製品火災等に対する国民の関心が高まるなか、総務省消防庁が公表している平成22年中の製品火災(車両火災含む)の調査結果によると、①「製品の不具合により発生したと判断される火災」161件、②「原因を特定できない火災」651件と合わせて812件の製品火災が発生している。
製品火災による被害を低減するには、製品火災に係る情報の発信及び不具合品に対する製造業者等への要望等により火災を起こす危険な製品の流通を防止し、国民がより安全な製品を使用することが必要となる。
近年、安全面に対する意識の高まりから、メーカーが自主的に安全装置を取り付ける傾向がみられるが、火災に対して必ずしも万全とはいえない。
以下、安全装置の不作動に起因(安全装置が作動する前に出火)した3つの事例について紹介する。
1 コードレス電気アイロン
(1)火災概要
出火時刻 平成20年11月 1時27分頃
覚知時刻 平成20年11月 1時30分
鎮火時刻 平成20年11月 1時43分
建物用途 共同住宅
焼損程度 ぼや 電気アイロン1台焼損
(2)火災発生時の状況
出火前日の19時30分ごろまでアイロンがけをし、スイッチを切にして置台に置いた。
約6時間後に居住者が就寝中に臭いと煙に気付きコンセントを抜いて119番通報した。
写真:現場の焼損状況
(3)鑑識状況
この電気アイロンは、コードレス式スチームアイロンで、本体を置台に置いたときに本体に組み込まれた電熱線に電流を流し、その際に発生するジュール熱を熱源として熱板に蓄えアイロンがけの際はその余熱を利用する。
スイッチは高・中・低の3段階設定で120℃から200℃の範囲でマイコン制御されている。
安全装置は270℃設定の温度過昇防止装置(バイメタル式)及びスイッチが入った状態で置台に置いた場合、10分後にヒーター回路を切るストッパーが設置されている。
当該アイロンは、2004年4月に製造され同年5月に購入したもので、社告や修理履歴はない。
写真:同型品との外観比較
同型品の外観を比較すると、機器本体の底部のみ焼損し、取っ手のスイッチ部や給水タンク部に焼損は認められない。
置台は本体を受けるローラー部が溶融炭化しており、置台内部の電源コード及び本体との電源接点部に焼損は認められない。
写真:置台の焼損状況
電源接続端子部及び制御基板に焼損は認められず、温度制御のサーミスタの電気抵抗値を確認すると同型品が302Ωであるのに対し焼損品が172Ωであるが、プログラム上安全側に故障しているため当該異常が出火に起因したものではない。
また、スイッチリレー接点の溶着は認められない。
写真:内部の焼損状況
各構成部を確認するが出火に至る痕跡が認められないため、焼損品の制御基板を同型品に組み込み作動確認を実施した。
熱板の中央に熱電対を貼付し、設定を「高」にして作動したところ設定温度上限の200℃到達時に温度制御がされず過熱防止装置の設定温度である270℃を超えた。
写真:作動確認の状況
試験の結果、制御基板部に不備があると推定されるが外観上の異常が認められないことから、メーカーが持ち帰りマイコン等の不具合箇所を確認し次のような見解を得た。
① マイコンの作動に異常はない。
② リレー作動回路の抵抗内蔵チップトランジスタが表面破壊している。
③ 抵抗内蔵チップトランジスタが正常に作動せず、サーミスタによる温度制御が不能になり、スイッチを切ってもリレーが作動し続けた。
④ 電源プラグをコンセントに差し込むとリレーが作動する。
⑤ 抵抗内蔵チップトランジスタが破壊した原因は、外部からの電気ストレス(過電圧、過電流等)によるものと考えられる。
⑥ 温度過昇防止装置のバイメタルが、仕様270℃±10℃より約40℃高い312.5℃のものが組み込まれていた。
図:アイロン電気回路図
(4)出火原因
電気アイロンに電圧が印加された状態でスイッチングリレー制御用の抵抗内蔵トランジスタが何らかの要因で故障し、リレーが作動しサーミスタでの温度制御がされないまま温度が上昇し続けた。
また、仕様では過熱防止のバイメタル作動温度が270℃であるものが、当該アイロンには312.5℃のバイメタルが組み込まれていたことから、仕様値の設定温度以上となり出火した。
(5)再発防止対策
この火災でメーカーは構造不完全であることを認めたため、回収等の類似火災防止対策を要望したものの、メーカー側は過去に類似事案の発生はなく多発性はないものとし、社告等の対応はとらずに今後の経過を注視するに留めることになった。
この対応について満足のいくものではないが、消費生活用製品安全法に基づき速やかに報告を行うよう依頼し、消防側は電気用品等火災等事故報告に基づく構造不完全として総務省消防庁に報告することをメーカーに伝えた。
2 投げ込み式湯沸し器
(1)火災概要
出火時刻 平成23年3月 16時15分頃
覚知時刻 平成23年3月 16時17分
鎮火時刻 平成23年3月 16時35分
建物用途 共同住宅
焼損程度 ぼや 脱衣場若干焼損
(2)火災発生時の状況
居住者が非常ベルの鳴動により火災に気付き、脱衣場の床に置いた投げ込み式湯沸し器(以下、「風呂ポット」という。)から火が出ているのを発見し粉末消火器で消火した。
風呂ポットは脱衣場に置かれ、電源はタイマーを介してコンセントに接続されており、 中間スイッチはONの状態である。
また、タイマーは午前5時12分で停止、午前4時に電源が入り同6時に電源が切れるようにセットされている。
写真:現場の焼損状況
(3)鑑識状況
<風呂ポット>
販売業者 ㈱津田商事
製品名 ハイパワー風呂ポット
型 式 TSEー22ーT(HI)
製造年月 2003年11月~2004年9月
本製品は、2004年11月から1年半の間に約1万台が通信販売されているが、中間スイッチを切らず浴槽から出した場合、フロートスイッチが正常に働かず火災が多発したため追加安全対策として電極式水感スイッチを無料配布するなどの改修等を行っている。
本製品は、追加安全装置が施されていない。
写真:外観の焼損状況
本体は、コントロールボックス、ヒーター及び器具配線を残し全て焼失している。
フロートは焼失し位置を確認することはできないが、X線透過装置でフロートスイッチ部のリードスイッチを観察すると閉回路であることが確認できる。
また、コントロールボックス上部に水温を感知する50℃のサーモスタットとコントロールボックス内部に60℃のサーモスタットが設置されている。
写真:フロートスイッチ部(矢印)サーモスタット(丸印)
リレー接点をX線透過装置で観察すると接点が閉じていることが確認できる。
コントロールボックスの樹脂を剥がしリレー接点を確認すると、接点が溶着し表面が荒れた状態が確認できる。
写真:接点の溶着状況(X線透過)
写真:リレースイッチ部(矢印)
写真:リレー接点の荒れ(×40)
(4)出火原因
安全装置として、フロートスイッチ及びコントロールボックス内部のサーモスタットにより電源が遮断される構造となっているが、フロートスイッチが正常に働かなったことに加え電源を遮断するリレー接点が溶着して常時通電状態となり、風呂ポットが浴槽から出されているときにタイマーのスイッチが入り、内部のサーモスタットが仕様値の設定温度で作動しなかったためヒーターが過熱し出火した。
なお、震災後の計画停電によりタイマーの時間がずれていたことも一つの要因と考えられる。
(5)再発防止対策
本製品は、追加安全対策後も使用者が配布された安全装置を正しく実装していない可能性もあり、経済産業省の指導により自ら回収し電極式水感スイッチを取り付けることとしている。
このようなことを踏まえ、早期の対応をメーカーに要望した。
3 観賞魚用ヒーター
(1)火災概要
出火時刻 平成23年4月 21時30分頃
覚知時刻 平成23年4月 21時40分
鎮火時刻 平成23年4月 21時53分
建物用途 住宅
焼損程度 ぼや 天井及び収容物若干焼損
(2)火災発生時の状況
居住者が午後3時から5時半まで水槽の掃除をした後、午後9時半頃音と臭いに気付き見に行くとダンボール箱から炎が上がっているのを発見し粉末消火器で消火した。
ヒーターとサーモスタットのセンサーは分離型で、センサーは水槽内にある一方でヒーターは焼損物の中から発見された。
写真:現場の焼損状況
(3)鑑識・実験状況
焼損した観賞魚用ヒーターには空焚き防止機能(温度ヒューズ:115℃)が設置されていたにも関わらず出火に至ったことから、安全装置の作動状況について実験を行った。
<実験内容>
同型品ヒーターの空気中での表面温度を観測し空焚き防止機能の作動状況について観察する。
<使用資機材>
赤外線サーモカメラ一式
写真:実験状況
<実験結果>
① 測定開始から40秒で300度を超え90秒後には500℃、最高温度は520℃に達し同時に温度ヒューズが作動した。
② 温度ヒューズが作動したのは測定開始から100秒後で、400℃以上の温度を保った時間は95秒間であった。
写真:温度測定位置
写真:最高温度到達時点のサーモグラフィー
空焚き防止機能の温度ヒューズは、一般的にセラミック管の中に発熱体とともに封入し絶縁材が充填されているため、空焚き状態で表面温度が異常な高温になっても伝熱に時間を要するので温度ヒューズが作動するまでにタイムラグが発生する。
出典:新火災調査教本「第3巻 電気火災編」
(4)出火原因
水槽を掃除する際にヒーターをごみの入ったダンボール箱の上に置き、清掃終了後にヒーターを水槽内に戻さずに通電したため、ヒーターに接触していた可燃物に着火したもの。
(5)再発防止対策
空焚き防止機能付のヒーターでも条件によっては火災に至る可能性があるというのはメーカーも認識しており、現在、協議会を設置し安全装置について見直しを図り平成24年度中に安全ガイドラインを発表する予定である。
本市においてもホームページで注意喚起を行っている。
4 おわりに
安全装置は火災に対して必ずしも万全ではないことを念頭に、製品火災に関しては、安全装置の作動状況等を踏まえてしっかりとした調査を行い、火災の危険を排除してくことが重要である。
平成22年中に812件の製品火災が発生しているなか、その8割が「原因を特定できない火災」とその数は際立っている。
1件でも多く「製品の不具合により発生したと判断される火災」と特定できるように原因究明能力を向上させる必要がある。
今後も、国民の安心安全な生活を守るため、鑑識技術のスキルアップを図っていきたい。