1 はじめに
コンビニエンスストア(以下「コンビニ」という。)は、全国で約43,600店に及びニーズの多様化から揚げ物など店 内で調理を行う店舗が増加しています。
本事例は、全国展開しているコンビニの電気フライヤー(以下「フライヤー」という。)から出火したものですが、 従業員がフライヤーの異常に気付き電源スイッチを切ったにもかかわらず、その後火災となった事例を紹介します。
2 火災概要
(1) 出火日時 平成22年6月
(2) 火災種別 建物火災
(3) 焼損程度 ぼや
(4) 建物構造 鉄骨造平屋建て
3 出火時の状況
フライヤーの油から煙が出ているのに気付いた従業員が、フライヤーの電源スイッチを切り、操作パネルの表示が消えたことを確認したのち、店長及びコンビニのコールセンターに電話をしている間に、油が過熱し出火したものである。
4 現場の状況
レジカウンターの中に2台設置されているフライヤーのうち1台に焼損が認められる。フライヤーの油層内には、油、 水、粉末消火剤が見られ、フライヤー上部のバスケット、排気ダクトは黒く変色している。
フライヤーを移動して背部の壁面を見ると、フライヤーの油層上面の位置から上方は扇状に焼損しており、下方は油 脂が付着している。
電源は、壁面から延長されたコードに、フライヤー背部の器具コードからプラグを介し接続されている。
【フライヤー】
【フライヤー背部】 【電源(AC三相 200V)】
フライヤーの電源スイッチを切ったのに、「なぜ」油が過熱し出火したのか?
5 鑑識見分状況
フライヤーについて詳細に調査をするために、機器を収去し、製造メーカーの技術者に立会いを求め、フライヤーの 仕組み、安全装置の作動状況、機器の異常の有無を確認するため鑑識見分を実施した。
○ 製品概要
製 品 名: 卓上型電気フライヤー(オートリフトアップ付)
製造業者: ○○株式会社
定格電圧: AC三相200V
定格電力: 3.0kW
製造期間: 2007年5月~現在
導入台数: 2万数千台(コンビニチェーン店1店舗各2台導入)
本製品は2007年から全国の当コンビニチェーン店に導入されており、火災が発生した店舗には、2008年7月に設置さ れている。メーカーの説明によると、同型機種の火災事例はない。(※本火災以降2011年11月までに同コンビニチェー ン店で同様の原因による火災が3件発生している。)
(1) 製品の使用方法
フライヤーの使用方法は、バスケットに食材を入れ、メニュー(鶏の唐揚げ、フランクフルト等)を選択し、スタートボタンを押すとバスケットが自動で油層の中に下がり、タイマーが作動する。タイマー表示が0になるとバスケット が自動で上がり調理が終了する仕組みになっている。
(2) 外観の状況
フライヤー前面には、電源スイッチとタッチ式操作パネルがある。
【フライヤー前面】
正面の扉を開け裏側のパネルを外すと電源制御基板と表示スイッチ基板が重ね合わせられているが、基板に焼損は認 められない。
【フライヤー基板】
フライヤー背面には、ヒーターユニットの中央に異常過熱防止装置のリセットスイッチがある。フライヤーの背面パ ネルは油脂が付着し茶色くなっている。背面パネルには放熱のための開口が認められる。
【フライヤー背面】
(3) 油層の温度調節
油層内に設置された温度センサー(K型熱電対センサー「矢印①」)により油温を感知し、パワーリレーが作動して 油温を168℃~170℃に保っている。
調理をしない時は、セーブ運転状態にして油温を142℃~150℃に保つことができる。
※パワーリレー
パワーリレーは、通電すると接点が閉じ、AC三相200Vの電圧が印加されヒーター部が加熱する。(構造の詳細は後述 )
(4) 製品の安全装置
油層は適正油量ラインよりも上部が焼損し黒く変色していることから、油量は適正な油量ラインまで入っていることがわかる。(「矢印②」)
この製品は温度センサーにより油温が230℃になると加熱が停止する。
万一、温度センサーが作動しない時には、二重の安全装置として、異常過熱防止装置(ハイカットサーモ「矢印③」 )により、油温が250℃になるとブザーが鳴り、装置が作動して加熱が停止する。
【油層内部】
(5) 安全装置の作動状況
火災発生時、安全装置である異常過熱防止装置が作動したかを確認するため、背面のパネルを開け、異常過熱防止装 置の導通をテスターで測定すると、「導通なし」を示すことから、火災時には異常過熱防止装置が作動したと認められ る。
さらに、異常過熱防止装置が正常かどうかを確認するため、リセットスイッチを元に戻し、異常過熱防止装置の導通 があることをテスターで測定しながら、異常過熱防止装置をバーナー式点火棒で加熱すると、異常過熱防止装置が作動し、「導通なし」を示したことから、異常過熱防止装置は正常に作動することがわかる。
【導通測定】
【異常過熱防止装置をバーナー式点火棒で加熱】
油が過熱しないようにするための異常過熱防止装置が正常なのに、「なぜ」出火したのか?
(6) 製品構造(電気配線図参照)
ア フライヤー正面の電源スイッチは制御基板へ印加される電力を切断するもので、ヒーターへの電源を切断するものではない。
イ 電源からヒーターへ印加されるAC三相200Vの電力を遮断するには、店内にある配 電盤のブレーカーを遮断するしか方法はない
(7) パワーリレーの仕組み
パワーリレーの仕組みは、通電するとコイルに電流が流れ鉄心を磁化し、パワーリレーの金属製パネルがコイルに吸 着することで、接点を閉じる。(金属製パネルの凸部「黒矢印」と一致するリレーの凹部「白矢印」が写真上左側に動 き接点を閉じる。)また、電流が遮断されるとばねの弾力により接点が開放される仕組みになっている。
【パワーリレーばね】 【パワーリレー内部】
(8) パワーリレーの作動状況
フライヤーの背面には、左下部にパワーリレーMC 1 (以下「MC 1 」という。)、左上部にパワーリレーMC 2 (以 下「MC 2 」という。)が設置されている。
MC 2 は、接点が着いている
【フライヤー背面】
MC 1 、MC 2 は、AC三相200Vの電圧が直接印加される。
MC 1 は通常接点が閉じているが、異常過熱防止装置が働くと接点が離れる。
MC 2 は油層内の通常の温度調節をするために温度センサーにより接点が作動する。
パワーリレーを本体から外し、コイル部分を分離してMC 2 から接点を見分する。
【MC 2 内部】
【MC 1 内部】
ア MC 2
MC 2 は接点が、全体に黒く変色し接着している。接着した接点を剥がし詳細に見分すると、接点は摩耗し溶着した 痕跡が認められる。
イ MC 1
MC 1 は接点の接触部が黒く変色している。接点を仔細に見分すると、接点は若干荒れており、溶着していたことが 疑われる。
立会者に、「もしパワーリレーMC 1 、MC 2 の両方に不具合が発生し、接点が開放されないとどうなるか?」説明を 求めると、「安全装置が正常に作動したとしても、電源は遮断されません。」とのことである。
(9) MC 1 接点撮影
消防大学校 消防研究センターに、デジタルマイクロスコープによるMC 1 の接点撮影を依頼する。
焼損したMC 1 は、すでに分解されている。
パワーリレーは、可動接点(A)と固定接点(B)で構成されている。
可動接点(Aー1~6)と固定接点(Bー1~6)に矢印を付して表示する。
各接点の表面をエタノールで洗浄して撮影された写真から、焼損品の可動接点Aー2、Aー5及び固定接点Bー2、Bー5に 荒れや溶融が見られ一部銅色が認められる。
【Aー2】
【Aー2(200倍)】
【Bー2】
【Bー2(200倍)】
6 出火原因
(1) 出火原因の考察
ア MC 1 は接点撮影の結果、接点に溶融が認められることから、接点が溶着してい た可能性が高い。
なぜMC 1 の接点が溶着したか?
○○社製のパワーリレーは、仕様書によると接点の電気的な耐久限度回数(定格)は、10万回以上となっている。
このフライヤーは使用してから2年を経過しているが、MC 1 は電源の入切りと異常時に接点を開く時にしか開閉しな いため、接点の動作は10万回を超えていない。しかし、フライヤー背面パネルには開口があるため、背部にミスト状の 油脂が進入しパワーリレーに付着する可能性がある。パワーリレーの内部に油脂が付着すると、油のべた付きにより接 点が離れ難くなり、接点が開く時にアークが発生し、パワーリレーが耐久限度回数に至らなくても、接点が溶着する可 能性が推察される。
イ MC 2 は油槽内の温度を温度センサーで感知し、接点が開閉して油温を一定に保 つためのもので、接点は日常から頻繁に作動している。
見分時、MC 2 の接点は摩耗し、接着していることから、耐久限度回数を超えていた可能性がある。また、油脂の進 入により接点が離れ難くなり、耐久限度回数を超えていなくても溶着した可能性が考えられる。
(2) 結 論
パワーリレーMC 1 、MC 2 の両方に不具合が発生し、接点が開放されなかったため、電源スイッチを切ったにもかか わらず、構造上ヒーターへの通電が遮断されずに、油層内の油が過熱し出火したものである。
7 製品の問題点と消防本部の対応
(1) 製品の問題点
ア 通常、電源スイッチを切るとヒーターの電源が遮断されると考えられるが、MC 1 、MC 2 両方とも不具合が発生し接点が開放されないと、フライヤーの異常に気付き電源スイッチを切ったとしても、 ヒーターへの通電は遮断されない。
イ パワーリレーの接点が溶着していると安全装置(温度センサー、異常過熱防止装 置)が作動しても、MC 1 、MC 2 の接点は開放されないためフライヤーに設置されている安全装置は意味をなさない。
ウ 電源プラグはフライヤーの背面にあるため引き抜くことができない。そのため、 電源遮断は分電盤のブレーカーを遮断しなければできない構造となっている。
(2) 消防本部の対応
ア メーカーに対し、現在使用されている製品の構造的な問題点を改善するよう依頼 した。
イ メーカーに対し、機器の定期的な点検の実施を依頼した。
ウ コンビニ本社に対し、初期消火の訓練を含めた安全面についての教育の実施を依 頼した。
エ 管内のコンビニ全店に立入検査を実施し、チェックリストを基にフライヤー等の 調理機器の状況を確認するとともに、火災発生時の対応について指導を実施した。
8 おわりに
本製品については、全国で同様な火災が発生しているため、メーカーにより緊急点検が実施されている。現在、コン ビニチェーンにより新機種の導入が計画されているが、全国の店舗に新機種が設置されるまでには相当の期間が掛かる と予想されるため、それまでの間に類似火災が発生することが懸念される。
一般に、電源スイッチを切ることによって機器への通電は遮断されると考えられているが、このフライヤーはパワー リレーの接点が溶着すると、電源スイッチを切ってもヒーターへの通電が遮断されない。そのため、火災発生時の対応 としては、機器の電源を切るだけではなく、分電盤のブレーカーを遮断しなければ電源供給が遮断されない構造の機器 である。
このコンビニは全国展開されており、ほとんどの店舗に同型のフライヤーが設置されていることを考慮すると、全国 の消防本部に、この機器の構造を認識していただき、今後の火災予防と消防活動に役立てていただくことを切に願うものである。
《 電気フライヤー電気配線略図 》