近年、居住環境の変化や製品技術の進歩に伴って出火原因も多様化しているなか、製品火災については、消防庁へ出火原因のみならず、製造者責任の有無、原因所見などを報告している。
本火災は、電気製品であるポータブルDVDプレイヤーが起因した火災であり、原因究明のため、総務省消防庁消防大学校消防研究センター(以下「消防研究センター」という。)の技術支援を受け、輸入業者立会いのもと鑑識見分を行い、出火原因を判定したところ類似火災発生の恐れがあることから、当該業者に再発防止対策を要望した結果、平成22年11月15日にリコールを公表したものである。
1 火災概要
(1)出火日時 平成21年12月19日 2時7分頃
(2)覚知日時 平成21年12月19日 2時16分(事後聞知)
(3)鎮火日時 平成21年12月19日 2時8分
(4)発生場所 静岡市清水区
(5)焼損状況 一般住宅居室内の床0.25㎡、ポータブルDVDプレイヤー、スチーム加湿器及びエアコン室内機の各1基を焼損したもの。
2 火災発生時状況
2階で就寝中の関係者が住宅用火災警報器の警報音で目を覚まし、急いで1階居室を確認すると、充電していたポータブルDVDプレイヤー付近が燃えていたので、付近にあったこたつ布団を被せ消火して、119番通報したもの。
3 焼損状況
(1) 現場見分
居室内を見分すると、壁上部に設置されているエアコン室内機は、外装樹脂が溶融しているが壁に焼損は認められない。
壁付コンセントには、電源プラグが1箇所差し込まれており、焼損は認められない。
床には、スチーム加湿器とポータブルDVDプレイヤーが確認でき、スチーム加湿器は外装樹脂が溶融し、内部ステンレス材及び構成部品が露出している。また、溶融しているスチーム加湿器の外装樹脂は、周囲に存在するポータブルDVDプレイヤーの一部及び各電気配線を覆って床に固着している。
写真:出火箇所の状況
(2) 消防研究センターへの技術支援
鑑識見分を実施するにあたり、スチーム加湿器外装樹脂の溶融により確認できない電気配線状況を非破壊により確認するため、消防研究センターへX線透過装置での撮影及び鑑識に係る技術支援を依頼する。
X線透過装置の撮影から、溶融した樹脂内部にテーブルタップ等は認められず、コンセントに差し込まれていない電源プラグが確認できる。関係者の供述からポータブルDVDプレイヤーを充電している供述があることから、ポータブルDVDプレイヤーの鑑識見分を行うこととする。
写真:X線透過装置での撮影状況
(3) 鑑識見分
ポータブルDVDプレイヤーを子細に見分するために、静岡市清水消防署において、輸入業者A社(以下「A社」という。)及び消防研究センター立会いのもと鑑識見分を実施する。
鑑識物件の詳細は以下のとおりである。
ア 品名:ポータブルDVDプレイヤー
イ 輸入業者:A社
ウ 製造台数:約10,000台
エ 過去の火災事故:2件(平成21年8月に大分県、熊本県で発生)
事前にA社へ提供を依頼した同型品と比較しながら、焼損品について見分する。
現場見分において壁付コンセントに差し込まれている電源プラグを確認すると、差し刃に焼損は認められず、差し刃根元部分には『<PS>E JET 7A 125V AMー023 AOMENG』と記載されており、同型品にも同様に、『<PS>E JET 7A 125V AMー023 AOMENG』と記載が認められる。
AC電源アダプター本体樹脂を剥がし内部基板を見分すると、一部電子部品に樹脂の固着が認められるが、焼損、溶融は確認できない。
写真:焼損品電源プラグ
写真:同型品電源プラグ
写真:AC電源アダプター内部
写真:電流ヒューズの状況
AC電源アダプター内部の電流ヒューズの導通を確認すると、0Ωと表示され導通状態であることが認められる。
同型品のポータブルDVDプレイヤー本体外装樹脂を開けると、液晶パネル、及びスピーカーが位置する。焼損品の液晶パネルは黒色に変色し、画面側の液晶については溶融してディスクカバーへ固着している。液晶パネル周囲樹脂は焼失しており、ポータブルDVDプレイヤー本体背面側に位置する基板は灰色に変色している。液晶パネルを剥がし内部表面を確認するとディスクカバー、及び操作キーが位置するが、焼損品は樹脂が一様に溶融し、操作キー内部部品が一部露出して原形を留めていない。
写真:液晶パネル及び基板
写真:液晶パネル及びディスクカバー
さらに、ディスクカバー側本体内部の各構成部品を展開し見分する。
焼損品構成部品は、基板A、B、C及び各基板を繋ぐコネクタ、配線が確認できる。中央部に位置する基板Cは焼損が認められず、基板A、Bは外周部に位置する箇所は黒色に変色しているが電子部品及び基板上にクラックなどの破損は認められない。また、各基板に繋がるコネクタ及び配線に溶融は確認できない。裏面については、煤が付着しているが焼損は認められない。
写真:各構成部品展開状況
基板内の電源スイッチ素子から導通状態を確認すると、電源スイッチONの位置はO.Lと表示され導通はしていなく、電源スイッチOFFの位置は0Ωと表示され導通状態であることが確認できる。
写真:電源スイッチON
写真:電源スイッチOFF
ポータブルDVDプレイヤー本体からバッテリーを取り外し見分する。
バッテリーケーシングを剥がし、バッテリー内部を確認すると外装缶(アルミ)中央部が茶褐色に変色し一部溶融している。
また、バッテリー内部の基板は黒色に変色しており、配線被覆は煤が付着している。
基板裏側に位置するバッテリーの接点箇所に溶融は認められない。
バッテリー内部は、外装缶(アルミ)に包まれているリチウムポリマー電池が2個重なっており、電池内は層状にセルが形成されている。
2個のリチウムポリマー電池の外装缶(アルミ)を剥がし電池内のセルを確認すると、下方の電池は、セルが層状に形成されているが、上方の電池については、セルの中心部から炭化し原形を留めていない。
写真:バッテリー内部基板及び配線被覆/写真:バッテリー接点箇所
写真:リチウムポリマー電池の状況
写真:セルの焼損状況
4 出火原因の検討
(1) X線透過装置で溶融した樹脂内を確認すると、コンセントに差し込まれていない電源プラグが確認でき、鑑識時焼損品の電源プラグと同型品の電源プラグが同一であることから、出火当時壁付コンセントにはポータブルDVDプレイヤーの電源プラグが差し込まれており、スチーム加湿器は使用していないことが見分できる。
(2) AC電源アダプター本体は、内部基板、電子部品に破損及び焼損は認められず、電流ヒューズについても正常であることから、AC電源アダプター関係からの出火は否定される。
(3) ポータブルDVDプレイヤー本体内部の各基板にクラックなどの破損は認められず、中央部に位置する基板Cに焼損が確認できない。また各基板に繋がるコネクタ及び配線に溶融が認められないことから、ポータブルDVDプレイヤー本体内部の各基板からの出火の可能性は低いと考えられる。
(4) 基板内の電源スイッチがOFF状態で導通が確認されたことから、充電中のポータブルDVDプレイヤー本体は、電源OFF状態で充電し、蓄電回路のみ印加していることが明らかである。
(5) バッテリーの接点箇所に溶融は認められないことから、ポータブルDVDプレイヤー本体とバッテリーの接続部からの出火は否定される。
(6) バッテリー内部にある2個のリチウムポリマー電池の片方は、セルが層状に形成されているのに対し、もう片方は、セル中央部から炭化し原形を留めていない。
5 出火原因
本火災の出火原因は、ポータブルDVDプレイヤー本体バッテリー内部のリチウムポリマー電池内において、充電中に何らかの異常により短絡を起こし出火したもの。
6 再発防止対策
同機種は、全国で約10,000台販売されており、類似火災が熊本県、大分県に続いて静岡市が3件目で、出火原因から製造者責任が有ると判断し、本市消防局ではA社に対して、同機種からの再発防止の検討及び追跡調査の実施を要望した。
7 リコール内容
A社は、自社製品からの火災(重大事故)を重く受け止め、経済産業省と協議し、平成22年11月15日にリコールを公表した。
8 おわりに
本市消防局は、消防研究センターの協力によって鑑識物件を選定し、原因究明から全国規模で同種火災による再発防止に繋げることができたものと考えています。
今後、出火原因が複雑化するなか、火災原因調査の技術向上を図るとともに、本火災事例が全国の消防本部の予防施策に少しでも寄与できることを願っております。