はじめに
台所では、調理のための様々な電化製品が活躍している。なかでも単機能電子レンジは、直接火を使わず煮物、炒め物等の加熱ができ、立ち消えの心配もなく、着衣着火の事故も防止できるとあって、高齢者だけでなく、一般の家庭でも料理には必須で一家に一台の割合で普及している。
今回はこの安全で便利なイメージのある単機能電子レンジの出火事例を紹介する。
1.発生概要
耐火構造10階建て共同住宅5階の部屋の台所で、一人暮らし女性が、夕食の準備のためプラスチック製容器(冷 凍・電子レンジ解凍可能)にいれた冷凍ご飯を解凍しようとして、操作パネルの「あたため」キーを選択しタイマーつまみを2分にセットしてスタートさせ(タイマーつまみを回すと加熱開始)加熱中、開始からおよそ30秒後焦げ臭くなったためタイマーを0にして使用を中止したところ、レンジ右後部及び右側にある排気孔から少量の白煙が見えたので電源プラグを抜き、廊下に持ち出す。その後、屋外に持ち出す間にレンジドア右側と操作パネルとの隙間から炎が見え始め、搬出後に炎が大きくなり、操作パネル部分が溶融・脱落し炎が噴出、電子レンジを焼失した。(写真1参照)
写真1
2.使用していた単機能電子レンジの概要
- (1)電子レンジ(A社製)の仕様
- ・製造年月 1999年1ー6月期
- ・輸入販売期間・台数 1995~1999 72,219台
- ・中国製
- ・交流100V
- ・消費電力 950W
(高周波出力、500W時) - ・タイマー操作機能付き
①調理キーの種類
A社製品には、生ものの解凍のための「生解凍」キー及び温めや下ごしらえのための「あたため」キーがある。 (図1参照)図1
- ・「生解凍」キーでの加熱
キーを押すと、120W相当の弱火で生ものを解凍する。 - ・「あたため」キーでの加熱
キーを押すと、500Wの強火で温めや下ごしらえに使用する。
- ・「生解凍」キーでの加熱
- ②安全機能
- ・温度過昇防止機能
サーミスタによる温度制御で、通電を自動的に停止する。 - ・ドアスイッチ機能
閉めることで自動的に通電される。 - ・モニター機能
ドア開閉状態の監視 - ・ラッチ機能
ロック作動感知 - ・マイクロ機能
出力制御・切替機能 - ・電源ラインヒューズ
- ・温度過昇防止機能
3.事故品の焼損状況等
- (1)事故品の焼損状況を「写真1ー6」に示す。
事故品は、本体前面の合成樹脂スイッチパネルが溶融脱落し、内部の配線及びスイッチ素子等の電装品が焼損していた。
また、ドア前面及び内面の合成樹脂製パネルも溶融・脱落しており、庫内も全体に煤けていた。なお、背面及び左側面外郭パネルは、前面に近い部分ほど焼損が大きい状況であった。「写真ー2~5」写真ー2 正面
写真ー3 背面
写真ー4 左側面
写真ー5 右側面
写真ー6 底面
写真ー7 カバー
- (2)左右側面及び天井が一体となった本体外郭パネルを取り外し、本体右側の前面スイッチパネルの裏面に実装 されていた電装品及び配線等の焼損状況を「写真ー8」、事故品の回路図を「写真ー12」に示す。
写真ー8 電装品等焼損状況
写真ー9① 雑音防止フィルター基板
写真ー9② 雑音防止フィルター基板取外し
写真ー10
写真ー11 ①・②
写真ー11 ③・⑨
写真ー11 ④
写真ー11 ⑤
写真ー11 ⑥
写真ー11 ⑧
写真ー11 ⑨
写真12 回路図及びスイッチ
本体底面から挿入された電源コードは、雑音防止フィルター基板に入力接続され、当該部から各制御部品(ドアスイッチ、ラッチスイッチ、タイマー等「写真ー11①②③④⑨」)を経て、高圧トランス及びマグネトロン部へ「写真ー9⑥」給電されていた。
内部では、雑音防止フィルター基板部「写真ー11⑧」から上方、及びスイッチパネル裏面付近の電装品及び配線が著しく焼損していたものの、それらの後方背面側に設置されている高圧トランス、マグネトロン、高圧コンデンサ及び冷却ファンの焼損はほとんどなく、それらに接続されている配線の焼損も極めて軽微であった。 - (3)電源コードの雑音防止フィルター基板部への入力部では、絶縁被覆が焼失し、芯線が露出していたものの、 短絡等による溶融痕は認められず、基板に実装されたヒューズ(定格15A)も溶断していなかった。
また、雑音防止フィルターから基板部からの出力を各電装品に接続する配線部では、絶縁被覆が焼失し、芯線が露出している部分があったものの、短絡等による溶融痕は認められなかった。(写真ー8・9) - (4)電源コードから、雑音防止フィルター基板部を経て、各電装部に接続される配線及び焼損したスイッチ類等 の電装部品を取り外し、展開した状況を写真ー10に示す。
配線の焼損状況は、3において述べたとおり、絶縁被覆が焼失して芯線が露出した部分には短絡等の溶融痕は認められなかった。(写真ー11)
また、ドアスイッチ、ラッチスイッチ、モニタースイッチ、タイマー及び出力切替スイッチは、焼損が著しかった。特にスイッチパネル裏面及びその付近に装着されたドアスイッチ、ラッチスイッチ、モニタースイッチ及び出力切替スイッチは、合成樹脂製の外郭がほぼ焼失し、内部の接点金具等の不燃物が配線側のファストン端子 と接続されたまま残存している状態であった。(写真11ー①②③④⑤⑨)
一方、スイッチパネル裏面から離れた場所に装着された、サーマルリミッター及び庫内灯への配線は芯線が露 出していたものの、それぞれの本体そのものの焼損は軽微であった。(写真ー11⑨⑩)
さらに、高圧トランス一次側への接続配線、ファンモーターへの接続配線及びターンテーブルギヤードモーターへの接続配線の焼損も軽微であり、それぞれの本体も概ね健全な状態であった。(写真ー9)
4.事故原因の推定等
事故品の焼損は、明らかに内部からの出火によるものであり、分解調査を行った結果、出火箇所及び原因等について次のように推定された。
- (1)事故品の焼損状況からすると、正面スイッチパネルから出火し、周辺に延焼していった可能性が最も大きいと考えられる。
- (2)本体底面を貫通した電源コードが接続される雑音防止フィルター基板部では、基板上に実装されたコンデンサ及び抵抗等の素子が焼損していたものの、基板自体の焼損は比較的軽微であった。
また、基板上に実装されていた電源ヒューズ(定格15A)が熱溶断していなかったことから、当該基板部の焼損は、基板自体からの出火ではなく、他の箇所からの熱影響によるものと考えられる。 - (3)(2)に関連して、電源ヒューズが電気的にも溶断していなかったこと、焼失して芯線が露出した内部配線に短絡等による溶痕が見られなかったこと及び高電圧発生回路側にも異常が見られなかったことから、短絡等の過電流による出火の可能性は極めて小さいと考えられる。
- (4)出火元の可能性が最も大きいスイッチパネルの裏面及びその付近には、ドアスイッチ、ラッチスイッチ、モニタースイッチ、タイマースイッチ及び出力切替スイッチなどの機械的電気接点部品が装着されており、いずれも合成樹脂製外郭が焼失するなど、焼損が著しかった。
なお、これらの接点部品と配線との接続には、ファストン端子が使用されていたが、いずれの接続部においても緩み等はなかった。 - (5)(1)~(4)から、ドアスイッチ、ラッチスイッチ、モニタースイッチ、タイマースイッチ及び出力切替スイッチなどの機械的電気接点部品のいずれかにおいて、内部接点の接触抵抗増大、接点周囲の樹脂部品の経時的劣化等によるトラッキングなどの原因により過熱・出火した可能性が最も大きいものと推定される。ただし、これらの接点部及び周囲の樹脂部品は焼損が著しく、特定するのは困難である。