1 はじめに
本件火災は、大阪市内において施設用蛍光灯器具から出火した事案であるが、ほぼ同時期に他都市消防本部管内におい ても類似事案が発生したという情報を得た。当該消防本部と互いに情報提供し合いながら再発防止に向けて取り組んでい った結果、メーカーが当製品に不具合のあったことを認め、後日、社告を発表したものある。
2 火災概要
(1) 焼損状況
平成22年11月、2階建住宅兼事務所の1階事務室において、施設用蛍光灯器具1器若干焼損。
(2) 発生状況
1階事務室内で仕事をしていたところ、突然、焦げ臭いにおいを感じると同時に、天井からグローランプが落下してき たため、天井の方を見ると、蛍光灯器具の端の方に炎を認めたとのことである。
急いで水道水をかけて消火を試みたが消えなかったため、外にいた従業員に消火器を持ってきてもらい消火したもので ある。
なお、本件、消火後しばらくしてからの通報であったため、消防隊が到着したときには、既に鎮火状態であった。
3 現場の状況
(1) 火元建物の事務室内には焼損が認められなかったため火元関係者に聞いたところ、 焼損したのは天井に設置していた蛍光灯器具のみで、既に取り外しているとのことであった(写真1)。
写真1 室内天井の状況
(2) 火元関係者が天井から取り外したという蛍光灯器具を見分すると、2箇所ある内の一 方のグローランプソケット(樹脂製)が炭化、溶融しており、また、その落下したグローランプについても樹脂製キャッ プが溶融し、内部が露出している状態であった。その他に焼損は認められなかった(写真2、3)。
以上の現場の焼き状況と関係者からの聞き込み情報から、本件、当該蛍光灯器具から出火した可能性が高いと考えられ たため、この蛍光灯器具を持ち帰り、子細に調査することとした。
写真2 焼損した蛍光灯器具
写真3
4 製品概要
(1) 品 名 施設用蛍光灯器具(以下「蛍光灯器具」という)
(2) 製造メーカー A社
(3) ランプ灯数 40W×2本
(4) 点灯方式 グロースタート式
(5) 電 源 AC100V
(6) 製造年 2004年
(7) 製造台数 約1,100,000台
5 鑑識概要
持ち帰った蛍光灯器具は2灯式であるが、1灯につきそれぞれ蛍光ランプ、グローランプ、安定器からなる回路で構成さ れていた。
以下、焼損したグローランプのある方の回路を「回路A」とし、その回路上にある電気部品を「蛍光ランプA」、「安定 器A」、「グローランプA」とする。また、もう一方の回路の方を「回路B」とし、同様に同回路上にある電気部品を「蛍 光ランプB」、「安定器B」、「グローランプB」とする(写真4)。
なお、火元関係者によると、ここ4、5日、蛍光ランプBの方は点灯していたが蛍光ランプAの方は点灯しなかったとのこ とである。
(1)前述のとおり、焼損が認められるのはグローランプA及びその周りのソケット樹脂部 のみであるが(写真5)、回路Aにおけるその他の電気部品に機能上異常がないかを確認した。
ア 蛍光ランプAの機能確認
回路Bに蛍光ランプAを接続し電圧を印加した。その結果、蛍光ランプAは正常に点灯することが確認された。
以上のことから、蛍光ランプAに異常はなかったものと考えられた。
イ 安定器Aの機能確認
次に、回路Bから安定器Bを切り離し、換わりに安定器Aを接続し電圧を印加した。その結果、蛍光ランプは正常に点灯 することが確認された。
以上のことから、安定器Aも異常はなかったものと考えられた。
写真4
写真5 グローランプAを復元した状態
(2) (1)の結果から、本件、グローランプA自体に何らかの異常があり出火した可能性 が高いと考えられたため、当該グローランプAを子細に見分した。
ア 焼損していない方のグローランプBを見分したところ、このグローランプは、外郭 は樹脂製のキャップで覆われているが、内部はガラス管と雑防コンデンサで構成されており(写真6)、さらに、 ガラス管の内部は可動電極(バイメタル)と固定電極とで構成されていることがわかったため(写真7)、このグ ローランプBと比較しながらグローランプAを見分していった。
イ まず、グローランプAの口金ピンを見分するも、2本ともに溶融や変色は認められな かった。このことからグローランプAとソケットとの接続箇所でのトラッキングや接触不良による出火の可能性は否定さ れた。
ウ 次に、雑防コンデンサを見分したところ、ガラス管側の外装部は炭化しているもの の、その反対側の外装部に焼損は全く認められず、原型を保っている状態であった。このことから当該雑防コンデンサは ガラス管側から二次的に熱を受け焼損したものと考えられた。
エ 最後に、ガラス管内部を見分したところ、可動電極及び固定電極の根元部分にある ガラスステムは炭化した状態であり、また、可動電極については根元部分から脱落し、残存している固定電極についても 先端部が溶融した状態であった(写真8、9)。
写真6 グローランプB
写真7 グローランプB(ガラス管を取り外した状態)
写真8 グローランプA
写真9 グローランプAの固定電極
6 鑑識の結果
鑑識の結果、ガラス管内部のガラスステムにも炭化が及んでおり、さらに、固定電極の先端に溶融痕が認められたこと から、ガラス管内部の電極間で異常放電が発生し出火したものと考えられた。
7 再発防止に向けて
ほぼ同時期に他都市でも、同製品で同様な事案が発生したとの情報を得たこと、また、A社からは過去にグローランプ が落下するという事故が4件あるとの報告を受けたことから、当製品については再発の危険性があると判断し、再発防止 に向けて、A社との話し合いを数回に亘って実施した。
その結果、最終的にはA社から再発防止に向けての前向きな回答を得ることができた。
8 メーカーからの回答
(1) 出火メカニズムについて
A社によると、過去、同製品においては、グローランプの固定電極に使用する部材が調達困難な状況となったため、そ れ以降に製造したグローランプについては、ガラス管内に封入するガスを仕様変更したとのことであり、今回、出火した 製品のグローランプについてはその仕様変更後のものであったとのことである。
通常、蛍光ランプが点灯した後は、グローランプのガラス管内では固定電極と可動電極との接点が開いた状態であるた め放電は発生しないが、封入ガスを変更したことで、接点が開いている状態でも固定電極と可動電極との間で微小な放電 が発生する場合がある。このような微小放電が継続されると、まず、可動電極が消耗し脱落。さらに、その状態で使用さ れ続けると、電源投入時に異常放電が発生する場合があり、今回の事案についても、その異常放電によりグローランプソ ケットの樹脂部が熱影響を受けた可能性があるとのことであった。
(2) 再発防止策について
メーカーはグローランプに不具合があったこと認め、同機種を含み当該グローランプを使用している施設用蛍光灯器具 について、無償でグローランプを交換する旨の社告を発表した。
9 おわりに
本件、蛍光灯器具の一部を焼損するという小さな火災であり、ともすれば看過しがちな事案であったが、特に類似火災 防止を図る上では、このような小さな火災こそ見逃さず調べていくことが大切であるということを痛感した。
また、今回、結果として再発防止につなげることができたが、当消防局だけの力だけではなく、同時期に同様に再発防 止に向けて取り組んでいた他都市消防本部の力もあったからこそ成せたものであり、我々、消防の類似火災防止に対する “思い”がメーカー側に伝わったものと解釈している。火災調査の目的である類似火災防止を進めていくためには、各消 防本部で発生した事案の情報を共有し、連携し取り組んでいくことも必要であると今回の火災調査に携わり感じた。