消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(57)
車両火災「自動車電機系チューニングパーツ」から出火した火災について

 本件火災は、駐車場に駐車中の平成9年式普通乗用車の機関部バッテリーに取り付けられた部品1基を焼損した火災で、機器の構造及び出火原因究明のため、総務省消防庁消防大学校消防研究センター火災災害調査部原因調査室(以降「消防研究センター」と記載する。)の技術支援を受け、メーカー立会いのもと合同で実況見分を実施した事例である。

1 火災概要

(1) 出火日時
平成21年11月14日(土)4時45分頃
(2) 覚知日時
平成21年11月14日(土)4時58分
(3) 鎮火日時
平成21年11月14日(土)5時47分
(4) 出火場所
横浜市鶴見区
(5) 被害状況
平成9年式普通乗用車の機関部バッテリーに取り付けられた部品1基焼損
(6) 気象状況
天候:雨 風向:北 風速:1.8m/s
気温:13.8℃ 湿度:87%
実効湿度:75%
(11月14日3時現在横浜地方気象台発表)

2 焼損状況

(1)第1回実況見分
 発見・通報者は、車のボンネットから煙が出ていたと口述しており、車両の外観や車室内といった車体そのものに焼損は認められず、焼損箇所はエンジンルーム内のバッテリー後方に設置された箱形部品に限定されている。(写真No. 1)

56p

写真No. 1

 箱形部品は、粘着性の両面テープで車体側に固定されており、縦幅約8.5㎝、横幅約5.5㎝、高さ約2㎝の金属製のケースで、先端部及び底部は合成樹脂材で構成され、これらは共に焼損溶融し、表面がやや光沢を帯び炭化した状態で見分される。
 ケース先端からは、直径約6㎜の2本のケーブルコードが延びている。
 2本のケーブルコードは、合成樹脂製の被覆で覆われ、ケース先端部付近の被覆が黒く焼損し溶融しているが、芯線の露出には至らず、ケーブルコードに断線や溶痕は見分されない。(写真No. 2)

57p_01

写真No. 2

 箱形部品の裏面を見分すると、周囲が薄茶色に変色し、中央付近に黒く焼損した両面テープの一部が付着しているが、金属製の箱形部品本体に亀裂や損傷箇所は見分されず、車体とのショート痕等も認められない。(写真No. 3、4)

57p_02

写真No. 3 箱型部品の表と裏側

57p_03

写真No. 4 箱型部品取り付け場所

(2)第2回実況見分
 箱形部品を詳細に見分するため、横浜市消防訓練センターにおいて、消防研究センターの技術支援を受け、メーカー立会いのもと合同で実況見分を実施した。
 メーカーから同型機器の提供を受け、比較しながら見分を進めた。(写真No. 5)

57p_04

写真No. 5 焼損した箱型部品と同型部品

 メーカーの説明によると、この箱形部品は、バッテリーのプラス及びマイナス端子に取り付けて使用し、車載バッテリーの電力が不足する場合に、製品の持つ蓄電システムから安定的に電気を供給することにより、燃費向上、パワーアップ、排ガス浄化などが図られる「自動車電気系チューニングパーツ」で、46,000台強の販売実績があり、他にも二輪車用を含め数種類のタイプを販売しているとのことである。
 この製品は、2本のケーブルコードと、緑色のアルマイト処理が施されたアルミニウム製の本体で構成され、本体の両端は合成樹脂材で形成され、内部はコンデンサーやヒューズが組み込まれた基板が内蔵されている。本体の外形は、縦幅約8.5㎝、横幅約5.5㎝、高さ約2㎝で表面の右寄りに縦縞のスリット模様が刻まれ、先端左付近に直径約8㎜の穴が開いている。
 まずケーブルコードを比較すると、焼損したケーブルコードは、緑色のスケルトンカラーの被覆で覆われ、先端部が黒く焼損し被覆が焼失しているが、中央付近では煤の付着が認められるものの原形を保っている。
 焼損した製品の本体は、茶色に変色しているが、ケースに変形や溶融した箇所は認められない。両端の合成樹脂材はほとんど焼失している。
 続いて先端が黒く塗色され、本体接続側の先端部に金属製の端子とネジ類が固着している状態のケーブルコード(以降「マイナスコード」と記載する。)と、先端が赤く塗色され、本体接続側の先端が球状に溶融した状態で見分されるケーブルコード(以降「プラスコード」と記載する。)の2本を仔細に見分する。
 2本のコードは、共に本体接続側の先端が焼損し、合成樹脂製の被覆は溶融し表面が黒く変色しており、本体接続側先端部から約5㎝の範囲では被覆が焼失し芯線が露出している。
 露出した芯線は、表面に煤や炭化物が付着し黒く変色した状態で見分される。
 プラスコードは、先端に直径約5㎜の球状の金属が溶融し固着している。
 マイナスコードは、先端にボルトとナットが固着し、このボルトとナットに黒く焼損し炭化した基板の一部分が挟まれた状態で見分される。(写真No. 6)

58p

写真No. 6 本体側のケーブルコード

 ここで、同型部品のケーブルコードと比較すると、同型部品のケーブルコード先端部は圧着式のリングターミナルが取り付けられ、圧着部は識別を兼ねた赤と黒の絶縁被覆で覆われている。
 マイナスコードの本体側先端部で、ボルトとナットに挟まれた状態で見分される焼損した基板の抵抗値をテスターで計測すると、8.7Ωのデジタル値が表示される。
 さらに測定箇所を数箇所変えて測定するが、それぞれ同様に、テスターは10Ω前後の数値を示し、箱形部品のマイナスコード先端に挟まれた基板は導通状態にある事が確認された。(写真No. 7)

59p_01

写真No. 7 基板の抵抗値を計測

 2本のケーブルコードを超音波洗浄機で洗浄し見分すると、マイナスコード先端部には、表面が溶融し光沢を帯びたボルト及びナットが固着した状態で見分され、プラスコード先端部は溶融し光沢を帯びた溶痕状の金属が見分される。(写真No. 8)

59p_02

写真No. 8 超音波洗浄したケーブルコード

 本体内部を見分するため、本体を上下に切断すると、本体底部は、全面が黒く焼損し炭化物が付着している。
 本体上部には、全面が黒く焼損した基板が見分され、プラスコードが接続される基板先端右側ではボルトとナットが基板を挟む様に見分され、ボルト及びナットは表面が丸みを帯びた状態で焼損し、リングターミナルは焼失している。
 マイナスコードが接続される基板左先端部では基板の一部が焼失または欠けた状態で見分され、基板にボルトとナットは見分されない。(写真No. 9、10)

59p_03

写真No. 9 本体を切断した状況

59p_04

写真No. 10 基盤を取り外した状態

 切断した本体上部の基板を取り外し、同型品の基盤と比較し見分を進める。
 同型品の基盤表面は、25V470マイクロファラッドの電解コンデンサーが4個並列に配置され、コンデンサー上方には、ゼナーダイオードとチップ型ヒューズが設置されている。立会人に説明を求めると、コンデンサーに溜めた電気をバッテリーの電力が少なくなったときに放電するとのことで、ダイオードは逆接続保護目的、ヒューズは安全装置であり、ヒューズの許容電流は10アンペアとのことである。(写真No. 11)

60p_01

写真No. 11 製品回路

 焼損した基盤は、全体的に炭化しており、特にマイナス端子付近は焼失して欠損している。
 ゼナーダイオードは、全体が焼け表面が灰色に変色炭化し、ひび割れている。小型のチップ型ヒューズも全体が焼損し欠損した状態で見分され、これを同型品と比較すると半分程の大きさになっている。(写真No. 12)

60p_02

写真No. 12 基盤表面の比較

 焼損した基盤裏面は、表面同様に全面が黒く焼損し、プラス端子接続部ではボルトやナットが残存しており、マイナス端子周辺は半円状に欠けた状態で見分される。
 マイナスドライバーを用い、表面の炭化物を削り落とすと中央付近に基板の銅箔が見分されるが、プラス端子周辺や基板が半円状に欠けた状態で見分されるマイナス端子周辺では銅箔は焼失し見分されない。(写真No. 13)

60p_03

写真No. 13 基盤裏面の比較

 焼損したコンデンサーは表面に黒い炭化物が付着し、所々表面に付着した炭化物や煤が焼け灰化し、さらに一部で地金が露出し白色に変色している。コンデンサー表面の地金が露出し白く変色している範囲は、右側のC1コンデンサーから左側のC4コンデンサーに向かうにしたがい広い範囲で見分される。
 さらにコンデンサーは4個共に底部が焼失し、焼失箇所から内部を見分するとコンデンサー内部は黒く焼損している。
 また、コンデンサー底部から基板へ接続される2本の端子を見分すると、4個のコンデンサー全てにおいて、左側の端子は焼損しているものの原形を保っているのに対し、右側の端子は溶融し断線した状態で見分され、これを同型品と比較すると溶融した端子はプラス側の端子である事が確認される。(写真No. 14)

61p_01

写真No. 14 焼損したコンデンサー底部

 コンデンサー頭部の防爆弁は、左端のC4と隣接するC3コンデンサーに亀裂が入っているが、オープン状態には至らず、他の2個のコンデンサーの防爆弁も同型品と比較すると微かに膨張した形跡が認められるものの、閉じた状態で見分され、ケースや電極箔等が飛散した形跡は認められない。(写真No. 15)

61p_02

写真No. 15 焼損したコンデンサー頭部

 C4コンデンサーを基板から外し、金属製のケースを開くと、コンデンサー内部には誘電体を形成するフィルムが見分され、これを取り出し展開すると、フィルムは茶色に変色し表面に微小の黒い炭化物や煤の付着が認められるものの、フィルム自体に焼損は認められず、表面の電極箔にも欠損箇所やショート痕は認められず、ほぼ原形を保った状態で見分される。(写真No. 16)

61p_03

写真No. 16 C4コンデンサー内部

3 実況見分結果

(1) 発見通報者がボンネットから煙が出ていたと口述しているが、車両の外観や車室内といった車体そのものに焼損は認められず、焼損箇所はエンジンルーム内のバッテリー後方に設置された箱形部品に限定される。

(2) 箱形部品は「自動車電気系チューニングパーツ」で、2本のケーブルコードと緑色のアルマイト処理が施されたアルミニウム製の本体で構成され、本体の両端は合成樹脂材で形成されている。内部はコンデンサーやヒューズが組み込まれた基板が内蔵されている。

(3) 車両のバッテリー端子に直接接続して使用するため、エンジンの始動の有無に係わらず常時電圧が印加された状態にある。

(4) 「自動車電気系チューニングパーツ」外観は、焼損し茶色く変色しているものの金属本来の光沢を帯びて黄金色にも見られる状態であるが、内部は黒く焼損し炭化物が付着しており、基板も全面が黒く焼損し炭化していることから、内部からの出火が考察される。

(5) 基板上にあるコンデンサーC1からC4は底部が焼失しており、プラス側の端子が溶融し、コンデンサー頭部の防爆弁は、C4とC3コンデンサーに亀裂がみられるものの、C4コンデンサー内部のフィルム自体には焼損は認められず、表面の電極箔にも欠損箇所やショート痕がないことから、コンデンサー内部で短絡等が起こって出火した状況は認められず、二次的に焼損したものと考えられる。

(6) 基板上のマイナスコードが接続される端子接続部付近が焼失・欠損し、銅箔も両端子接続部周辺が溶融して残存していないことから、端子接続部付近の基板上で絶縁破壊が起こり、トラッキング等の電気的異常が発生した可能性が高い。

4 出火原因

 実況見分結果から、出火原因にあっては、後付部品である「自動車電気系チューニングパーツ」のケーブル端子接続部付近の基板上で絶縁破壊が起こり、トラッキング等の電気的異常が発生し、基盤上の電気配線等の可燃物に着火し出火したものと考えられる。

5 まとめ

 今回の「自動車電気系チューニングパーツ」は、バッテリーに直接取り付けて内部のコンデンサーに電気を溜めておき、大きな負荷がかかった時に蓄電した電気を放電して各電装部品・点火系への供給電力を安定させることにより車両の持つ潜在能力を引き出そうとするもので、装着の効能として燃費向上、トルクアップ、レスポンスアップ、ヘッドライトの照度の向上、クリーン排気、電装品への負荷軽減、オーディオノイズの軽減、バッテリー寿命の延長が謳われている。
 メーカーの話では当該製品は2004年から現在まで46,000台が製造販売されており、類似品も海外から入ってきている。事故事例としては、ケーブルコードのプラス、マイナスの取り付け違いによって内部が燃えた事故等が報告されているとのことである。
 量販店でも購入できて取り付けも自分で簡単にでき、また、インターネットでは自作方法も出ているが、電気系の改造には注意が必要である。
 当市において類似火災は報告されていないが、全国では類似火災が散見されるため、消防研究センターでは今後も注目していくとのことであった。