●防災協力協定の締結 防災協力協定とは、一般的に、災害時における事業所の協力に実効性を持たせるためのもので、事業所と地方公共団体との間であらかじめ協定書や覚書を交わし、事業所の責任を明確にするものです。
防災協力協定の仕組みは、次の通りです。 下図は、災害時に商店が物資を提供するという防災協力協定について説明したものです。
普段、地域住民はお店で直接買い物をし、地方公共団体は災害時に備えて備蓄を奨励したり、防災協力協定についての普及啓発を行います。
災害時には地方公共団体は協定を結んだ価格でそのお店から必要となる物資を買い上げ、被災者となった地域住民に供給します。
地方公共団体が調達する物資は、食料だけではなく飲料水などさまざまあります。
防災協力協定は、こうした物資の提供だけでなく、初動期から応急復旧の段階まで幅広い分野で締結されています。
例えば、地元の建設業協会と地方公共団体との間で、災害時に建設資材の協力などを行う事例があります。また、特別養護老人ホームで要援護高齢者を受け入れたり、タクシー会社やバス会社が負傷者を搬送したりするなどの協力協定もあります。
地方公共団体は、こうした取り組みを地域防災計画などに位置づけることで、事業所の防災協力の実効性を担保することが可能となります。
防災協力協定締結の具体例
○多摩市の取り組み 多摩市では、市民の高齢化が進展し要援護者が増加する中、水害時に地域から一次避難所に、また、震災時に地域の一次避難所から、プライバシー等を保つことができる二次避難所への移動のための、大量輸送の手段確保について必要性が生じた。
その中で、多摩市の防災関係機関であり、防災会議委員等でもある京王電鉄(株)より紹介を受け、同企業のグループ会社であり、福祉部門の輸送にも実績があった京王自動車(株)とバスによる災害時の要援護者の運送協力について平成18年に「災害時における災害要援護者用避難自動車供給協力に関する協定」を締結した。
○袋井市の取り組み 袋井市は、平成13年5月に静岡県が発表した東海地震の第三次地震被害想定を踏まえ、県下の中で一番死傷率が高いこと、地震により道路網の寸断が懸念されること等から、建物の耐震化等、防災対策に重点をおいてきた。
新潟県中越地震で小千谷市に市職員を派遣した際、ジャスコ袋井店(イオン株式会社中部カンパニー)で所有していたバルーンシェルターが被災地で活用されていたことや住民への支援をしていたことを知ったことを契機に、平成18年8月に「災害時における応急生活物資供給等の支援に関する協定」及び「災害時における一時避難地の支援に関する協定」を締結した。また、袋井市とイオン(株)に加えて、地域住民や袋井北部街づくり(株)パティオ、NPO法人「ピースウインズ・ジャパン」の5者の協働により防災訓練を実施し、5者間の連携を深めている。
○岐阜県の取り組み 岐阜県では、昭和56年より社団法人岐阜県建設業協会と協定を締結し、災害時の応援協力を得ていた。
さらに、平成16年には被災者救助に関する事項も盛り込まれた「災害時応援協力に関する協定」を締結した。
協定締結以降、平成16年の台風第23号、揖斐川町東横山地内における地すべり崩壊等で岐阜県建設業協会の会員事業所による復旧活動の協力を得ている。
●おわりに
事業所は、地域に密着し迅速な対応ができること、日常的に培われた組織力が発揮できること、専門的な資機材や技術があることから、災害時に被害軽減のための活躍ができる可能性が高いことがわかります。
しかしながら、災害時に本当に効果を発揮するためには、事前に防災訓練などを行って実際にどのような協力ができるかを検証したり、地域住民へ周知したりするなどの取り組みも必要です。
ご紹介した具体例は、いずれも事業所の持つ施設、設備、製品、従業員を活かした取り組みであり、地域の重要な防災力となっています。
このように、防災協力は大きな設備や人材を持つ特定の分野の事業所だけが行うものではなく、それぞれの事業所がそれぞれの能力に応じて協力し合うものです。
皆さんの事業所でもそれぞれの分野に応じた防災協力を始めてみてはいかがでしょうか。
○参考・引用:
■ 災害時における地方公共団体と事業所間の防災協力検討会 報告書(平成17年12月 総務省消防庁)
■ 災害時における地方公共団体と事業所間の防災協力・連携の促進に向けて ~地域防災力向上に向けた先進事例から~(総務省消防庁)
■ 防災・危機管理eーカレッジ(総務省消防庁)