令交付。同21時50分の成田からの出発。30時間近い往路。現地到着後直ちに行われた活動。死臭が満ち、粉塵が舞う、手のつけようのない現場。東京消防庁隊員との連携活動。搬送資材の活用。身振り手振りで指導した資器材の取扱い。それらが脳裏に思い浮かんでくる。
 しかし、活動時における困難性は、それほど伴わなかった。日頃精通している内容の活動であったし。平常とは異なり慣れていない作業とはいえ、応用の利かないものではなかった。
 今、派遣について思うことを二つとりあげてみたい。
 一つは、出発前の作業である。なにしろ、初めての事で、搬送する資材にしても全てを予想して準備しなければならず、かといって思いつくままでは莫大な量となってしまう。最小限必要なものでも空輸できるとは限らず、それらの調査等も並大抵のことではない。過去において経験のある作業ならば、前例にならって実施すればすむが、初めての作業はそれだけ困難な面もある。我々の現地での活動は、それらの困難な作業を経過した結果にすぎない。
 もう一つは、派遣される隊員の気持ちの問題である。今回の派遣先は中米というほぼ日本の裏側で、実際の活動に入るまで相当な時間を要する場所である。何時、何処で災害が発生するかは分からないが、出発の際の緊張感を持続させるのは容易なことではない。
 しかし、緊張感は常に要求されるべきであるし、かといって過度な緊張感の長時間の持続は、単に疲労を増すだけで、現地での活動に影響を及ぼす。日頃鍛えた体力、磨きあげた技術を全て発揮するためには、十分な精神的なゆとりが必要である。
 以上、隊員の派遣について感じていることについて述べたが、これらは、海外派遣に限っての問題ではない。すなわち、常日頃の作業の延長線上に派遣を考えれば良いことで、特別の作業として扱う必要はないと思う。とにかく前例は出来たのである。後はあらゆる災害に対応するだけである。